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2019年7月16日

診察室から 私のお猫様物語

 家で生まれた双子の猫が昨年、17歳で相次いで亡くなった。静かになった家に寂しさを感じていたが、還暦を過ぎた私は子猫を迎えることをちゅうちょした。
 そんな時、近くのデパートで開催された猫展にふらりと立ち寄った。猫たちは東京の猫派遣会社からのお勤めだと。会社では170匹の猫が待機していると聞いた。
 「売っていただけませんか?」
 「大きくなって売り物にならない猫がいるのだけど、むしろもらってくれませんか?」
 首が傾いている障害があるという。私は喜んで引き取った。
 7歳女の子と5歳男の子。うちでは初めての血統書。ジルコニアと虎次郎と名付けた。通称ジルとにゃーじ。猫派遣会社で育てられたからか、お客様大好き、なでてもらうのも大喜び。けれども、抱かれるのは嫌い。
 主治医は首の傾きは外耳炎のくり返しが原因と、耳の治療を開始した。真っ黒な耳垢には疥癬(かいせん)がいた。外耳炎のくり返しでジルの耳管は狭窄し、聴力も劣っていた。耳の治療の継続で傾きは改善し、聴力が戻ってきている。
 何より困ったのはジル姫様の夜中の絶叫。はじめはただ困り果てていたが、黙ってなでてあげると次第に落ち着いてきた。新しい居場所で自分の存在確認をしていたのかもしれない。
 にゃーじ君はマイペース。遊びたい時は、消しゴムでも乾電池でも飛び上がったり、飛び込んだり。なでられるとうれしくて、長毛種のためもあり、よだれがタラッ。ジル姫様の自己主張にはあらがわずテリトリー侵略されても即刻明け渡す。お姉様には抵抗しないにゃーじ君なのだ。案外この子たちはこの上ない相性なのかも。
 半年が過ぎて、夜中の騒動もなくなり、表情も和らいだ。日曜日、布団の上で、右手は頭のそばで昼寝しているにゃーじ君のふわふわをなでながら、左手で好きな時代小説をめくる。ジル姫様は足の上で寝ている。なんとも優雅な時間である。私はお猫様にお仕えして満たされている。

(阿部佳子、川久保病院)

(民医連新聞 第1696号 2019年7月15日)

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