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2019年5月7日

いま憲法が壊されている!? 憲法を学んでできることからはじめよう 楾大樹 弁護士に聞く

 「憲法というルールは誰が守るものか知っていますか?」私たちは憲法に密接にかかわっています。しかし“憲法=難しい”と苦手意識を持つ人も多いと思います。そこで憲法について“檻(おり)”と“ライオン”でわかりやすく表現した本『檻の中のライオン 憲法がわかる46のおはなし』の著者、ひろしま市民法律事務所所長で弁護士の楾大樹(はんどうたいき)さんに聞きました。

(代田夏未記者)

 学校で憲法を習うはずなのに、よく知らない人も多いのではないでしょうか。そして、よく知らない人たちが最低限の前提知識を踏まえないで、憲法の論議をしていないでしょうか。そんな状況に危機感を抱き、楾さんは「檻とライオン」の例を用いて憲法を知ってもらう活動をしています。
 その活動の中で2016年に『檻の中のライオン 憲法がわかる46のおはなし』を出版しました。憲法を檻、国家権力をライオンでたとえたこの本はわかりやすいと好評で、全国から講演に呼ばれ、5月で300回を超えます。講演ではこの本を元にパペットを使って講演を行っています。
 きっかけは2013年夏、憲法96条の改正が参議院選の争点になったことです。安倍政権は憲法改正に必要な各議院の総議員の数を3分の2から過半数にしようとしました。これはライオンが「檻をやわらかくしよう」と言い出したということ。しかし国民はその言葉に関心がないように見え、「日本人は憲法の意味を知らないのでは? 憲法を広めなければいけない」と活動を始めました。

ライオンは檻の中へ

本の内容を紹介します

 私たちはみんな同じ人間です。みんなが人間らしく、自分の価値観を大切にして、幸せに暮らしていきたいと思っています(天賦(てんぷ)人権、個人の尊重)。そのために、政府に政治を任せました(社会契約)。政府は、とても強い力(権力)でみんなを仕切ってくれる、頼りになる存在です。つまり、百獣の王ライオンのようなもの。しかし、とても強いので暴れたら誰にも止められません(権力は濫(らん)用されがち)。だから、ライオンを檻(=憲法)に入れます(立憲主義)。私たちを守るための檻だから、私たちがしっかりつくりましょう(国民主権)。ライオンも私たちが選びます(民主主義)。
 ライオンは檻の中だから、私たちは自由に生活ができます(自由権)。ライオンの悪口(政権批判)を言っても襲われることはありません(表現の自由)。檻にしばられているので、ライオンは勝手に戦争もできません(平和主義)。
 しかし、自由になった結果、生きていけないこともあります。そのときはライオンに手をさしのべてもらいましょう(社会権)。たとえば生存権を保障すること、お金がなくて困っていたら支援をすること、子どもたちが教育を受けられるように学校教育の制度をつくること…。
 ライオンは檻の中にいなければなりません(99条、公務員の憲法尊重擁護義務)。ライオンの力では檻を壊せないくらい「硬く」つくります(96条、硬性憲法)。ライオンが檻を壊さないように、檻に3頭のライオンを入れて、お互いに監視させます(三権分立)。ライオンが檻から出たら、別のライオンが取り押さえるセキュリティーシステムもあります(81条、裁判所の違憲審査権)。それだけでは心配なので、ライオンが檻から出ないよう、私たちがしっかり見張っておかないといけません(12条、国民の不断の努力)。檻から出たライオンが目の前に迫ってきたら、私たちが打ち倒すしかありません(抵抗権)。
 これが憲法の全体像です。本にはイラストを用いて、大まかに憲法のしくみがわかるようになっています。憲法は国家権力から私たちを守るための法(ルール)です。私たちは憲法によって自由な生活が保障されています。

ライオンが檻から出てくる?!

 しかし2015年、集団的自衛権行使を含む安全保障関連法制が可決・成立しました。これについて全国すべての弁護士会が「憲法違反で許されない」と声をあげています。
 憲法で戦争を認めていない日本ですが、これまでの政府の見解では、わが国を守るための必要最低限の実力ならば戦力に当たらないとし、実力組織として自衛隊が認められています。しかし、集団的自衛権により、わが国を守る自衛隊が、海外で戦争があると日本が攻められていなくても、戦争に加担できる自衛隊になります。それは憲法で許されていません。
 ほかにも、憲法53条により、いずれかの議院の総議員の4分の1以上が要求したら内閣が召集を決定する、臨時国会を開いていません。これは憲法53条違反です。このように、安倍政権の6年でさまざまな憲法違反が繰り返されてきました。

選挙でライオンを選ぼう

 ならば、檻が壊されないために私たちに何ができるのでしょう。それが憲法12条の不断の努力です。ライオンの動きに関心を持って、檻が壊されたらダメと言う。そして、檻を壊さないライオンを選挙で選ぶことです。ルールを守らない政治、それを黙認する私たちではライオンのやりたいように檻が壊されてしまいます。みんなが憲法を学ぶことが大切です。「『ボーッと生きてんじゃねーよ』と言うのが憲法12条。何もしなければ檻がどんどん壊されてしまう。ライオンを見張って、檻を壊そうとしたらダメと声をあげよう」と楾さんは言います。
 相撲にたとえると、どちらの力士(政党)が勝つのかが“政治問題”。いくら人気の横綱でもルールや土俵を変えて有利にしてはいけません。ここで言う土俵が“憲法”です。ルールを知らなければおかしな点には気づきません。「右左の問題ではない。右左どちらにも共通している憲法が壊れている」と楾さん。
 「『知る、考える、行動する』、と講演の最後で言っています。これは、憲法や情勢を知り、それについて自分なりに考え、その上で選挙に行くなど、自分なりにできることをすると言うことです」「ライオンが檻を壊さないように、この本を活用してほしい」と話します。

(民医連新聞 第1691号 2019年5月6日)

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