いつでも元気

2019年7月5日

まちのチカラ・群馬県嬬恋村 
高原キャベツと愛妻家の村

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

日本一の生産量を誇る嬬恋高原キャベツ(嬬恋村提供)

日本一の生産量を誇る嬬恋高原キャベツ(嬬恋村提供)

 群馬県西端の嬬恋村には、生産量日本一のキャベツ畑が広がります。
 ヤマトタケルノミコト(日本武尊)が亡き妻を偲び、「吾妻はや(わが妻よ)」と嘆いた故事から「嬬恋」と名付けられました。
 高原の爽やかな風が吹く“愛妻家の聖地”を訪ねました。

 東京から車で約3時間。上信越自動車道を碓氷軽井沢インターで降り、爽快な高原道路「鬼押ハイウェー」を抜けると、キャベツ畑と空がどこまでも続く嬬恋村に到着します。
 村中央の山裾を走る広域農道「つまごいパノラマライン」は、全長約30kmの絶景が続くドライブルート。浅間山、四阿山、本白根山などに囲まれ、山麓の緩やかな斜面に広がるキャベツ畑はまるで緑のパッチワークのようです。
 村で夏から秋に収穫される「嬬恋高原キャベツ」の生産量は全国1位で、そのシェアは首都圏で消費されるキャベツの約8割。村は標高700~1400mの高原地帯にあり、6月~9月の平均気温が15?20℃と涼しく、キャベツ栽培に適しています。
 手に取ってみると一玉がずっしりと重く、朝晩の気温差が大きいことで甘くおいしく、高原の朝露のおかげでみずみずしいキャベツになります。村の農家がオススメする食べ方は千切り。採れたてで新鮮な生キャベツの味と食感は格別です。

畑の中心で愛を叫ぶ

 嬬恋村は村名にちなみ“愛妻家の聖地”として村おこしに力を入れ、「妻との時間をつくる旅」をコンセプトに観光の促進をはかっています。古くからの湯治の名所「鹿沢温泉郷」や「万座温泉郷」、雄大なネイチャースポット「高峰高原」や「バラギ湖」など、多数の観光地を巡るスタンプウオークやツアーを実施しています。
 取材したのは平日にもかかわらず、夫婦でドライブを楽しむ車6台とすれ違いました。車を降りた年配の夫婦が、手をつないで歩き始めたことに感動です。
 村最大のイベント「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ(キャベチュー)」は、毎年9月に行われます。「日本愛妻家協会」が2006年に始め、今では村との共催。昨年は約30人が妻への感謝、永遠の愛、プロポーズなどを「愛妻の丘」で叫びました。
 「85歳の男性が、『奥さんが毎日作るサラダがおいしい』と感謝の気持ちを叫んだ時は、じんわりと感動しました。他人にとっては些細なことでも、夫婦にとっては大きなドラマがあります。大切な人に想いを伝えたいという方には、ぜひ来てほしいです」と語るのは、嬬恋村役場総合政策課の久保宗之さん。
 いただいた名刺には“ツマー”コンダクターの肩書が。「夫婦で旅するツアーならお任せください。ダジャレですけどね」と満面の笑み。今年で14回目となるキャベチューを盛り上げてきた立役者の一人でもあります。

「愛妻の丘」で妻に愛を叫ぶ(嬬恋村提供)

「愛妻の丘」で妻に愛を叫ぶ(嬬恋村提供)

アートで交流

 キャベツ農家3代目の干川大地さんが、若手農業青年グループ「BRASSICA(ブラッシカ)」を結成したと聞き、会いに行きました。7月にキャベツの苗約600株をハート型に植え、9月に参加者と収穫するイベント「ハートきゃべつ畑プロジェクト」を開催しています。
 村のキャベツ農家のほとんどは家族経営で、平均栽培面積は東京ドーム1個分(5ha)と大規模。繁忙期は午前2時から収穫が始まり、市場や農協を通して出荷します。 
 「毎日、畑でキャベツの顔しか見ない仕事ですから。今まで関わることのなかった消費者の皆さんと、コミュニケーションをとる場をつくりたいとプロジェクトを企画しました。食べた感想を直に聞き、モチベーションも上がりました」と干川さん。

叫ばれビールを醸造

 村の新しいお土産も生まれています。2014年に村主導で「嬬恋村愛妻ブランド開発会議」が発足、20数人の有志が集まってアイデアをひねり出しました。
 ビール醸造所「嬬恋高原ブルワリー」オーナーの黒岩修さんも、開発会議のメンバー。キャベチューの会場で愛の叫びを浴びせた自家栽培の麦を使い、「叫ばれビール」を醸造しました。ラベルにはイベントポスターで使ったデザインを使用しています。
 「アルコールの力を借りて、ふだんは言えない奥様への感謝の言葉を伝えてみませんか?」と黒岩さん。
 キャベツ農家に嫁いで30年の松本もとみさんは「キャベツの収穫時期だけでなく、年間を通してお届けできるような新しいお土産を作りたい」と、土産品ブランド「妻の手しごと」を展開しています。
 第一弾として、「キャベツ酢」と、その酢と組み合わせたご当地サイダー「愛妻ダー」をプロデュース。新鮮なキャベツを搾汁し、昔ながらの製法で2カ月間熟成させたお酢は、うまみ成分が引き出されキャベツの甘みがほんのり。「今夏には、キャベツクッキーや激辛キャベツ肉まんも考えています」と、松本さんの夢は膨らみます。

嬬恋高原ブルワリーの黒岩修さん

嬬恋高原ブルワリーの黒岩修さん

キャベツ農家の松本達也さん・もとみさんご夫婦

キャベツ農家の松本達也さん・もとみさんご夫婦

ペンションで食養生

 嬬恋村は別荘やペンションが多く、避暑地としても人気です。4年前に東京から移住し、ペンション経営を始めた夫婦がいると聞き訪ねました。
 小鳥がさえずる森に佇む「ペンションすこやか」は、アットホームで居心地の良い雰囲気。「生涯健康が人生最大のテーマ」と語る山岸眞弓さんは、幼い頃は身体が弱く医療関係の道に進みました。そして行き着いたのが自然医学。自然医学に沿った食養生メニューを考案し、プロの板前だった夫の荘仁朗さんが作ります。
 無添加・手づくりにこだわった、地元野菜中心の和食は身体を生き返らせてくれます。体質改善のためのデトックスメニューや糖尿病対策メニューなどもあります。
 「自然に囲まれると心身ともに癒され、人間らしい生活ってこういうことなんだなと実感します。食べ物も空気も、安心してとり入れていただきたいです」と眞弓さん。
 夏は天然のクーラーと言われる高原の風が吹き、最盛期のキャベツ畑が絶景の嬬恋村。夫婦で大切な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

「ペンションすこやか」の山岸荘仁朗さん・眞弓さんご夫婦

「ペンションすこやか」の山岸荘仁朗さん・眞弓さんご夫婦

■次回は東京都新島村です。


まちのデータ

人口
9805人(5月1日現在)
おすすめの特産品
キャベツ、じゃがいも、紅花いんげんとうもろこし
アクセス
東京から車で約3時間。JR上野駅から特急で2時間40分、万座・鹿沢口駅から無料送迎バスあり
連絡先
嬬恋村観光協会 0279-97-3721

いつでも元気 2019.7 No.333

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