民医連新聞

2019年6月18日

相談室日誌 連載466 不安定な働き方の広がり社会保障からこぼれる労働者(長崎)

 Aさん(50代、女性)は、離島で夫とふたり暮らし。3人の子どもは、それぞれ独立しています。自宅で意識障害と嘔吐があり、救急病院に緊急搬送。検査の結果、左小脳梗塞と診断されました。救急病院での治療も落ち着き、ADLも身の周りのことは自立しましたが、嚥下障害が残り、経管栄養中です。経口摂取リハビリを目的に、当院回復期病棟に転院しました。
 Aさんの世帯は、行政の委託事業の仕事で生計を立てています。しかし、今年度からその事業が別の業者に一括委託されることに決まり、今後の収入の見込みがなくなりました。子どもの就職資金として組んだローンの返済中です。さらに夫も心疾患を抱え、大学病院で手術をすすめられており、入院費の支払いが不安だとの訴えがありました。当院の無料低額診療事業(以下、無低診)の申請をすすめ、窓口負担は全額免除となりました。リハビリテーションも順調にすすみ、経口摂取ができるようになり、無事自宅へ退院しました。
 経口摂取できるようになったからといって、ひと安心ではありません。これからの仕事や生活、夫の治療のことなど、無低診だけでは対応できない課題も多く残ります。預貯金がまだありますが、今後、機を見て生活保護の申請も相談することにしています。
 今回のケースのような業務委託契約の場合、労働契約が発生せず、労災、失業保険、厚生年金などの社会保険に加入できないケースが多いのが現状です。社会保険の加入者であれば傷病手当や失業給付を受給し、当面の生活保障がありますが、それもありません。
 労働者の4人に1人が非正規雇用という時代の中で、本来病気や急な失業時に機能すべきセーフティーネットが機能せず、即座に貧困に陥るケースが多くなっています。社会保障の機能や役割が後退する中、無低診とそれに携わる私たちソーシャルワーカーが、ほかの社会資源や機関につなげていかなければならない、と感じた事例でした。

(民医連新聞 第1694号 2019年6月17日)

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