いつでも元気

2006年2月1日

私のまちのまちづくり 「存続させる会」が市を動かす 高知医療生協・旭診療所

みんなで銭湯に行こう!

地域住民の「ふれあいの場」求めて

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「やっぱり大きいお風呂は気持ちいいねぇ」

 高知市旭地区は、古い住居が密集する地域です。高齢化が進み、一人暮らしのお年よりも多い。ここで、最後まで営業していた銭湯「日の出湯」が一昨年暮れ に休業してしまいました。市電に乗って五キロも離れた銭湯に通ったり、川で水浴びをしてすませる人まで出る状態に。
 「誰もが人間らしく入浴できる環境を」と、旭診療所などが中心になり、昨年七月に「旭に公衆浴場を存続させる会」を発足。市に訴える運動などを進めてい ます。

みんなが顔を合わせる場所

 昨年一一月二六日、存続させる会は二回目の「みんなで銭湯に行こう」の集いを開きました。マイクロバスで二〇分ほどのところにある市営の温泉施設にみんなで入浴にいくのです。二五人が参加。交替でゆっくりと温泉につかります。
 旭診療所近くに住む上岡重臣さんは八一歳。古くから通っていた銭湯が廃業し、別の銭湯にいくとそこも廃業、次も廃業と続いたとか。「いまじゃあ、市電の 定期を買って、四軒目の銭湯に通ってますよ。銭湯っていうのは、いろんな人と顔を合わせて話ができるからいいんですよね」
 温泉の後は、広間に集まってレクリエーション。この日は、医学生や看護学生、若い看護師も参加して、みんなで懐かしい歌をうたったり、ゲームをしたり。
 存続させる会の副会長で、宅老所「ゆったり」の小川裕子さんは「宅老所に蕫お風呂を貸してください﨟と外部から申し入れがきましてね。高齢者の一人入浴 は事故が恐いですが、みんなで使えるお風呂なら保健師や看護師にきてもらって血圧測定や健康診断もできますよね」。

「気になる患者ノート」から

 旭診療所では昨年二月から、「気になる患者ノート」を始めました。「通院しなくなった」「保険がない」など、日常診療で気になる患者さんを各職員がノートに書きこみ、訪問などにつなげるためです。
 「たとえば六〇代の女性Kさん。心臓の入院検査が必要でしたが、幼い孫と二人暮らしで入院できないという。そこで、生協病院のソーシャルワーカーに児童 養護施設を紹介してもらい、入院することができました」と事務長の山本正博さん(存続させる会会長)。「実はこのノートが銭湯を存続させる運動につながっ た。ここに書かれた患者さんには、自宅に風呂のない人も。川で水浴びをしたり、井戸の行水ですませているのです。これは大変だと、昨年四月には市と最初の 交渉をし、七月に会を発足させたのです」
 市に提出した要望は二点。(1)旭地区の公衆浴場が存続できる施策を。(2)地区にある老人福祉センター「木村会館」の入浴施設を緊急措置として開放す る、でした。ここには災害時用入浴施設がありますが、壊れたまま一度も使用されていません。
 市は当初、「困っている声は聞こえてこない」などと他人事のような回答でした。しかし、会が深刻な実態を訴え、署名を集めるなどした結果、市の態度が変 わってきました。「市内一二カ所の銭湯に市が助成して、月一回無料で入れる日をつくっては」などの議論がおこなわれています。
 会では昨年一二月の市議会にむけ、一万筆を目標に請願署名を集めました。旭診療所近くのスーパー前での行動では、一日で四〇〇筆近く集まったことも。

風呂のある人もない人も

  医療生協旭ひまわり支部の竹村絵理子支部長は、職員の片岡眞知子さんなどと署名集めに地域をまわりました。「お風呂がなくなると、困るからねえ」といって、誰もが次々に署名をしてくれます。家にお風呂のある人もない人も、「地域の銭湯」にいだく思いは同じなのです。
 四〇年来この地に住み、いまは市電で銭湯に通う吉門寛さん(60)は「家に風呂があったときから銭湯に通ってました。大きな風呂は気持ちいいからねえ」と。
 「みんなで銭湯に行こう」には、日の出湯を経営してきた八四歳の女性も参加。夫が七年前に亡くなっても、ひとりでがんばってきた苦労を涙ながらに語って くれました。銭湯の経営は、もはや公的な支援などがなければ不可能のようです。
 一二月には六二六四筆の請願署名が提出され、議会で市の姿勢が追及されました。「地域住民のふれあいの場である公衆浴場に、存続のための早急な措置 を」・多くの地域住民の声が、行政を動かそうとしています。

文・矢吹紀人/写真・酒井猛

いつでも元気 2006.2 No.172

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