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2019年6月4日

非正規労働者の経済困窮と口腔崩壊は日韓共通の課題 韓国・健歯創立30周年記念式

 4月27日、韓国・ソウル市内で、韓国の歯科医師が集う「健康な社会のための歯科医師会(以下、健歯)」の創立30周年記念式が開かれました。健歯の招待を受け、全日本民医連から岩下明夫副会長と山田秀樹副会長が参加。すべての人が健康な社会をめざす団体として連帯していこうと交流しました。
 (代田夏未記者)

 1987年、韓国で起きた民主化抗争で労働運動を行っていた青年の死をきっかけに、青年歯科医師会と延世(よんせ)民主歯科医師会が発足。その後、89年4月26日に2つの団体が1つになり「健歯」が誕生しました。会員数は約500人。大学病院の歯科医や教授、開業医などが加入しています。
 健歯は経済的困窮者や社会的弱者の歯の健康を守るため、ボランティアで歯科診療を行っています。低所得層の児童や青少年が学校検診だけで終わらないように行う“チウムキウム(萌えよ育とう)”事業の一つとして、「愛の集金」という金歯を集めて青少年の歯科医療の財政へあてる活動をしています。ほかにも、「ベトナム平和医療連帯」として毎年ベトナムへ医療ボランティアを派遣しています。

■よい睡眠を届けたい

 式の前に健歯も協力する非正規労働者のための施設「クルジャム」へ行きました。韓国では、労働者の約半数が非正規という会社が多く、必死で働いたのにクビになり困窮してしまう労働者が後を絶ちません。
 そこで、休めて、ごはんも食べられる非正規労働者の家を建てようと寄付を募りました。メディアの協力もあり、3000人あまりが寄付。1億円もの寄付金で、18年10月に運営を開始しました。
 日本語でクル=はちみつ、ジャム=眠りという意味。甘くてよい睡眠を届けたいという思いから名付けられました。利用者は差別のない平等な社会をめざす人ならば誰でもOK。市民をはじめアーティストもおり、半年で5000人が訪れ、半数が宿泊しました。
 「クルジャム」の創設者たちは、非正規労働の社会運動にとりくんだ当事者です。クルジャム運営委員長のキム・ソヨンさんもその一人。警察が来られない高い位置での座り込みや長期のストライキで、病気になっても行く場所がなく、洗濯やシャワーもできませんでした。「こういう場所がほしいと思っていた。休むだけではなく、同じ思いの人と出会い、思いを語り、連帯してたたかってほしい」と話します。「いい非正規労働なんてない。子どもたちに非正規労働を残さない、非正規という言葉がない社会にしたい」と語ります。

■つどいの場で歯科診療?!

 今年2月9日にクルジャム歯科診療所を開設しました。第2、第3土曜日の午後7~9時に健歯や若手の歯科医師が無料で診療を行っています。集会に参加した後でも受診ができるよう夜間診療をしています。地下のつどいの場に歯科機器がセットされています。
 クルジャム診療所の所長キム・ムンソプさんは「非正規労働者のすぐ近くに医師がいるべき」と話します。医師になってから、社会運動に空白期をつくったことを後悔しました。「後輩たちに同じ思いをさせないよう声をかけて協力してもらっている」といいます。健歯会員のキム・チョルシンさんは「診療を中心に若い世代にも運動をひろげたい」と言います。

■連帯して平和を築こう

 その後ソウル駅近郊のホールで記念式が開催されました。代表あいさつでホン・スヨン共同代表が「健歯は健康な世界のためにつくられた団体。ともに実践する医療従事者ということを忘れなかったから、30年を迎えられた」と感謝を述べました。
 その後、歯科医師会副会長や保険医療団代表、元健歯の民主党議員などとともに、民医連から岩下副会長が祝辞を述べました。「口腔崩壊に陥るのは自己責任ではなく社会的格差が要因。これは日韓共通の課題。さらに、ともに核廃絶・平和めざす一翼を担い連帯しよう」と話しました。続いて山田副会長が角樽(つのだる)を、岩下副会長が記念の盾を健歯に贈呈。記念式の中でひときわ盛り上がりました。
 この式典のハイライトは健歯30周年ドキュメンタリー『30 そして、もう一つ』の上映でした。健歯の歴史や活動と、会員がともに実践する「医療関係者」の価値を守ってきた歴史を示しました。
 式典の後に交流会を行い、健歯会員や韓国の議員たちと医療情勢について語り合いました。ともに連携して無差別・平等の歯科医療を届けようと確認しました。

(民医連新聞 第1693号 2019年6月3日)

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