MIN-IRENトピックス

2019年7月5日

あすをつむぐ看護

文・奥平亜希子(編集部)
写真・亀井正樹

満開の桜並木のもとを「気になる患者訪問」に向かう藤原さん(左)と森師長

満開の桜並木のもとを「気になる患者訪問」に向かう藤原さん(左)と森師長

 「しばた協同クリニック」がある宮城県南部の柴田町。町内を流れる白石川沿いには桜並木「一目千本桜」が8kmにわたって続く。4月中旬、満開の桜のもとを歩く看護師長の森亜矢子さんと、藤原あづさ看護師の姿があった。
 クリニックでは、治療の途中で来院しなくなった患者に職員が手分けして電話をしたり、手紙を書いたりしている。それでも気になる患者は自宅を訪問することもある。
 患者宅に行くと空き缶が散乱しお酒好きだと分かったり、部屋が寒くて「この状態で冬を越せるのだろうか」と心配になったり。なかには「今あるお金で食べ物を買うか、治療を続けるか」と、二者択一を迫られるほど生活がぎりぎりな人も。「クリニックでよく顔を合わせる人でも、どんな生活をしているのかは分からない。“近くても見えないもの”はたくさんある」と藤原さん。
 気になる患者訪問は直接の収益にはつながらない。しかし、「最近、診察に来ないね」で終わらせず、職員が地域に出る行動にこそ“民医連の心”がある。呼び鈴を鳴らせば、「あぁ、クリニックね」と、玄関を開けてくれる住民。病気があっても困難があっても、その人らしく暮らせるように寄り添う姿が、地域の信頼を得ている。

予診室で話を聞く

 クリニックの1日の外来患者数は約80人。「予診室」を設け、医師が診察に入る前に看護師が患者から話を聞く。話題は病気や体調にとどまらず、世間話や思い出話を聞くこともある。
 看護師の芳原真由美さんは「クリニックという場所だからこそ、患者さんはいろいろな話を口にできることが分かりました」と話す。以前勤めていた民医連外の病院に予診室はなく、診察に必要なこと以外で患者と話す時間はほとんどなかった。
 予診室では身内が亡くなったこと、孫の登校拒否、娘の離婚など、つらい気持ちを吐き出し涙をこぼす人もいる。「病気と関係なさそうなことでも、その人が抱えている家庭の問題が不眠など体の不調につながっていることもあります」と芳原さん。
 「しんどいけど、看護師さんが優しいから来るのよ」と打ち明ける患者も。いざ診察室に入ると、医師を前にうまく話ができない人もいる。雑談をしつつ、言葉や表情の裏にある患者の“本当の訴え”に耳を傾ける看護師の存在が、クリニックの魅力につながっている。

ゆっくりと患者に話しかける芳原さん

ゆっくりと患者に話しかける芳原さん

不安に応えたエコー検診

 2011年に東北を襲った東日本大震災。柴田町も震度5強の揺れを観測した。クリニックは建物の損壊や津波の被害はなかったが、停電により暖房などが使えなくなった。日中は屋外の方が暖かかったため、軒先の通路で診療を行ったという。
 藤原さんは「地震の発生が金曜だったので、土日に片付けをして月曜から診療を再開。各地から駆けつけてくれた民医連の仲間が支援物資の運搬などを担ってくれたので、私たちは『医療現場を守ろう』と診療に専念することができました。震災から8年経った今でも、支援のつながりで健康まつりに参加してくれたり、復興の歩みを見ようと見学ツアーを組んで宮城まで来てくれます。継続して来てくれることは本当にありがたいですね」と言う。
 クリニックは福島第一原発から約60km。宮城県の県南地域は福島に近く放射線量も高い。にもかかわらず、県内では一部を除き自治体による被ばく検診は行われていない。地域住民は不安を抱えていても、相談できる場所や検査もないまま暮らし続けている。
 宮城民医連は14年1月から、福島県に隣接する白石市の「子どもを守る会」の要望を受け、クリニックを会場に子どもを対象とした「原発被ばく甲状腺エコー検診」を始めた。
 看護師長の森さんは「守る会の代表の方の『どこに訴えても検診の話を聞いてもらえなかったが、民医連だけが動いてくれた』という言葉が印象的でした」と語る。地域の人の声は、ただ待っているだけでは聞こえない。聞こえても動かなければ始まらない。しばた協同クリニックは安心して住み続けられるまちをめざし、住民とともに地域の健康を守っている。

いつでも元気 2019.7 No.333

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