MIN-IRENトピックス

2019年4月16日

熊本地震から3年 仮設住宅は閉鎖、家賃は、医療費は…募る不安 熊本民医連が訪問調査

 震度7の地震を2回観測した熊本地震から、4月で丸3年を迎えます。熊本民医連は昨年11月から「被災者の健康と生活に関する実態調査」にとりくんできました。約200人の職員が参加し、9つの仮設住宅と一部の借上型仮設(みなし仮設=民間賃貸住宅を借り上げ、仮設住宅と見なして被災者に提供)で82世帯の声に耳を傾けてきました。(丸山聡子記者)

 地震から1年半後の2017年9月、熊本県は被災者への医療費免除制度を打ち切りました。調査は「熊本地震における医療費の窓口負担等の免除措置復活を求める会」(代表/白旗仮設団地自治会長・児成豊さん=前号3面で紹介)、熊本学園大学の高林秀明教授と共同で行い、医療費免除打ち切りの影響を明らかにします。
 事前に住民自治会を通じて調査を知らせ集会所に集まってもらい、聞き取りをします。内容は「くらしの基盤」(住まい、仕事・収入源)、「ヨコのつながり」(相談相手、地域活動への参加状況)、「社会制度」(健康保険、行政への意見)、「くらしの中身」(医療費、家計、住宅の見通し、困りごと・不安、健康状態)など。3月2日は、被害の大きかった益城町の2つの仮設団地を訪ねました。

■医療費免除があったから

 訪ねた仮設団地は5月末で閉鎖の予定で、すでに半分ほどが空き家になっていました。72歳の女性は76歳の夫と二人暮らし。「人が少なくなって寂しい。特に夜は灯りが少なくて怖い」と訴えます。自宅は全壊。みなし仮設で暮らしている息子(40代)が家を再建することになり、6月から同居の予定です。
 夫は10数年前に脳梗塞で倒れ週5回のデイサービスを利用しています。女性も高血圧、腰痛などで2カ月に1回は通院。昨年から夫が後期高齢者になったため、医療費の窓口負担が3割から1割になり、「助かっています」と言います。
 地震直後、以前からの高血圧がひどくなり、薬を飲んでも180を超える日が続きました。不安で眠れず、涙が止まらなくなり、体重も減りました。「大変な時に医療費免除があったから、検査を受けたり、白内障の手術も受けることができた。医療費免除が再開したらうれしい」と女性。どこに行くにも自家用車しかなく、車の維持費や税金が高いこと、仮設で仲良くなった人たちと離れることにも不安を感じています。「そういう時は、お父さんと2人でノンアルコールビールを1本空けるの。そうするとスッキリする。飲まんとイライラしてしまって…」。

■歯科は我慢、手術も延期

 調査を終えるとグループごとに聞き取り内容をまとめ、発表・交流します。この日の訪問で聞き取りができたのは10件。「医療費免除が打ち切りになり、3カ所受診していたのを2カ所に減らした。歯科は我慢し、心臓の手術を延期した。災害公営住宅は家賃が高くて、仮設住宅の延長を申請したが返事はまだ」「地震後に糖尿病を発症。年金と妻のパートで暮らしている。馴染みの人が仮設から出ていき、人と話すこともない」などの事例が紹介されました。
 前出の女性の聞き取りを担当した今村未樹さん(管理栄養士)と中村恵理加さん(看護師)は、「『仕方ない』という言葉も多く、先行きに希望が持てないと感じた。支援制度が不足している上に周知されておらず、きめ細かな支援が大事」と語ります。松野秀敏さん(作業療法士)は、「聞き取りした声を行政に届けて、被災者の願いの実現につなげるのが医療従事者の役割」と話していました。

■医療と住まいの支援を

 現在、仮設住宅やみなし仮設で暮らしているのは7700世帯余。3年をめどに閉鎖や家賃補助が打ち切りとなります。災害公営住宅では家賃が2LDKで2万3000円からとなっており、3年経過し、収入が月15万8000円を超えると家賃の増額か退去を求められます。家賃負担の重さから災害公営住宅への入居をあきらめる人も出ています。
 高林教授は、「地震を機に経済的な困難に陥り、それが生活や健康に直結している。被災者への医療費免除制度は、阪神大震災でも1年で打ち切ったというが、当時の窓口負担は被用者本人は1割で今は3割。社会保障制度全体が削られるもとで、医療費免除の復活と住まいへの支援は急務だ」と指摘しています。

被災者の声を支援につなげる

 熊本県が2017年9月に被災者医療費免除措置を打ち切って以降、仮設団地自治会長17人と仮設の住民2人が呼びかけ人となり、医療費免除措置復活を求める署名活動にとりくんできました。熊本民医連もともに活動し、昨年9月、2万人以上の署名を県知事に提出、県議会にも請願を行いましたが、自民党や無所属の議員の反対で不採択になりました。
 12月には住民税非課税の世帯について免除を行うよう再度請願。しかし、県議会はこれも不採択としました。
 熊本県は、「被災自治体から要望がない」「従来の制度で対応できる」と説明しています。しかし打ち切り以降、国保法44条にもとづく窓口負担免除の申請は2件、利用は1件にとどまっています。

■医療費免除がなぜ必要か

 同県連が17年度に4つの仮設住宅で479世帯から聞き取った調査では、震災前より体調が悪化した人は半数の241人。7割は医療費を「負担」と感じており、この傾向は持病を抱えている人ほど強くなっています。その結果、「通院できない」「通院回数を減らす」と答えた人は23%。持病がある人でも「通院できない」「通院回数を減らす」は70世帯にものぼりました。
 今回調査した82世帯からは「白内障の手術をしたが、免除が切れてから受診していない。高血圧での通院も月2回から1回に」(80代女性、独居)、「収入は年金月6万円のみ。家賃に2万円かかれば生活できない。病院に行かれない」(90代男性、独居)、など、免除の打ち切りによって医療がますます遠のいている実態が浮き彫りになりました。
 同県連では、聞き取り調査を18年度の全職員の研修と位置づけてとりくみました。17年度の仮設住宅での健康チェックにつづく実践です。くわみず病院事務次長で研修を担当した松尾ひろみさんは、「実際に仮設で生活する人に会って話を聞き、医療費免除措置がなぜ必要かを再確認し、SDHの視点を学んでいます。被災者の暮らしと健康を守るために必要な支援の実現へつなげていきたい」と話しています。

(民医連新聞 第1690号 2019年4月15日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ