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2019年8月20日

医療介護倫理交流集会 「その人の最期の意思決定~どう支援するか」を考える

 全日本民医連は5月25~26日、東京都内で第43期医療介護倫理交流集会を開き、43県連から338人が参加しました。医療と介護の合同で行うようになってから3回目の開催です。今集会では「人生の最終段階の意思決定~どう行うか、どう支援するか」をテーマに掲げ、1日目の全体会と2日目の5つの分科会で深めました。

(長野典右、丸山聡子記者)

 冒頭、全日本民医連の根岸京田副会長があいさつ。あずみの里裁判で有罪判決が出たことに触れ、「安全管理の課題であると同時に介護現場での倫理課題の側面もある。医療・介護の倫理問題を議論し深めよう」と呼びかけました。
 全日本民医連医療介護倫理委員長の大石史弘さん(医師)が問題提起をしました。はじめに、今期の運動方針の「『医療・介護活動の2つの柱』をさらに前進させ、地域包括ケア時代に民医連の新たな発展期を築こう」との提起を紹介し、医療・介護安全の倫理的課題での連携モデルを築こうと述べました。安倍首相がねらっている憲法改悪に触れ、「現行憲法の理念は臨床倫理4原則(自立尊重原則、善行原則、無危害原則、公正原則)にも通じる。改憲を阻止することは倫理的課題であることを確認したい」と強調しました。
 厚労省は2018年3月、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を発表。学習と振り返りが求められます。旧優生保護法下の強制不妊手術について、なぜ日本国憲法の下で重大な人権侵害が続いてきたか検証が必要であること、LGBTの人たちへの差別的発言が相次いでいることに関連し、差別と排除は人権侵害であり、医療・介護現場での見直しと改善を呼びかけました。

■ピース(思い)をつなぐ

 記念講演は、国立長寿医療研究センター病院エンド・オブ・ライフ・ケア・チームの西川満則さん(医師)が「アドバンス・ケア・プランニングとは何か~本人の意思や人権を尊重したアドバンス・ケア・プランニングの実践」と題して行いました。西川さんと連携している居宅介護支援事業所・快護相談所和(わ)び咲(さ)びの大城京子さん(ケアマネジャー)が、事例をもとにとりくみを紹介しました。
 西川さんは、アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)について、「エンド・オブ・ライフと緩和ケアの中核的な概念」であり、「ACPそのものが人権を尊重する活動」と紹介(資料1)。「ACPは、日常の医療・介護の現場で吐露された思いを、かかわっているスタッフが大切にし、多職種がかかわる会議などで、聞き取った思いを出し合い、いのちをつなぐ連携だけでなく、本人の希望をつなぐ連携をすること。それぞれのスタッフが聞いたピース(思い)を集めることが重要です」と話しました(資料2)。
 西川さんは「その人が価値観を表明するような、例えば『機械につながれるのは自分らしくない』など、本人が何気なく発した思いもACPの始まり」と述べ、最期に思いが実現されるまでがACPだと強調。「延命処置をする・しない」など医療の選択にとどまらず、「人生の価値観」「譲れないこと」「大切にしていること」を踏まえるには介護職もかかわることだと指摘。地域や市民に向けたACPを伝える活動も紹介しました。
 大城さんは、複数の事例を紹介しながら、「思い」を実現する段階でのスタッフの葛藤や、家族の思いとのジレンマなどを語りました。特に本人が事前に語ったACPと家族の感情が対立したケースについて、「在宅現場でのジレンマ、答えのない戸惑いの中で、感情も言葉にして、もがき、本人と家族に向き合い、『医療・ケアチームで本人にとっての最善を考え抜く。そのことで本人の価値観をくむことができる』と思った。モヤモヤする感情は正しい道のりだと感じた」と語りました。

■“意思決定”を考える

 「さまざまな場面の意思決定」をテーマに、在宅や特別養護老人ホーム、地域包括ケア病棟、救急などの分野から報告し、パネルディスカッションを行いました。パネリストは、北海道・勤医協札幌西区病院副院長の吉澤朝弘さん、北海道・特別養護老人ホームもなみの里の施設長の鈴木貴人さん、福井・光陽生協病院看護部長の田上和枝さん、青森・健生病院ソーシャルワーカーの工藤聡子さんと、記念講演の西川さんです。
 吉澤さんは、2017年に病院全体で「わたしの希望」を作成・活用していると紹介。「決定した意思に対して、本人・家族が“揺らぐ”のは当たり前のこと。支援する私たちも不安や迷いを感じる。多職種協同チームや連携事業所の職員への心理的サポートも必要。看取りに向けた意思決定支援の実践は、地域のネットワークを広げ、無差別・平等の地域包括ケアの基礎となる」と語りました。
 鈴木さんは、本人が意思を伝えられる状態になく、家族の協力も得られない中で看取った経験を報告。「その人らしい生活は何か、医療ケアの内容を誰が決定するのかを踏まえて倫理カンファレンス(法人内)を行うこと、認知症でも本人が発する言葉の中に意思や希望が含まれており、家族に代わってできることがあること、医療ケアの内容について最善の方針を話し合う場を持つことの重要性を感じた」と結びました。
 光陽生協病院は18年4月から47床全床を地域包括ケア病床としました。急性期治療後の転院と在宅からの入院受け入れ、在宅復帰支援が求められますが、期間は60日以内と定められており、田上さんは「縛りの厳しさと同時に医療倫理が問われる」と指摘。「『医療費の削減を目的とした選択を患者に迫るものではない』ことを見逃さず、民医連らしいACP支援を実践したい」とまとめました。
 健生病院は新築移転にともない、ワンストップで支援できるように6つの部門を1つのセンターにまとめました。工藤さんは、救急搬送後、短期間で亡くなった2人の事例を紹介。「いずれも終末期や最期について本人の意思確認が難しい状況だった。多職種でカルテに詳細を記載したことで、思いを共有できた。当院だけでなく、外部の関係機関や行政を巻き込み支援することも大事」と語りました。

 (本集会の詳細は、『民医連医療』9月号で特集しています)


支援チームで患者の多様な側面を知る

学習講演 「認知症の世界」

福岡・みさき病院医師 田中清貴さん

 2日目は、5つの分科会を行いました。テーマは「多職種協働で取り組むACP」「DNAR指示についての正しい理解を広げるために」「認知症の人の意思決定支援」「介護現場での倫理的ジレンマ」「初めての倫理カンファレンス」です。「認知症の人の意思決定支援」の分科会で福岡・みさき病院院長の田中清貴さんが行った学習講演「認知症の世界」の概要を紹介します。

 認知症の症状は、物忘れ、五感が鈍る、理解、判断能力の低下などにより、生活障害や行動障害が出てきます。症状の進行とともに、その自覚が乏しくなることも特徴です。

訴えの中に多くの事実

 ただ、認知症だから全てが理解できなくなるわけではありません。認知症の70代の独居女性から、2階に泥棒が住んでいて最近は妻子を呼んで風呂に入っているとの訴えがありました。勝手に電気や水も使い、飲食物も盗っている、トイレや浴室に毒をまいている、との訴えです。自宅を訪問してわかったのは、水道の蛇口が開いたまま、食物は自分が飲食しており、トイレや浴室の毒の正体はカビでした。そして2階に泥棒が住んでいるとの訴えは、実際にスタッフが宿泊して観察すると、欠陥住宅で隣の部屋の生活音が天井から響く構造になっていました。解釈は間違えていますが、その訴えの中には多くの事実が含まれていました。

意思と異なる言葉で表現

 認知症のため独居が困難になり、施設入居となった90代の女性は、夕食が終わると何度も「家に帰りたい」と訴えました。帰れない理由をていねいに説明するとその場では納得しますが、すぐ同じ話がはじまりました。頻繁な訴えに職員は疲弊してきました。張り紙やニセ電話なども試みましたが逆効果でした。しかし、「息子さんに明日電話する」という「魔法の言葉」が問題を解決しました。この女性は、息子に電話してほしいとの気持ちを「帰りたい」との言葉で訴えていただけでした。認知症の人は、自分の意思を異なる言葉で表現してしまうことがあります。私たちは、認知症の人が本当に伝えたい(であろう)言葉を想像し、確認してみる必要があります。

現場での行動や表情を観察

 重度認知症の90代の女性は終末期のがんに侵されていました。家族との相談で看取りの方針となり、いのちの終わりが予想される頃、最後の外出を試みました。自宅に戻ると、病院ではほとんど動こうとせず娘の顔も認識できなかったのに、娘を見て彼女にハグをし、「大切なことをしないと」と仏壇に手を合わせました。80代の認知症の男性患者は、肺炎後は全く食事を食べませんでした。本人の意思表示はなく、家族と主治医との話し合いで胃ろうをつくることになりましたが、小規模多機能ホームの施設長の提案で、胃ろうの順番を待つ間、施設に戻ることになりました。施設に戻ったその日、大好きなうどんを食べ、その後は徐々に食べられるようになり、胃ろう造設は中止しました。
 未来や抽象的なことを理解しにくくなった認知症の人は現場主義です。病院を出てその現場まで足を運び、その人の行動や表情を観察することは、倫理問題を解決する助けになるかもしれません。
 認知症の人の自己決定をささえるためのヒントは、それぞれの場所での本人の言葉や行動、その人の多様な側面を知っている人たちに隠れているかもしれません。家族だけでなく、長年その人をささえてきた施設の職員、友人や近所の人なども、認知症の人の意思決定をささえるチームの一員といえます。

(民医連新聞 第1698号 2019年8月19日)

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