MIN-IRENトピックス

2019年6月18日

「お客様は神様」・・・ではない! 感情を抑えて対応する“感情労働者”の健康を守れ

 「感情労働」を知っていますか。“自分の感情を抑え、顧客や患者・利用者に合わせた感情を提供する労働”のことです。飲食店や店舗の店員、コールセンターのオペレーター、飛行機の客室乗務員…。医療や介護の現場で働く人たちも「感情労働者」です。そのメンタルヘルスや働き方の問題が今、注目され始めています。(丸山聡子記者)

人間らしく働くための九州セミナー

感情労働と健康権

 5月18~19日、人間らしく働くための九州セミナーは第5回課題別セミナー「感情労働と健康権」を開催しました。
 同セミナー代表世話人会議長の田村昭彦さん(九州社会医学研究所所長、全日本民医連理事、医師)は、対人労働に従事する労働者の多くが感情を抑え、顧客や患者・利用者からの暴言・暴力にさらされ、メンタルヘルス悪化に陥っていると指摘。しかし、「おもてなし」「お客様は神様」に象徴されるように感情労働への理解は不十分で、組織的な手立てはとられていないとして、感情労働者の保護に向けた活動を開始しよう、と呼びかけました。
 セミナーでは、感情労働者を保護するとりくみがすすむ韓国から講師を招き、韓国の活動を学びました。
 1日目は、韓国グリーン病院附属労働環境健康研究所のイム・サンヒョク医師が「感情労働の実態と改善の方向性」と題して講演。感情労働者の保護をすすめてきたと紹介しました。
 その後、医療・介護現場やハローワーク、生協のコールセンターで働く人たちが課題を報告。福岡・親仁会労組の緒方秀樹さんは、専門職であるのに地位や処遇が低く、スキルアップの機会も少ない介護労働者の実態を報告しました。

■働く人を守る視点

 2日目には、ソウル市の感情労働者を保護する条例にもとづいて設置されたソウル市感情労働センター所長のイ・ジョンフンさんが報告しました。「『私たちの金で暮らす公務員ども』と暴言を吐かれる」(庁舎の請願受付業務)、「医者でも看護師でもないオバサンと言われる」(介護職)などの被害事例を紹介。労働者を守る措置として、「受付に『暴言・暴行から職員を守る』と掲示したり、バッジをつける」「悪質な消費者の告訴」「暴言・セクハラに対する業務中止権限の付与」などの対応をしています。企業や行政への権利保障教育や医療機関との連携もすすめています。
 労働、法律、女性団体などでつくる感情労働全国ネットワーク執行委員長のイ・ソンジョンさんは、「感情労働のキーワードは、人権・女性・非正規労働者だ」と強調。「これまでの働き方を当たり前と思っていたら職場は変わらない。働く人を守り、当事者が声をあげ、多様な団体と連携して、感情労働者を保護し、被害を予防することが大切だ」と語りました。


労働者と市民が行政動かす

グリーン病院 イム・サンヒョク医師

 同院労働環境健康研究所は、2010年から継続して感情労働の調査をしています。13年の調査では、過去1年間に「無理な要求」をされた経験が「ある」人は79・8%、「人格無視」86・7%、「侮辱・暴言」79・7%のほか、「セクハラ・性的接触」を受けた人も29・7%でした。
 24%が会社に知らせておらず、知らせた場合の対応は「言葉での慰め」が43・3%、「我慢しろと言われた」33・9%、「顧客への無条件の謝罪」も19・6%。これは二次被害です。
 感情労働者のうち、「中程度のうつ状態」「ひどいうつ状態」を合わせると47%。暴力・暴言の経験がうつ病の発症にもつながっています()。
 背景には、企業の行き過ぎた経営戦略があります。顧客とトラブルになった際のマニュアルには、「いかなる場合も顧客に深く謝罪」「言い訳や弁明はせず、謝罪」などとあります。
 しかし、実際には消費者の不満は「必要な情報提供がない」「必要なサービス内容を理解していない」などです。一方、労働者が十分なサービスを提供できない理由として挙げたのは「教育訓練を受けていない」や「低い勤労条件で不安」などでした。消費者と労働者はともに「商品の正確な情報提供」や「サービスの質を高める方策」を求めているとわかりました。
 この結果を受け、労使合意で感情労働者保護のとりくみが始まっています。暴力・暴言は人権侵害であることや、そうした行為は告訴する場合があることを掲示・広報したり、深刻なケースは告訴するなどの対応をしています。
 また感情労働者への手当や特別休暇なども次第に増えてきました。

■人権、女性、非正規

 16年にはソウル市で「感情労働者の権利保護などに関する条例」を制定。ソウル市感情労働権利保護センターが設置されました。昨年制定された産業安全保健法にも感情労働者保護が盛り込まれました。
 感情労働者の多くは女性労働者であり、非正規労働者です。この問題に、消費者団体と労働組合がいっしょになってとりくみ、キャンペーンを広げ、それをマスコミも報じて大きな世論となり、感情労働者を守る法律を実現しました。

(民医連新聞 第1694号 2019年6月17日)

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