医療・看護

2019年5月21日

相談室日誌 連載464 「心に正義ありますか」 通院移送費裁判を傍聴して(奈良)

 「あなたの心に正義はありますか」。2018年2月6日、体調がすぐれず在宅酸素を付け、看護師の付き添いのもと、法廷で奈良市元保護課職員への尋問に聞き入るAさんの背中は、そう訴えているようでした。傍聴に駆け付けた私たちに「お忙しいところ、ありがとうございます」と頭をさげたAさんを思い出します。Aさんは、通院のための交通費(通院移送費)が生活保護で出ることを奈良市の担当者から知らされず、申請後も認められなかったことを不服として裁判に踏み切ったのでした。
 Aさんを担当していた市のケースワーカー4人は原告代理人の尋問に対して「覚えていない」とくりかえしました。ケース記録について「書くべきことの決まりはない。ケースワーカーが判断して書く。書いていないということは、相談がなかったということ」、生活保護の知識は「異動時の研修や保護手帳をもとに日々業務をしていた」。厚労省が中核市などに対し、通院移送費について文書で周知するよう求めた10年の通達も、「記憶にない」。元保護課長は、「生活扶助費のなかでやりくり努力してもらう。通院移送費についての厚労省通達は赴任前なので知らない」と証言しました。
 判決は、奈良市が14年7月に「過去5年に遡及して通院移送費を支給する」と通知したのに、同年11月に遡及(そきゅう)支給を取り消した点で、裁量を逸脱した違法行為があったと認定。Aさんの訴えを認め、08年にさかのぼって通院移送費を支払うよう市に命じました。一方、国家賠償請求については、ケース記録やメモなどに証拠がないことを理由に棄却しました。
 証言した市のケースワーカーは現在、定年退職したり、他部署へ異動しています。“公務員としての立場”から「わかりません」と証言したのかもしれませんが、生活保護のケースワーカーとは名ばかりで専門性がないことを証言したことになるのではないのでしょうか。奈良市は控訴せず、18年4月10日に判決が確定。それを見届け、Aさんは翌日未明に永眠しました。

(民医連新聞 第1692号 2019年5月20日)

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