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2019年9月30日

写真絵本『ジュゴンに会った日』

 沖縄在住の写真家、今泉真也さんがこのほど、『ジュゴンに会った日~沖縄 辺野古・大浦の豊かな海から』(高文研)を出版しました。今泉さんと親交の深い沖縄県立芸術大学准教授の張本文昭さんが紹介します。

沖縄県名護市のサンゴ礁の海。右奥にキャンプ・シュワブを望む

沖縄県名護市のサンゴ礁の海。右奥にキャンプ・シュワブを望む

 看護学生のフィールドワーク「ハタチが見た沖縄」が本誌6月号に掲載された。その様子を撮影したのが今泉真也だ。同じく6月、彼は写真絵本を出版した。
 今泉は大学進学を機に19歳で沖縄に移住。これまで多くの写真展を開催し、写真集や短編映画なども制作している。1枚1枚の写真から感じるのは、「命のつながり」。人間は本来自然の一部であり、他の動物や植物、昆虫や魚、カエルやキノコの命とさえ、有機的な暮らしや営みの中でつながっている。
 森や海、川や草むら、空気や水ともつながっている。もちろん、他者ともつながっている。そのことを知識ではなく、身をもって感じている人はどれくらいいるだろうか。感じているというより、むしろ本能的に“解っている”人が今泉のような気がする。

沖縄の海はいま

 掲載された写真は沖縄島北部、“やんばる”と呼ばれる地域の東海岸に位置する大浦湾周辺で撮影されたもの。大浦湾に面する辺野古崎では新基地建設のため、辺野古ブルーの海に大量の土砂が投入されている。「美ら海水族館」が有名になり、多くの人は沖縄の海がまだ豊かで美しいと思っているかもしれない。
 しかし実際には多くの海岸線が護岸工事や埋め立てによって、ありのままの姿をとどめていない。さらに陸地からの赤土流出や海水温上昇などによるサンゴの減少もあり、沖縄の海は危機的な状況にある。
 一方、撮影された大浦湾周辺は開発の波が押し寄せておらず、世界的にも生物多様性が高い海域として知られる。この海に、今泉は19歳の頃から約30年通い続けている。

他の生命と絡み合う

 沖縄に住んでいても、海の現状に無関心でいることはできる。ジュゴンがいてもいなくても、自分の生活には直結しない。しかし今泉には大いに関係があるのだ。彼にとって生きること、暮らすこと、営むこととは、すなわち他の生命に重なり絡み合うことに他ならない。 
 近年の沖縄島周辺では、3頭しか確認することができなかったジュゴン。そのジュゴンの命に自分が重なっていることを確かめるため、今泉は大浦湾に浮かぶ無人島で1カ月間暮らした。目では見えない。陸と海の違いもある。それでも彼は一緒にジュゴンと暮らした。そしてある日、互いにその時を約束していたかのように今泉とジュゴンは出会った。
 写真絵本は、今泉とジュゴンが出会った1枚の他、まさに「命がつながる」多くの写真が物語のように構成されている。いくつもの命が重なり、絡み合う姿が映し出されている。現代人の多くは暮らしの中でつながりを実感しにくい。彼の写真から、私たち人間を含めた自然本来の有り様を感じられるかもしれない。


『ジュゴンに会った日 ~
沖縄 辺野古・大浦の豊かな海から』

写真と文 今泉真也
1500円+税
問い合わせ 
高文研(03-3295-3415)


張本文昭(はりもと・ふみあき)
1970年、奈良市生まれ。96年、子どもたちに自然体験プログラムを提供するNPOを立ち上げ、沖縄各地で2007年まで活動。現在、沖縄県立芸術大学全学教育センター准教授、日本野外教育学会理事

いつでも元気 2019.10 No.336

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