MIN-IRENトピックス

2019年7月16日

フォーカス 私たちの実践 認知症利用者の思いをくみ取る石川・デイサービスなんぶやすらぎ 職員の連帯で喜怒哀楽を受け止め安心して生活できるケア

 気分の変動が激しく怒りの感情が強く出るAさん。興奮して言葉を荒らげたり、蹴るなどの行動が見られることもあり、職員は戸惑い、悩みながら、対応を検討してきました。本人の思いに応えたいと模索しながらかかわってきた1年間について、第14回看護介護活動研究交流集会での介護福祉士・花島慶子さんの報告です。

 Aさんは、70歳代の女性で要介護4、夫と2人暮らし。介護サービスの利用はデイサービス週3回、ショートステイ月2回。病歴は脳出血、失語症、認知症です。高卒後、繊維関係の会社に就職し、結婚後専業主婦に。趣味は絵、手芸、花木の世話でした。
 利用開始の経緯は、20XX年に脳出血、失語症。20XX年+3年に金沢へ転居、Bデイサービス利用、20XX年+5年9月、夫が体調を崩し緊急入院、Aさんはショートステイを利用。その後、10月にデイサービスなんぶやすらぎの利用開始となりました。
 当施設は特養併設で定員10人の地域密着型デイサービスです。

■いっしょにお風呂に

 職員が一番悩んだのは入浴支援でした。「私を殺す気か」「あんたが脱がんのはずるい」と入浴を嫌がりました。いろいろ工夫して入ってもらっても、お湯をかけてきたり、叩いたりする日が続きました。そこでAさんの「あんたも脱いでや」の言葉を受け止め、いっしょに入ることにしました。職員が服を脱ぐのを見て「脱ぐの?」と拍子抜けするほど簡単に自分から脱ぎ始めました。そしていっしょに湯船に浸かると「気持ちいいね」と満面の笑顔で職員の肩にお湯をかけてくれました。それから数カ月、いっしょに入ることでAさんの「不安」は解消しました。

■ひもときシートを活用

 私たちの職場では、ひもときシートを活用し思考の整理を行っています。このひもときシートとは、評価的理解として、援助者として感じている課題を評価。そして分析的理解として、根本的な解決に向けて多面的な事実の確認や情報を整理します。共感的理解のために、本人の視点から課題の解決ができるよう援助者の思考展開を行います。
 迎え時、夫から排便、睡眠の状況など体調を詳しく聞き、今まで以上に体調、気分の変化に配慮しました。入浴時間を午前にこだわらず、午後の気分の良さそうなとき、手を握って安心した表情のときに誘いしました。「Aさんお風呂にいきましょうか?」と声かけすると、にっこりと「入ろうか」と言う日もあります。
 食事は、食べたくなったときに食べてもらう、小さいおにぎりをそばに置いておく、職員といっしょに食べる、食べ始めだけ介助する、食べやすいものから1品ずつ提供、好きな甘いものからすすめる、いつも座っているソファーで食べてもらうなど工夫しました。
 水分摂取は、湯呑に半分ぐらい入れ、ソファーの横にお盆にのせてそっと置いておくとたくさん飲むようになりました。便秘がちなため、栄養課の協力を得て便通によいレシピを夫に渡すなど食事のアドバイスをしました。またケアマネジャーと連携し、医療機関への受診を勧めました。
 すごし方として大事にしてきたことは、本人と家族の声をよく聞くこと、3カ月に1回の自宅訪問で夫から話を聞きました。興味・関心シートを記入、センター方式シートの記入、日々のミーティング、カンファレンス、部会で検討し 情報を共有。Aさんがよりよく暮らせるよう、デイで心地よく過ごせるようチームの力でケアを実践しました。Aさんが歩きたいときに手をつないで歩く時間を何よりも大事にしました。

■本人の意思を尊重

 1年後の連絡帳に「今朝は洗濯後の衣類をたたむなど、今まで見向きもしなかった行動に驚いています」と夫の記入がありました。Aさんは鏡を見ながら「わたし年いったね。髪が白くなって、もうすぐ死ぬわ」と自分の気持ちをはっきり話し、職員は驚きました。
 本人の生活と人生を理解し、意思を尊重することが大切です。Aさんがそのときにいっしょにいたい職員との時間を尊重し、職員間で連携をとり、喜怒哀楽を受け止めてきました。職員がかかわり方を変える、認知症の人をそのまま認めて対応することで、認知症の人が安心して生活を送れるようなケアができることを、Aさんから学ぶことができました。
 今後もAさんのサインを真摯に受けとめ、安心して過ごせるケアの提供を行い、夫と2人の生活が継続できるよう支援していきたいと思います。

(民医連新聞 第1696号 2019年7月15日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ