MIN-IRENトピックス

2019年8月20日

民医連綱領 実践10年へ 困難事例を医師が発信 香川・高松平和病院 SDHに“鼻が利く”病院に

 民医連綱領改定から来年で10年。そこで、綱領を柱に行われている、さまざまな実践に目を向けます。香川民医連ではSDH(健康の社会的決定要因)を明らかにした事例報告をニュースにして発行。事業所内にSDHを浸透させるために、医師から職員に向けて発信している高松平和病院を取材しました。

(代田夏未記者)

 同院の職員更衣室につながる通路にはニュースが掲示されています。「月刊SDH(Sさぁ Dできたことを H発信しよう)News」です。「職員が朝と夕方の2回、必ず通る更衣室の通路に張っています」と言うのは、ニュースを作成する香川民医連医師委員長の原田真吾さんです。

■SDHの視点で事例深める

 7月21日、今年度の第1回香川民医連医師団会議がありました。医師23人中19人が参加し、医師集団をどうつくるかについての講演とディスカッションを実施。「月刊SDH News」のネタになる、SDHを意識した症例報告もありました。報告は、同院の中平旭医師と植本真由医師です。

〈家族の困難も支援〉
 中平さんの報告は「多発胸腰椎圧迫骨折の入院で判明したいろいろな家庭問題」。80代女性のAさんは腰背部痛を訴えて受診、原因は圧迫骨折で、入院することになりました。入院時は「痛みはほとんどないよ」と話していましたが、看護師やリハビリのカルテには「痛みが強い」と記載があり、そのギャップに違和感を持ちました。
 痛みは入院後、徐々に出始めました。今後のことを話すと「自分で判断できない」と、SWに介入を依頼しました。「息子の世話は困難だけど、自分からは言えない」と不安を抱えていました。息子は養育手帳を取得しており、平日は施設へ、土曜~月曜は来院し、Aさんの病院食を食べている様子でした。Aさんは入院して初めて、1人で息子の世話をするのが難しいと気づきました。
 今後、息子の担当者と面談をし、退院に向けた支援を行う予定です。「病状だけでなく、患者の周囲を見渡す技術が求められている」と中平さんはまとめました。

〈家族の意志尊重し見守り〉
 後期研修医の植本真由医師は研修先である愛媛生協病院の経験を報告。意識障害で救急入院したCさんは、精神疾患を抱えていました。家族と同居しており、家に数十年間引きこもり、入浴や着替えもしておらずアカだらけ。回診に行っても会話が難しい状態です。
 困難は、家族にもありました。周囲への不信感があり、治療への理解が乏しく、退院後、自宅療養は無理だろうと精神科病院や施設などを案内しました。しかし、家族の強い意志により、自宅に帰り訪問看護を受けることに。植本さんは「家族なりの愛情が周りから虐待と捉えられることも。できる範囲で説明しているが不安もある。ほかの医師やSWに相談したり、多職種で協力しながら対応している」といいます。

■ポイントは読みやすさ

 困難事例を取り上げるきっかけは、2018年に行われた全日本民医連医師委員長会議での長野県民医連の報告です。「長野県は広くて医師が何をしているか見えない。可視化できるように顔写真付きで、困難事例を報告する県連医活部ニュースを発行している」との報告に「うちでもやってみよう」と呼びかけました。奈良民医連の「Sさあ Dできることから H始めよう」ニュースも参考にしました。

「これってSDHじゃない?」

 半年に1度行う香川民医連医師団会議では、各事業所の各科の医師が交代でSDHによる症例を報告します。2018年7月の会議から始めました。2~3人の医師が困難事例を報告し、それを受けてニュースを作成します。ニュースは不定期発行で、報告した医師の写真と、簡潔にまとめているのがポイントです。8月5日現在で8回発行しました。

■気づく視点を

 「民医連の事業所は普段からSDHにあふれている」と原田さん。そのため、困難な事例でも自然に対応ができています。しかし、SDHの視点を意識しなければ「大変な事例だった」というだけで過ぎ去ってしまいます。また、隣にいる医師がどうとらえているのかはわかりません。そこで事例を可視化し、職員全体で事例を共有するために医師から困難事例を発信しています。
 原田さんは「これってSDHじゃない?」と1日1回は言います。そこには「SDHを広げて、その視点の感度を高めてほしい」という思いがあります。
 看護部会では「月刊SDH」を読んで、看護師の立場から事例発表を行うようになりました。総看護師長の森みどりさんは「民医連を感じてもらい、民医連綱領の理念や原点を考えるきっかけになっている。ニュースを続けてほしい」と言います。報告は全体会で多職種で共有し、ニュースは職員全体で共有しています。「気づく視点が身につく」と森さん。香川民医連会長の北原孝夫医師は「医師が先頭を切ってやることに意味がある」と言います。
 原田さんは「『やさしくて親切な病院』はたくさんあるが、『SDHに鼻が利く病院』はあまりない。今後はSDH塾やSDHカフェなどを開き、民医連だからこその病院づくりをしていきたい」と意気込みを語りました。

(民医連新聞 第1698号 2019年8月19日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ