MIN-IRENトピックス

2019年7月16日

医療は政治、貧困は健康の問題 格差解消のために行動を 虫になって木をみる 鳥になって森をみる

 6月15日、順天堂大学A棟会議室で、『健康格差』の著者、前世界医師会会長の「マーモット先生と語る会」が開催され、約450人が参加しました。全日本民医連は協賛団体として、大学の研究者と語る会の成功に協力してきました。貧困へのアウトリーチ、健康の社会的決定要因(SDH)の現状などを報告し、マーモットさんと交流しました。(長野典右記者)

■見えない貧困

 最初に「基礎ゼミの5週間で学んだ『健康の社会的決定要因(SDH)』」について、順天堂大学6年生の5人が報告しました。医学生はホームレス状態からの脱出をめざす団体にボランティアとして参加し、医療相談や夜回り、炊き出しなどホームレス支援活動を行いました。学生たちは、支援活動を通して活動前と比べてホームレスに対する考えが一変したことを語りました。貧困を自ら語る人は少なく、見えにくくなっているので、実際に地域に出ることの大切さを報告しました。
 横浜でホームレス支援の医療をしている山中修医師(ポーラのクリニック)は、学生が制作したビデオの中で「虫になって木をみる(診察というミクロな視点)、鳥になって森をみる(社会的な制度と生活環境を整えるというマクロな視点)という視点で治療する」ことの大切さを語りました。

■社会的診断の実践ツール

 愛媛県立中央病院の水本潤希医師は、「社会的バイタルサイン 日常診療に健康の社会的決定要因を実装する」を報告しました。民医連の事業所のメンバーが参加するチームSAILを代表しての報告です。報告ではソーシャルバイタルサイン(SVS)を把握するために、HEALTH+Pの7項目を抽出し、それぞれにWHAT、WHY、HOWを分析することで「社会的診断」を行おうという実践的ツールを紹介しました。また水本さんは、臨床現場で悔しい思いをしたとき、力がおよばなかったとき、マーモットさんの著作『健康格差』にある「何かやろう、もっとやろう、もっとうまくやろう」のことばを大切にしていると語りました。
 東京大学大学院の西岡大輔さんは、「日本の健康の社会的決定要因の現状と社会疫学が示すエビデンス、その対策」について報告。日本は世界的にみても突出した長寿国であり、平均寿命も延びています。しかし同時に、貧困率が上昇し、子どもがいるひとり親世帯は半分が貧困状態という現状にあること、また非正規雇用の増加や、ひとり暮らしの高齢者の孤立が健康状態に影響している現状も指摘しました。その上で、日本版社会的処方ともいうべき医療と介護、保健と福祉の連携による統合的なケアをめざす連携したとりくみなど、可能性をもった社会として考えることもできると問題提起しました。
 これらの報告にマーモットさんは、「学生がコミュニティの現場に出かけていることが素晴らしい」「医師がソーシャルモデルとして病気になる背景を理解しようとしていることに勇気づけられた」と感想を述べました。

■つながりの大切さ

 その後の講演の中でマーモットさんは、南アフリカで年間7万ドルの所得の男性の平均寿命は62歳なのに対し、コスタリカでは同じ所得の男性の平均寿命は77歳と、社会でのつながりを持つことが平均寿命に影響を与えたことを紹介しました。ウイルヒョウ(ドイツ人医師、白血病の発見者)の言葉も引きながら、医療は政治の問題であり、貧困を健康の問題としてとらえること、排除されている人、恵まれない人に対して、格差を解消していく行動を呼びかけました。

(民医連新聞 第1696号 2019年7月15日)

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