いつでも元気

2019年9月30日

まちのチカラ・大阪府千早赤坂村 
大阪の秘境に魅せられて

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

金剛山はリピーターの登山者が多いことでも有名(千早赤阪村提供)

金剛山はリピーターの登山者が多いことでも有名(千早赤阪村提供)

 大阪の南東にそびえる金剛山は、標高1125m、登山者数は年間約100万人の名峰です。
 ふもとに位置する大阪府唯一の村が千早赤阪村。
 奈良県と和歌山県に接する奥河内と呼ばれる地に、続々と若者が移住しています。
 村の魅力を探しに行きました。

 千早赤阪村といえば、鎌倉時代の武将・楠木正成が「千早・赤坂城の戦い」を繰り広げた地域。1991年放映のNHK大河ドラマ「太平記」を覚えている人もいるかもしれません。楠木軍は金剛山の中腹にある千早城の地形と天然資源を利用し、100万もの幕府軍を撃退したと伝えられています。
 今は府道705号線から続く長い石畳の先に、城跡の碑と千早神社がひっそりと佇んでいます。しかし受験シーズンになると、落城しなかった千早城にちなみ“落ちない神様”を拝みに訪れる学生でにぎわうとのこと。千早神社の後は、村役場から徒歩10分の「楠公生誕地」も併せて訪れてみてください。

石畳の長い階段を上った先に現れる千早神社はパワースポットとしても知られる

石畳の長い階段を上った先に現れる千早神社はパワースポットとしても知られる

登山とリウマチ

 金剛山の登山口から徒歩10分の集落にユニークなカフェがあると聞き、訪ねました。築100年以上の古民家に、ネパールの雑貨や布が所狭しと並ぶ「DOLPO B.C.」です。世界や国内の登山に関する書籍もズラリ。
 13年前に村に移住したオーナーの稲葉香さんは大の登山好き。実は18歳からリウマチを患っており、山に出会うまでは苦しい闘病生活を送っていました。「29歳でネパールのヒマラヤ山脈に登ったとき、リウマチの症状が軽くなったんです。山の中で澄んだ空気を吸い、ヒマラヤの景色に感動していると痛みが嘘のように消える。大地の力、自然治癒力に気づきました」と稲葉さん。
 カフェの運営はパートナーの中野一さんに任せ、稲葉さんは大阪市内でヘアサロンを経営。片道1時間かけて都会と秘境を行き来する毎日ですが、「もともと旅が好きなので移動は苦ではありません」と元気はつらつ。
 ネパール好きや登山好きが集まるイベントを開き、村の歴史を地元の年配者に語ってもらうこともあったとか。「チベットでも金剛山でも、山の最果てで生きる人たちが、その土地の物語を語り継ぐ姿に惹かれるんです」と稲葉さん。愛する“山”と“人”に囲まれて暮らす生活こそ、特効薬に違いありません。

カフェ「DOLPO B.C.」の稲葉さん(右)と中野さん

カフェ「DOLPO B.C.」の稲葉さん(右)と中野さん

里山が育む笑顔

 登山口から車で15分、中津原地区にある「結の里」を訪ねると、朝から子どもの元気な声が響いていました。バンガローの裏手にある田んぼの畦で、汗だくになりながらオタマジャクシやイモリを捕まえています。
 結の里代表の谷純子さんが、「そろそろ森に行きますよ~」と声をかけ約30人の子どもと一緒に裏山へ。広場に着くと虫除けの火を焚き、木と木の間にハンモックやロープをかけて準備。あとは子どもたちが自由に遊び回るのを大学生ボランティアが見守ります。
 「子どもが外で思い切り遊べる場所を作りたくて裏山を整備したんです」と谷さん。児童館で知り合った親子5、6組も参加し、開拓団のごとく木の伐採や下草刈りに没頭。次第に光が差し込むと「森全体が歓迎してくれているように感じました」と当時を振り返ります。
 活動は口コミで広がり、今では年間1000人を超える子どもたちが訪れるように。不登校だった子どもが、自然体験をきっかけに将来の夢を見つけ、ボランティア活動を始めるようになったこともあるそうです。「みんな自然の力の賜物。私はただ『遊びにおいで』と言うだけ。人と自然を結ぶ、人と人も結ぶ、そういう場であり続けたい」と話す谷さん。目がキラキラと輝いていました。

棚田を守りたい

 続いて日本の棚田百選に選ばれた「下赤阪の棚田」へ。道路脇に立派な水路が敷かれ、手入れを重ねて受け継がれてきたことを垣間見ることができます。
 「金剛山のおかげで水は豊富ですが、かけ流すだけでは水温が一定にならないので、田んぼの中に小さな工夫がしてあるんですよ」と教えてくれたのは上地正幸さん。よく見ると山から流れてきた水が直接稲に当たらないように、田んぼの山側に盛り土をして細い水路が造られています。畦のあちこちに、なんとカエルの多いこと!
 大阪市内の郵便局に勤めていた上地さんが村で農業を始めたのは7年前。「安全な食べ物を自分で作れるようになりたくて、最初は週末だけ村に通って稲作を学びました」。次第に棚田の風景に惚れ込み移住を決意。総務省事業の「地域おこし協力隊」として村から任命され、農の活性化に取り組みつつ、来年には農業一本で生計を立てられるよう準備しています。
 「棚田での稲作は手間がかかるので、それだけで収益は見込めません。野菜や果物も栽培して、なんとか目標の7割くらいは達成できるようになったかな」と手応えは上々。
 近年は大学生のグループが継続的に手伝いに来るなど、棚田ファンも増えているそう。11月にはライトアップイベントがあるほか、道の駅「ちはやあかさか」の名物「棚田カレー」も大人気です。

9月に「はさ掛け」の風景が広がる村の棚田(千早赤阪村提供)

9月に「はさ掛け」の風景が広がる村の棚田(千早赤阪村提供)

空き家を希望者に

 同じく地域おこし協力隊で元小学校教師の菅原裕己さんは、空き家の利活用に取り組みつつ、起業に向けて準備している一人。村の魅力をイベントやインターネットなどで発信し、地元の人には空き家の提供をお願いして移住希望者に斡旋しています。
 「空き家はあっても、提供してもらうのは簡単ではありません。一緒に村を回り地元の人と親しくなるところから始めてくれる人じゃないと、なかなか家も見つからないし定着もできませんね」と菅原さん。それでも、これまで斡旋に成功した移住世帯は約10組。村の平均年齢は確実に下がっています。
 来年10月には 奥河内を舞台にした青春映画「鬼ガール!!」が全国で上映される予定。生活環境やライフスタイルを見直す人が増える中ますます千早赤阪村に注目が集まりそうです。

■次回は新潟県湯沢町です。


まちのデータ

人口
5202人(6月末現在)
おすすめの特産品
いちご、米、豆腐
アクセス
大阪阿部野橋駅から近鉄南大阪線・長野線で富田林駅下車、村役場まで金剛バスで約15分
連絡先
千早赤阪村役場 観光・産業振興課 0721-26-7128

いつでも元気 2019.10 No.336

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