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2019年11月5日

フォーカス 私たちの実践 貧困による口腔崩壊治療で糖尿病も改善全身の健康につながる歯科 歯科からささえる岡山・コープくらしき歯科

 貧困により重い糖尿病を患った患者が口腔崩壊も起こしていました。身体とお金の負担が少なく済むように工夫して歯科治療を行った結果、口腔環境と糖尿病の数値が改善しました。第22回歯科学術・運動交流集会で、岡山・コープくらしき歯科の歯科衛生士、安藤恵さんが報告しました。

 「義歯をつくりたい」と当院に来たAさん。自動車免許の更新時の視力検査で「糖尿病があるかも」と指摘され内科を受診しました。その結果、重篤な糖尿病と診断されました。内科医から歯科治療も受けるよう言われ、「この際、全身をしっかり治そう」と決心し、受診したと話しました。

■困窮のため健康は後回し

 Aさんは言葉数が少なく、控え目な性格です。髪の毛や目に輝きがなく、不健康そうに見えました。また「なるべくお金をかけずに義歯をつくりたい」という言葉と身だしなみや持ち物から、経済的に困窮している様子がうかがえました。
 初診時に「これを使っていたのですが…」と渡されたのは、数年前にとれてしまったというブリッジ(複数本つながったかぶせ)でした。驚くことに、その後しばらくは無理矢理歯に差し込んで食事をしていたというのです。こんなエピソードからも、我慢を重ねて健康を後回しにしてきた背景が見えました。
 初診時の口腔内は上あごに歯がなく、下あごには多数の残根(歯の根っこだけが残った状態)と大量の歯石があり、歯肉は腫れて膿がにじんでいました。食事は歯がないまま舌で押しつぶし、食べられるものを食べていました。

■低予算で健康な歯肉をめざす

 Aさんは10年以上医療機関を受診しておらず、口腔内は著しく崩壊していました。糖尿病と診断されたばかりでHbA1cが11・3%もあり抜歯はできません。経済的に困窮しているため、歯科治療は限られた条件の中でしか行えません。しかし、しっかりと治したい気持ちはあり、「治療費として全部で3万円くらいの出費なら大丈夫。治療期間が長くなるのもかまわない」と言ってくれました。
 治療の第1目標は義歯をつくるための環境づくりとしました。なるべく歯肉を傷つけないように歯石をとり、腫れがひどいところは切除しました。治療費を抑えるため、残根は角を丸めて残し、下の前歯2本を費用の安い歯科用プラスチックで埋めて(充(じゅう)填(てん))、義歯を固定する鉤歯(こうし)にしました。それに合わせて残根上に義歯を作成。痛みもなく奥歯で食べられるようになり、「義歯が入った」と喜んでいました。
 第2目標は歯石や歯垢の付着を予防するプラークコントロールのレベルアップ。プラーク(歯垢)の粘りが強く、最初はほとんど磨けていませんでした。歯肉の治り具合を見ながら、適度な硬さの歯ブラシに変更し、磨き方を指導していくと半分以上は磨けるようになり、見間違えるほど健康な歯肉になりました。

■患者に笑顔もどる

 歯科初診と同時に糖尿病の薬物療法も始めたAさん。初回測定のHbA1cは11・3%でしたが、歯石除去後は、6・9%に減少しました。義歯装着と第2目標実施後の測定では、5・5%までに減少。3カ月の治療期間中に5・8も改善し、数値上では正常化しました。
 歯科治療最後の日は「初診時よりも顔色が良くなったな」と感じました。いつもは言葉数の少ないAさんが「数値を見た内科の医師が驚いていておもしろかったよ」と笑顔で語ってくれました。
 Aさんの背景には“貧困”がありました。すぐに貧困の原因を解決する手立てがなくても、口腔環境の解決に向けて導くことはできます。全身の健康にもつながる歯科治療を、生活に困窮している患者も安心して受けてもらえるように努めていきたいです。

(民医連新聞 第1703号 2019年11月4日)

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