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2019年4月16日

これでばっちりニュースな言葉 自衛隊に個人情報提供 プライバシーの侵害 京都第一法律事務所 弁護士 こたえる人 尾﨑 彰俊さん

 京都市が、新規自衛官適齢者の氏名や住所、性別を記した名簿を自衛隊京都地方協力本部に提供しようとしていることが明らかになりました。京都第一法律事務所の弁護士・尾﨑彰俊さんが解説します。

■自衛隊に宛名シール提供

 近時、自衛官の希望者が減少しています。2012年度の自衛官候補生の応募数は、3万4038人でしたが、2017年度には、2万7510人と約6000人も減少しています(2013年、2018年『防衛白書』参照)。このような状況を受けて、全国各地で、自衛官募集の動きが強まっており、この動きに協力する市町村もあります。特に、京都市では、個人情報を宛名シールにして、自衛隊に提供することが新聞報道で明らかとなり大問題となっています。
 2018年11月、「京都新聞」の報道から、京都市が、自衛官の募集に協力することを目的として、2019年度以降、住民基本台帳に登載された情報にもとづいて18歳(高等学校卒業年齢)、22歳(大学卒業年齢)に達する市民の宛名シールを作成し、本人の同意なしに自衛隊京都地方協力本部に提供する方針を決めたことが明らかとなりました。京都市の方針に対して、多くの市民から反対の声があがり、「わたしの個人情報を守って! 市民の会」が結成されました。当初京都市は、市民から提供停止の申請があっても「提供する」と議会で答弁していましたが、市民の反対運動で、市民から提供停止の申請があれば、「除外する」と態度を変えました。
 しかし京都市は、統一地方選挙の翌日4月8日、宛名シールを自衛隊京都地方協力本部へ提供しました。

■私生活を脅かす

 プライバシーの権利は、裁判例・学説では、「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」と考えられており、日本国憲法によって保障された権利です(13条)。仮に、自衛隊地方協力本部に個人情報が提供された場合、提供された情報をもとに自衛隊への勧誘活動が行われることが予想されます。勧誘活動の方法は、郵便物の郵送から自宅訪問まであらゆる方法が予測されますが、市町村が個人の同意なしに個人情報を国家機関の勧誘活動に利用し、私生活へ立ち入ることは、市民のプライバシーや生活の平穏に対する侵害となります。
 個人情報を提供する根拠について、京都市は自衛隊法施行規則120条であると説明しています。同規則は「防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な…資料の提出を求めることができる」とされているだけで、「市が提供しなければならない」とは書いてありません。したがって、自衛隊法施行規則は、法律上の根拠にはなりません。

■戦場につながる

 戦前戦中を通じて、自治体が市民を戦争に動員する積極的役割を担って被害の拡大に寄与した反省から、京都市議会は「非核・平和都市宣言」(1983年3月23日)を採択し、その中で「戦争に協力する事務は行わない」ことを明記しています。京都市の自衛隊に対する宛名シール提供は、18歳、22歳の若者を戦場に駆り出す事務に京都市が協力することにつながりかねないものであり、同宣言の趣旨にも反します。
 安倍政権は、2015年9月19日、憲法違反の戦争法制の制定を強行しました。その結果、自衛隊の活動範囲が拡大し、隊員の生命、身体への危険は従前とは比べものにならないほど増大しています。現実に南スーダンに派遣されたPKO部隊は、内戦の渦中に置かれ、危険な任務を負わされました。さらに安倍政権は、憲法を変えて自衛隊を書きこみ、これまで以上に自衛隊に危険な任務を負わせようとしています。
 そういう状況下で、今日の自衛隊への入隊勧誘は対象者の生命、身体への危険を伴うものと言わざるをえません。戦前戦中と同じ轍(てつ)を踏まないためにも宛名シールの提供は、至急、撤回されなければなりません。


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(民医連新聞 第1690号 2019年4月15日)

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