いつでも元気

2006年3月1日

特集1 スウェーデン視察 福祉の国づくりを探る キーワードは教育・民主主義・参加 教育を大事にし良質な労働力を育てて

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予防を中心とした歯科診療所

長瀬文雄事務局長に聞く

 昨年一一月七日~一三日、全日本民医連は、総合研究所いのちとくらしと共同でスウェーデンに視察団を派遣。団長を務めた長瀬事務局長に聞きました。

 アメリカや日本は「強いものがより強くなる社会」あるいは「自己責任」社会になっていて、それがまるで世 界の主流のようにいわれています。しかし同じ資本主義の国でも、スウェーデンでは人権を大切にした福祉国家づくりが進められています。その実情を生で見 て、感じてこようと、幹部職員から二〇代の若い職員まで、二四人が参加しました。

予防徹底し健康寿命が長い

 スウェーデンと日本を比較した場合、平均寿命は男性、女性とも日本が一位で、スウェーデンが二位。でも健康寿命という点では、スウェーデンの方がはるかに高く感じます。元気で長生きだから、寝たきりという人はほとんどいません。
 たとえば歯。日本はだいたい八〇歳で平均一〇本以下ですが、スウェーデンは平均二一本。立派に8020(八〇歳で自分の歯が二〇本残るようにしようという運動)を実現しているんですね。
 健康予防歯科診療所というところに行きましたが、保健所を兼ねたような施設で、徹底した予防、啓蒙活動をしていました。医療費は一九歳の年の一二月まで 無料。年に一、二回はみんな予防のために歯の受診をします。そこで全身管理をし、検診だけでなく、栄養指導なども徹底的にしているんです。
 医療の面でいうと、たとえば高度医療などではまだまだ課題がありそうですが、病気になってからお金を使うより、病気にならないようにお金を使う方がずっ といいというわけです。日本の政府が、国民の健康などそっちのけで、国が医療に出すお金を減らすことだけを考えているのとは、まったく逆ですね。
 人間誰でもハンディキャップがある。出産、失業、病気、加齢…。それを、自己責任とか家族の責任とする考えは一切ない。ハンディキャップは社会が負い、 早め早めに解決していくという考え方が徹底しているのです。

イラク難民も受け入れて

 社会保障に対する税金の使い方が日本と違うなと痛感したのは、教育です。
 ベルモド市を訪問しましたが、市庁舎の中に「市立労働者教育センター」というのがある。失業手当や生活保護を受給している人の職業訓練、中学や高校を中 退した人たちの社会復帰のための教育をしているのです。移民の教育もしています。イラク難民を一番受け入れている国がスウェーデンですが、語学教育や職業 訓練、心のケアもしていました。スウェーデンはこういう授業や大学の授業もふくめて、教育費はすべて無料なのです。
 教育を徹底的に大事にすることで、社会的な生産力を上げる。教育にお金を使っても、良質な労働力や国民のやる気・活力が育てば、生産力が向上し、税金も増収になるという考え方です。
 実際そうなっていて、世界第二~三位のIT大国になったのも、優秀な労働力によるといいます。
 訪ねた施設のヘルパーは、実に三〇カ国からの出身者がいました。その人たちをちゃんと教育して、労働力にしている。スウェーデンは、一八〇〇年代から一 九〇〇年の初めまで、寒いし産業もなく貧しくて、アメリカへ国民の三分の一も移民してしまった。そうした歴史もあって、人間を大事にし、人間を一番の資源 だと考えているんですね。

税金の75・6%が国民生活に還元される

貧富の差が少なく安全な社会

 福祉の充実というと、日本では必ず税金が高くなるといわれます。たしかにスウェーデンの消費税は二五% で、医療とか食品は一二%くらいです。でも税金の国民への還元率は、日本は四一・六%、スウェーデンは七五・六%です。二倍近く国民生活に使われている。 貧富の差が少なく、安全・安心な社会です。
 スウェーデンは第一次世界大戦以来、中立を貫き、一九〇年間一切、戦争をしていません。その間、ボルボ、サーボ、エリクソンなどの世界的な企業が生まれ ました。ボルボ社は、税金が高くても海外に移転する気はまったくないといっています。技術を高めて安全な車をつくることが一番大事で、そのためには優秀な 人材が絶えず生み出されることが何者にも代え難いと。国際的な安売り競争なんかする気はないというんですね。
 おもしろいのは、一八歳になるとみんな自立する、自立できるということです。高齢者の子どもとの同居率は、日本は約五〇%ですが、スウェーデンはなんと 四%。子どもが親の面倒を見なければいけないというルールはありません。
 日本の特別養護老人ホームのような施設を見学しましたが、施設を選ぶか、自宅で二四時間のケアを受けるかは、その人のニーズ(要求)で決めます。ニーズ 査定員がいて、介護の必要性を判定します。
 所得によって自己負担はありますが、経済的理由で入居できないということはありません。光熱費などあらゆる経費を払った上で、自分で自由に使えるお金を 手元に最低六万円程度は残るようにする原則があります。だから年金額が低ければ、無料です。もし部屋が足りなければ確保する。これは市の仕事だといいま す。

公設民営で知恵を出し合い

 スウェーデンは一〇数年くらい前までは、福祉や医療の施設は、全部、公設公営でしたが、効率が悪くなり、 入札制度を始めました。建物や設備は、全部市が投資しますが、どこが運営するかは四年に一回の入札で決める。個人でも民間企業でも非営利・協同組織でも、 自治体でも参入できます。
 AKKA(アッカ=医療協同組合)という診療所兼保健所に行きました。ここも以前は公設公営でしたが、働いていた四〇人の職員全員が出資して医療協同組 合をつくって運営しているんです。アッカの目的は、ヘルスケアの効果的なレベルアップ、平等、かかりやすさ、患者参加、連携、保健予防・公衆衛生。民医連 の医療・福祉宣言みたいでしょ(笑い)。
 ここでは朝九蒔から夜八時まで、職員二人が専任で地域の健康相談を電話で受けていました。「子どもが熱を出したのですが、どうしましょう」と。「それな ら家にいて、温かくして」と、たとえばこんな指導をするんです。具合が悪いときの最初の選択が電話相談なのです。民医連の診療所もこういうことをやれると いいんですけどね。
 職員は、「公務員のときは誰かが指示して仕事をしていたが、今は合議制です。自分たちで知恵を出し合いながら、もっとよいケアをめざそうということで、 職員の参加と共同が強まった」といっていました。これは民医連の診療所とよく似ています。
 日本の「官から民へ」とは、中身はまったく違いますね。スウェーデンでは、民の活力・創意工夫を生かせるよう、官(公)が責任を持っています。
 市の福祉事務所職員、衛生局の局長、課長クラスの人も、「住民が何を望んでいるかが第一だ、そのために税金がかかることは仕方がない。市の予算はこれし かないから、我慢してくださいという発想は私たちにはありません」といっていました。

情報公開と市民の参加が

 こうした福祉社会を支えているのは、情報公開と市民の社会参加だということも実感しました。情報公開は非常にすすんでいて、市の財政もどう使われているか公開されます。選挙の投票率も、過去二〇年間、八割を切ったことがない。
 四年に一度、国会議員、県会議員、市会議員の選挙が同時におこなわれます。県会議員と市会議員は、基本的にはボランティアで、昼間は別の仕事をしてい る。議会の開会は夜六時からで、給料は時給。夜なら一般の人も参加できますよね。
 議会だけでなく、意見を出し実現していく場として、全労働者の八割が労働組合に入っているというのも大きい。公務員でも民間企業でも、労働条件は多少の 違いはあっても基本的には同じです。だから社会的な要求実現のために、労働組合が大きな役割をはたしています。
 また人口約九〇〇万人のうち、二九〇万人、三人に一人が何らかの協同組合に入っているそうです。協同組合のような非営利協同型の組織が、スウェーデン社会の担い手として成長しています。

憲法25条を、国をあげて実践しているという印象でした

もう一つの日本は可能だ

 スウェーデンを訪問して強く印象に残ったのは、まさに日本の憲法二五条を国をあげて実現しようとしている ということでした。同じ資本主義の国でも、自己責任、弱肉強食路線を進む日本やアメリカとは明確に違います。税金を福祉や教育に使い、国民の活力を高め る。そのことが社会の発展につながる。こういう価値観をもった国なのです。このような平和・福祉の国家づくりは二一世紀のわれわれの一つのモデルです。
 「もう一つの世界」「もう一つの日本は可能だ」と、そんな呼びかけを総会方針の中でしていきたいと思います。
 民医連は三一五万人(世帯)の共同組織があり、医療者側と利用者側のいわば協同組合でしょう。その人たちが人権意識を高め、憲法を守り、二五条の実践をめざしている。これは大きい。
 教育、民主主義、参加。これをキーワードに大いに、大いに議論し実践していきましょう。

いつでも元気 2006.3 No.173

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