MIN-IRENトピックス

2019年8月9日

LGBTの当事者からあなたへ

伊藤 悟

 本誌に「ひょうたん島便り」を連載中の伊藤悟さんは同性愛者です。
 同居する男性が急病で入院した際、診察室に入ることすらできなかった伊藤さん。
 医療従事者に向けた思いを手記にまとめてくれました。

 私とパートナーの簗瀬竜太は今年1月、千葉市の「パートナーシップ宣誓制度」に基づき、市長から宣誓の証明書とカードを受け取りました。パートナーシップ制度を導入する自治体はまだ少数で、私たちは千葉市に引っ越してまでこの宣誓をしました。
 きっかけは8年前、簗瀬が急病になり救急車で病院に運ばれたことです。私は同性パートナーとは言い切れず、「仕事上のパートナーで同居している」とお茶を濁しました。すると看護師から「親族の方ではないんですね」と言われ、激痛で苦しみ言葉を発するのも困難な簗瀬に代わって、病状を説明させてもらえませんでした。救急処置室からCTスキャンへと回されている間も、何も知らされず廊下で待っていなければなりませんでした。
 1時間近く経って尿管結石だと分かりました。しかし病状を詳しく知ったのは、簗瀬が大量の水を飲んで石が体外に出てからのことです。
 簗瀬はこの時、私と言葉も交わせず「このまま亡くなったらどうしよう」とまで思い詰めたそうです。医療面だけでなく、男2人では賃貸マンションを借りられないことも多く(高齢者や障がい者、外国人にも同様のことがあります)、生活面での不自由は多岐にわたります。異性カップルと対等な選択肢を持ちたいとの願いを込め、パートナーシップ宣誓をしました。
 身寄りがない患者への対応のため、厚生労働省は病状説明や入院・手術の同意に関して、「親族等」と「等」を付けた通達を出し柔軟な対応を求めています。しかし拘束力はなく、対応は各病院に委ねられています。同性パートナーは他の誰より病人のことを知っていても、診察室からも病室からも排除され、死に目に会えないこともまだまだ少なくありません。 
 これからパートナーと病院に行くときは、パートナーシップ宣誓証明書とカードを提示し、「異性のパートナーと同じ扱いをしてほしい」と伝えていこうと決意しています。

“ふつう”を装う

 病院にはさまざまな人が訪れます。その中には私たちのように、「LGBT」と呼ばれる人もいます。性のあり方を考える時には、性自認(自身の性別認識)と性的指向(性的な魅力を感じる性別)を基準にし、両者を組み合わせながら枠組みを作るのが世界のすう勢です()。
 LGBT以外にもアセクシュアル(他者に性的関心が向かない)やXジェンダー(性自認がどちらでもなく、中性・両性・不定など多様)など、さまざまな性のあり方が存在します。多数派とされる異性愛も性的指向の一つにすぎません。
 トランスジェンダーの人も病院ではしんどい思いをしています。「問診票に性別を書けない」「診察のときに状況を説明しにくい」「窓口で自分が望む名前で呼んでもらえない」…。できるだけ本人が望む性別で対応し、不必要な性別記入欄をなくし、LGBTであることを話せる雰囲気を病院全体に広げてほしいと思います。
 なお「性同一性障害」という言葉は、医学的処置を求めるトランスジェンダーの人に向けて作られた医学用語です。呼び方も国際基準で「性別違和」「性別不合」などへ変化しつつあり、どう呼ばれたいかは人によって変わる点にも配慮してください。
 LGBTの人たちは、長い間社会に受け入れられませんでした。テレビでいじられたりからかわれたりして、それがそのまま学校や職場で再現されています。自身のセクシュアリティーを話すことはままならず、隠したり取り繕ったり、時には嘘をついたりせざるを得ない生活を強いられてきました。
 なぜなら“ふつう”を装わないと、人間関係を維持できないからです。よく「LGBTに出会わない」という人がいますが、率直に自分の性のあり方を伝えられないだけです。

マニュアルでは対応できない

 以前より情報が発信されるようになったとはいえ、十分ではありません。特に子どもたちは誰にも相談できずに孤立しているケースが多いようです。病院へ行くこと自体が怖くて、病状を悪化させてしまう人さえいます。
 どうか、LGBTについて情報を集め、研修を組み、病院での対応を変えていくことを始めてください。それぞれの職場で、差別的な話をしていないか、人権感覚を磨く必要もあります。
 LGBTのみならず少数派の人が診察に必要な自分の思いを話せずに、適切な対応がなされていない場合も多いと思います。どんな患者さんも受け入れて、話をしっかり聴いてください。セクシュアリティーに関しては一人ひとり個別に違い、マニュアルでは対応できません。こうした点に配慮して、“ふつう”や慣習にとらわれない病院空間を創出していただければと思います。

パートナーシップ制度 同性同士や事実婚のカップルを、婚姻関係に相当するものとして公的に認める制度。自治体が条例や要綱等で独自に制定。法律上の効力はないが、自治体が異性間と同等の権利の保障に努力するとともに、当事者にとっては今まで否定的に扱われてきたパートナーシップが承認されるため励ましとなる。2015年に東京都世田谷区と渋谷区が初めて導入、7月現在24自治体に広がる
LGBT 性的少数者の中で有名なカテゴリー(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の英語の頭文字を並べて作った言葉
トランスジェンダー 出生時に割り当てられた性別(戸籍の性別)と異なる性別で生きる人


伊藤悟(いとう・さとる)
作家、音楽評論家。2015年10月号から、本誌に「ひょうたん島便り」を連載中。多様な性を生きる人を応援するNPO法人「すこたんソーシャルサービス」代表
www.sukotan.jp

いつでも元気 2019.8 No.334

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ