いつでも元気

2006年3月1日

トピックス 鳥インフルエンザって?

図1 インフルエンザの模型図

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抗原:ヒトの細胞に侵入して抵抗力をつけさせる(免疫反応)ことができる物質のこと
図2 小変異のしくみ

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図3 大変異のしくみ

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下 正宗
東京・東葛病院副院長(病理科)

ヒトの体の中で遺伝子組み換えがおきたら危ない

 大流行こそないものの、ここ数年、SARS(重症急性呼吸器症候群)や新型インフルエンザなど、呼吸器の感染症が私たちを脅かしています。いま一番話題になっているのが、高病原性鳥インフルエンザでしょう。
 鳥インフルエンザは鳥の病気で、かつては人間に感染することはないと考えられていました。ところが、中国、オランダ、ベトナム、タイなどで人間への感染 が確認され、死者も出たことから、世界的なニュースになりました。
 なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。

ウイルスの構造は…

 一般にインフルエンザウイルスは、中心部にRNAという核酸(遺伝物質)をもち、Mタンパクと、脂質二重 膜、棘のように突き出たたんぱく質(HA抗原とNA抗原)に包まれています(図1)。このMタンパクとRNAの性質によって、インフルエンザウイルスは大 きくA型、B型、C型に分かれ、流行するのはA型とB型です。
 A型はさらに細かく分類され、現在、HA抗原は15種類、NA抗原は9種類が確認されていて、今シーズン流行しているウイルスは、H1N1(Aソ連 型)、H3N2(A香港型)といわれています。
 鳥インフルエンザはA型ですが、H5N1で、ヒトで流行するものとはタイプが違います。

 

小変異で生き延びる

 インフルエンザの予防接種が広くおこなわれています。これはHA抗原に対する抗体をつくるためです。イン フルエンザウイルスはHA抗原の力でヒトに侵入し、感染するので、あらかじめ弱いHA抗原を体内に入れ、同じHA抗原がまた入ってきたらそれとたたかえる たんぱく質(抗体)をつくっておくわけです。
 ところがHA抗原は、少しずつ変化していくことが知られています。たんぱく質の原料であるアミノ酸は、3個の核酸からできていますが、核酸が1個異なる だけでまったく違ったアミノ酸が合成され、まったく違ったたんぱく質ができるのです。すなわち、抗原の性質が異なってくるのです(図2)。
 そのため、予防接種をしたのにインフルエンザにかかってしまうという現象がおきるし、ウイルスにしてみれば生き延びることができるというわけです。ウイ ルス学的にはこのような変化を「小変異」あるいは「連続変異」といっています。

大変異で生まれる新型

 インフルエンザウイルスには、もうひとつ重要な変異があります。「大変異」あるいは「不連続変異」といわれているものです。小変異は遺伝子の1カ所の変異でしたが、大変異は遺伝子のまとまった変異です。
 ウイルスのRNA(遺伝子)は8つの部分に分かれていますが、この8つの部分がまったく組み換えられる現象がおきるのです。
 インフルエンザウイルスはさまざまな動物に感染し、感染した動物の細胞内で、さまざまなしくみで子孫を作ります。そのときに、たとえば、ブタインフルエ ンザとヒトインフルエンザが、同時にブタに感染した場合、それぞれの遺伝子の組み換えがおきることがあるのです。
 1978年のH1N1(Aソ連型)とH3N2(A香港型)に同時に感染した人から、H3N1が分離されたという報告もあります(図3)。

 たくさんの遺伝子の分析結果から、さまざまな動物のインフルエンザウイルスの遺伝子が交雑しながら、新しい種類のインフルエンザが生まれてきていることがわかってきました。とくに鳥インフルエンザの遺伝子が多くの種の動物から検出されていることも注目されています。

感染予防の基本が大事。流行期には人込みを避けマスク、うがい、手洗いを

ルート遮断が最大の予防

 現時点では、鳥インフルエンザウイルスがヒトからヒトへの感染を引き起こす証拠はありませんが、トリからヒトへの感染経路はあると報告されています。
 鳥インフルエンザとヒトインフルエンザに同時に感染したヒトの体のなかで、遺伝子の組み換えがおき、ヒトにも感染する力をもつ新型ウイルスが発生するの ではないかというのが、いま一番の心配です。新型のウイルスには誰も感染したことがなく、抗体をもった人もいません。そのため新型インフルエンザウイルス ができると大流行する可能性があるからです。
 自分の体をウイルスの遺伝子組み換えの場とさせないためにも、感染症予防の基本に立ち返り、感染ルートを遮断する努力をしていくことは、大変重要なこと と考えます。つまり、インフルエンザの流行期には人込みを避ける、マスクを着用する、うがい・手洗いを励行する、などです。鳥との接触を避けることも重要 です。現時点では、濃厚な鳥との接触以外での鳥インフルエンザの感染は極めてまれといわれています。
 鳥インフルエンザウイルスに対するWHO(世界保健機関)の勧告については国立感染症研究所感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp)に掲載されていますので参考にしてください。

イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2006.3 No.173

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