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2019年7月16日

これでばっちりニュースな言葉 老後2000万円不足ではすまされない 全厚生労働組合元副委員長 こたえる人 廣部 正義さん

 金融庁は「公的年金だけでは老後2000万円不足する」という報告書の内容を公表。これにより国民の年金への不安が高まり、政府は慌てて受け取りを拒否。この報告書のねらいと、年金制度の問題点を、全厚生労働組合元副委員長の廣部正義さんが解説します。

■公的年金では足りない

 先の国会で、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書が大問題となりました。60歳まで生きた人は4人に1人が95歳まで生きると長寿化を予想し、老齢厚生年金(基礎年金含む)を月額約19万円とすると約5万円不足(図表)。そこで95歳まで生活するには30年間で約2000万円不足するという報告書が公表されました。
 当初は強弁していた政府でしたが、マスメディアと野党の批判が日増しに強くなると、麻生財務大臣はこの報告書は不適切で誤解を招くと、報告書の受け取り拒否を閣議決定までする前代未聞の異常さです。参議院選挙に響くことを恐れて、自ら諮問して得た答申を拒否するというダダッコのような政府の対応です。しかし、年金だけでは生活できないことは、日本年金者組合や野党からも前から指摘されていました。

■19万円以上の年金1割

 標準世帯のモデル年金ではなく、現実の年金受給額は次のとおりです。
 金融庁の報告書にある年金収入額(月額19万円)以上の老齢厚生年金(基礎年金を含む)を実際に受給している人は1割(約300万人)を少し超える程度です。(2016年度末現在)
(1)厚生・共済年金受給者(約3000万人)のうち月額10万円以下の年金受給者…1730万人
(2)20年以上加入者(厚生・基礎・共済)の平均年金額(月額)…14万5638円(1569万人)
 20年未満加入者(厚生・基礎・共済)の平均年金額(月額)…5万9100円(1420万人)
(3)老齢基礎年金のみ(厚生・共済なし)の人の平均年金額(月額)…5万862円(754万人)

■報告書のねらい

 年金受給者の生活実態は、金融庁の報告書より厳しいのが現実です。
 国民の長寿化と老後資金にふれた報告書のねらいはなにか。報告書は、老後に不安を抱く国民が貯蓄に走り、お金が金融市場に回らないことを解消する目的で書かれたものです。老後資金が足りないから投資で稼げとハッパをかけたつもりが、年金不信を招き、麻生財務大臣にすれば「寝た子を起こしてしまった」と、ほぞをかむ思いでしょう。
 しかし、政府のすすめる年金減額計画(マクロ経済スライド)が実行されていけば、現役世代の年金額は40年掛けても月額10数万円で3600万円も不足するという試算すらあります。

■国民の年金を守る方法

 公的年金制度は社会保障の中心です。世代間扶養ではなく、大企業や富裕層から貧困層への所得の再配分がなければ成り立たないものです。格差社会ではなおさらのことです。
 現行年金制度は、基礎年金に国庫負担があるだけ。全ての年金に国の負担を増やし安定した年金財源を確保することと、時価ベースで170兆円を超える年金積立金の株式市場への投資を減らし、年金財源に有効活用することが必要です。
 当面、すべての年金受給者に40年納付者と同額の国庫負担分を支給することが必要です。ちなみに、日本年金者組合などは、成人後に日本で10年以上暮らしていた65歳以上の人には、最低保障年金として、全額国庫負担で月額8万円支給することを提言しています。
 国民の老後生活を守るうえで、いま重要なことは野党の議員数を増やすことです。


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(民医連新聞 第1696号 2019年7月15日)

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