声明・見解

2005年3月18日

【声明2005.03.18】過労死・過労自殺をさらに多発させる 労働安全衛生法等の改悪に反対する

2005年3月18日
                          全日本民医連 会長  肥田 泰
                        

過労死・過労自殺をさらに多発させる
労働安全衛生法等の改悪に反対する

 政府は、労働安全衛生法、労働時間の短縮に関する臨時措置法、労働者災害補償保険法、労働保険の保険料の 徴収等に関する法律の4つの法律の「改正案」を、労働安全衛生法等「改正案」として一括し、3月4日に国会に提出した。私たちは、これらの法案を一括では なく本来別々に提案すべきものであり、一つ一つの慎重な審議が必要と考える。

 また、今回の「改正案」は、部分的な改善と引き替えに日本経団連など財界の主張を取り入れて、働くものの いのちと健康を守る労働者保護行政を大きく後退させるものであり、過労死・過労自殺を予防するどころかさらに多発させかねない。産業医活動等で労働現場に 関わりを持ってきた私たちは、今回の改悪を断じて許すことができない。

 今回提案されている内容の第一の問題は、過労死の予防措置の後退である。

 労働安全衛生法「改正案」は「過重労働による健康障害対策のための総合対策」(2002年2月12日、基 発0212001号)の45時間や80時間での予防措置を100時間に後退させている。「1ヶ月100時間以上」は、脳血管疾患及び虚血性心疾患の労災認 定基準であり、過労死しうる時間外労働である。これを「産業医の面接指導」の要件とすることはなんら予防対策とはならない。

 上記の「総合対策」では、時間外労働が45時間以上の場合は「事業主は労働時間、深夜業の回数・時間数、 健診などの情報を産業医に提供し産業医の助言指導を受ける」、1ヶ月100時間あるいは2ヶ月から6ヶ月の間の平均で80時間以上の時間外労働の場合、上 記に加え「健診を受診させ産業医の面接指導行う」とされている。これは45時間以上の残業で過労死等の予防措置を事業主に求めたもので、これにより残業の 削減などを行うことで過労死も防げた。

 また、地裁、高裁では、残業時間が100時間以下、80時間以下であっても業務の過重性をみとめ、労災認 定を妥当とする判決や事業主の損害賠償を求める判決が相次いで出され、過労死・過労自殺は残業がない深夜労働や少ない残業時間でも起こりうるものであるこ とが明らかになっている。過労死、過労自殺の予防のためには、より少ない残業時間での産業医の介入が求められているのに、今回の「改正案」はそれに逆行す る。

 第二の問題は、事業主責任の後退である。

 今回の改訂案は、残業時間が100時間を超過した場合においても、「本人の申し出」がない限り、事業主は残業規制を行うなどの義務から免れることである。

 健康を顧みることなく働かざるをえない、あるいは不健康が「リストラ」の条件になりかねない職場の現状では、多くの労働者が「申し出る」ことができない実態にある。

 そういう状況のなか、「改正案」は弱い立場にある労働者を保護するという労働安全衛生法の精神を後退させ、事業主の安全配慮義務を大きく後退させるものである。また、健康の自己責任論を押しつける面もあり、この点からも許すことはできない。

 時間外労働の削減、健康診断の徹底、及び事後措置の実施、深夜業や時間外労働が多い労働者への特別の健康 管理対策、健康増進など、事業主の責任として進められるべき措置が、大きく後退することが予測される。これらの措置の後退は産業医の指導や勧告を困難に し、労働者の過労死、健康破壊の責任を産業医に転嫁する可能性があり許されない。

 第三の問題は、「労働時間の短縮に関する臨時措置法」を廃止し、「短縮」を「労働時間の設定」に置き換 え、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」を制定しようとしていることである。これは「年間総実労働時間1800時間」の政府目標を放棄し、労働 時間の設定を「労使の自主性」にまかせるものであるが、今求められているのは野放しの長時間労働を規制することであり、それに逆行する法改悪は許されな い。私たちは時間外労働、長時間労働を規制する法律が必要であると考える。

 私たちはこのような「改正案」の撤回をもとめ、真に過労死等を予防するため、労働時を短縮し人間的な生きがいのある労働を実現し、健康管理体制の充実、残業時間の規制をはかる法改正を求めるものである。

以上

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