いつでも元気

2006年2月1日

特集1 保険証だけでは医療受けられない? 高齢者の負担が2倍、3倍に!

 高齢者の医療費負担を二倍、三倍に!? びっくりするような医療改悪案の骨子「医療制度改革大綱」(以下、大綱)を一二月一日、政府・与党が決定 しました。この「大綱」にもとづき、来年の通常国会に医療制度「改革」案が出るといいます。「大綱」のねらいは何か。中央社会保障推進協議会の相野谷安孝 事務局次長(全日本民医連理事)にききました。

図1 日本の医療制度の国際的評価はトップクラス
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図2 「医療費適正化」というが問題にしているのは医療給付費だけ
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 ―「大綱」のいちばんのねらいは?
 高齢者の負担増も大問題ですが、最大の問題点は「公的保険給付の内容・範囲の見直し」と市場化です。つまり、日本の医療制度を公的医療保険だけでは必要 な医療が受けられない制度に変えてしまうことです。公的保険がカバーする治療や薬の範囲を狭めることで国の財政負担を削り、カバーしない医療や薬は「必要 なら自己負担でどうぞ」という方向です。
 背景には財界の要求もあります。公的保険の対象となる医療の範囲を狭めれば、後は自己負担になる。そうすれば「ふだんから民間の保険に入って、いざとい うときにそなえよう」という話になりますね。これで大喜びするのは入院保険やガン保険などを販売している生命保険・損害保険会社ではないでしょうか。

日本の医療費は世界でも「安い」

 ―保険のテレビCMもすごいですね。ただ、医療費の抑制は必要なのでは?
 政府は「日本の医療費は高い」といいますが、本当でしょうか。世界保健機関(WHO)による医療制度の国際比較(二〇〇〇年)では、日本は健康達成度の 総合評価で世界第一位、平等性で第三位。一方でGDP(国内総生産)に占める医療費の割合は、一八位です(図1)。つまり、安い費用で国民の健康を改善し てきたのです。その背景には、保険証一枚でどこでもだれでも安心して必要な医療が受けられるしくみと、医療従事者の献身的な努力があります。
 また「医療費」抑制といいながら政府がいま問題にしているのは「給付費」だけです。給付費は治療費のうち窓口負担を除いた医療保険から出るお金です。企 業負担や国の負担に影響する保険の費用のみを問題にしているのです。患者負担をふくめた医療費全体の伸びは二の次です。
 図2は、「大綱」のもとになった「医療制度改革試案」に添付された図です。「医療費適正化の効果」といいますが、「医療給付費」しか問題にしていないでしょう。
 この給付費が二〇年後に現在の倍の五六兆円にふくれあがるといって、それを七兆円抑制するというのが厚労省の試案。政府の諮問機関「経済財政諮問会議」 の「民間議員」(日本経団連の奥田会長など財界メンバー)は「その程度では生ぬるい、さらに七兆円抑制しろ」といいます。
 仮に総枠の医療費(六五兆円)が下がらず給付費のみを圧縮すると、単純計算で給付費が四九兆円なら、患者負担は四割、四二兆円なら五割になります。ふだ ん払う保険料も含めれば、医療費の六~七割は本人の負担になります。
 ―そんなお金払えませんよ。

怪しい政府の医療費予測

 医療費や給付費の見通しそのものについても疑問があります。厚生労働省は以前から二〇二五年度の医療費予 測を発表してきましたが、異常なくらい「目減り」しているのです。一九九四年の「厚生白書」の予測では一四一兆円だったのが、今回は六五兆円。医療「改 革」の成果だというのかもしれませんがバナナのたたき売りでもあるまいし、将来予測が一一年で半減するというのもおかしな話です。
 過大な将来予測額を示し、「こんな負担には耐えられないだろう、だから負担増をがまんしろ」という改悪の正当化があるのではないでしょうか。「二〇二五 年度は給付費は五六兆円、今の倍になる」という予測も、疑わしいものです。
 給付費を抑えても医療費全体は抑制されません。高齢化が進めば必要な医療が増えます。増えざるを得ない費用と押さえ込まれた給付費との差を次々に患者と 国民に押しつけるしくみをつくる。それが「大綱」のめざす医療改革で、厚労省が「構造改革」と名づけた理由です。

だからこそ民間保険?
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高齢者から新たに保険料徴収

 ―では「大綱」の具体的な中身は?
 特徴は、まず何といっても高齢者いじめですね。長期入院(療養病棟)が必要な高齢者にあらたに水光熱費、調理コストとして負担増をもとめます。月約三万 二〇〇〇円の増額といわれています。
 また七〇歳以上は現在原則一割負担ですが、これを七四歳まで二割にします(〇八年から)。そして七〇歳以上で「現役並み」の所得がある人は現在の二割負 担を三割にする(〇六年一〇月から)。
 また、〇八年には「新たな高齢者医療制度」をつくって、七五歳以上のすべての人から保険料をとるようにするといいます。たとえ被扶養者(家族)でも、七 五歳になったら保険料を払わなくてはなりません。保険料は平均七万二〇〇〇円(月六〇〇〇円)という試算が出ています。
「高齢者医療保険制度」により新たに保険料をとられる高齢者は二五〇万人と試算されています。介護保険料とあわせると月一万円以上、年金から引かれる。
 さらに六五歳~七四歳の国保料も年金から天引きするようにするといいます。
 これら高齢者の負担増は、〇七年から退職がはじまる団塊の世代が医療費を使うようになる前に負担を重くしておくこともねらったものです。

患者負担はいまでも重い!
健康破壊の医療改革

“病院には連れてくるな!”

 つぎに「終末期医療患者に対する在宅医療の充実」の問題です。
 現在病気で亡くなる方の八割は、病院で亡くなっています。つまり家で亡くなる方は二割ですが、これを四割に引き上げようというのです。在宅死を二割増せ ば、二〇二五年までに、医療給付費を五〇〇〇億円削れるとしています。
 厚生労働省のある課長は、講演会で「終末期医療の適切な評価」とは「家で死ねっていうこと」「病院には連れてくるなということだ」と説明しています。
 ―人生の最期もお金が左右するとは。

患者の実効負担率の国際比較
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予防の重視というなら

 第三に「予防の重視」です。生活習慣病の予防のために健診・保健指導実施率の目標を設定し、保険者(保険 組合)に健診・保健指導を義務づけます。医療制度改革「大綱」の元となった医療制度改革試案(「以下、試案」)では、二〇一五年度までに生活習慣病患者・ 予備群を二五%減らす目標も掲げていました。
 ―それはよいことでは?
 介護保険の「改革」が「予防重視型システムへの転換」などと称して、軽度介護者のサービスを抑制・切り捨てたことを忘れてはなりません。本当に病気を予 防するなら、医療改悪のたびに増やされた窓口負担を改悪前に戻すことが先決です。あいつぐ社会保障の改悪で「おかずを減らした」「一日二食にした」などの 話があふれています。この間の社会保障改悪が健康を破壊し、生活習慣病予備軍をつくりだしている可能性すらあります。

診療報酬の引き下げ

 第四に診療報酬の引き下げです。「大綱」は〇六年度、診療報酬を引き下げるといいます。財務省は医療費へ の国庫負担を五〇〇〇億円削減する目標を掲げました。しかし「大綱」ですぐ医療費削減につながるのは高齢者の窓口負担増だけで九〇〇億円しかない。残りの 四〇〇〇億円余りのほとんどを医療機関へ支払う診療報酬の引き下げで実現する動きが強まりました。結局政府は三・一六%引き下げの方針を決め、二四〇〇億 円の削減にとどまりましたが、過去最大の引き下げです。医療現場で働く労働者のリストラ・賃下げ、労働のいっそうの過密化を迫り、「大綱」がかかげた「安 心・信頼の医療の確立」自体を危うくします。

「保険免責制度」にも注意必要

 「大綱」では見送られましたが、「保険免責制度」を経済財政諮問会議の民間議員が提案しており、注意が必要です。
 「保険免責制度」とは一定額を保険からはずす制度です。仮に免責額を一〇〇〇円とします。治療費が五〇〇〇円かかった場合、現在は三割負担の人は一五〇 〇円を払いますね。ところが一〇〇〇円が免責されると、五〇〇〇円のうち一〇〇〇円までは保険がきかず自己負担。加えて残り四〇〇〇円の三割を払うので す。一〇〇〇円+一二〇〇円で計二二〇〇円。実際の負担割合は四割をこえます。

「構造改革」のラベル疑って

 ―私たちはどうすればいいのでしょう。
 国民の生きる権利を守る、本当の医療制度改革が必要です。必要な医療費を確保するという大原則を確立しなくては。
 いま政府は「構造改革」「官から民へ」と称して、国が果たすべき責任を民間に丸投げしています。「企業(民間)が競争すれば、効率よく質のよいものが生 まれる」といいますが、その結果が、昨年のJR西日本の悲惨な列車転覆事故、耐震強度偽装問題だったのではないでしょうか。日本社会の「安全・安心」の崩 壊という最悪のつけがもたらされているのです。
 医療まで「構造改革」に押し流されては国民の安全・安心が失われます。私たちは、「構造改革」のラベルを疑い、批判の声をあげる必要があるのでは。医・ 食・職・住が脅かされ、不信の種となっている今日、大企業・財界の勝手を許さず、安心と信頼を取り戻す国民の大きな合意づくりが求められていると思いま す。

こんなことが起きるかも?

 医療制度改革「大綱」に示された「生活習慣病予防」「健診の義務づけ」は、医療給付費の抑制が目的です。これに最近はやりの「自己責任」「自律・自助」が重なると、冗談のようですが、将来はこんなことが現実になるかもしれません。

健診を受けなかったから?
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生活習慣病予防のために、保険者に健診を義務づけました。健診を受けなかったのはあなたですよね? 健診を受けずにガンになってしまったのだから、あなた にも責任があります。他の人より多く医療費を負担してもらいます。

国のお金は使えません
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病気の予防を呼びかけているのに、健康を害する行為はいただけません。健康を維持する努力を怠った人に、国民のお金を使うなんてとんでもない!

 
民間の保険ではしてますよ
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健康診断で結果が悪かったら、保険料値上げは当然。医者にかかってお金をたくさん使う可能性がありますからね! 応分の負担をしてもらいます。

いつでも元気 2006.2 No.172

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