いつでも元気

2006年6月1日

元気スペシャル 住みなれたまちで暮らし続けたい あったかハウス今津で~す

昨年12月にオープン

兵庫・西宮 住宅街にデイサービス

 兵庫県西宮市南部の住宅街に、昨年一二月オープンしたデイサービス「あったかハウス今津」。一一年 前の阪神淡路大震災のとき、被災者の安否を訪ね歩いた宝塚医療生協の人たちは「医療や介護の拠点があれば」と痛感しました。その思いが、高齢化する地域の 人びとの願いと結びついて形となった施設です。
 現在の利用者登録は一一人。一日平均の利用者数はまだ四、五人ですが、大勢のボランティアの熱意に支えられて、古い民家を改装した室内には毎日「あったか」な笑い声が響いています。

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利用者より多いボランティアで、毎日たのしい

病気がちな人もみるみる元気に

 「トントンとんからりんと肩たたきっ」
 午前九時過ぎ。集まった利用者さんたちとともに、昔懐かしい歌の替え歌にあわせ、みんなで軽く体操をするところから「あったかハウス今津」の一日は始ま ります。足の悪い人はすわったままで、高齢の利用者の人も「イッチニ、イッチニ」と元気に体を動かします。
 この日やってきた利用者は四人。体操が終わると、お風呂に入ったり趣味の書道をしたり、好きな時間を楽しみます。
 「ここでは、何時に何をやるということは決めていません。機能訓練も、好きな書道や絵などを通じて行なったり、足の悪い人は看護師がリハビリをしたり、 個別に対応しています。ボランティアさんが芸達者なので、いつも楽しいことがあるんですよ」
 所長の川内真希さんが語るように、毎日たくさんのボランティアさんがやってきて、一人ひとりに細やかな対応をしてくれます。
 九一歳になるAさんは、昨年秋に左腕を骨折。排泄機能が低下して足も腫れあがっていましたが、「あったかハウス今津」に三カ月ほど通ううちに、浮腫もと れ、杖をついて歩けるまでに回復しました。いまでは笑顔で冗談も出るほどに。
 大規模なデイサービスにはなじめなかったBさん。重い認知症のあるCさん。誰もがこの施設では元気な自分を取り戻し、ゆったりとした日々を送っています。

支部、食事会、「つくる会」と

 「西宮に民医連の医療機関を」と、宝塚医療生協今津班の人たちが二〇人ほどで活動を始めたのは、阪神淡路大震災の約一年半前。震災では西宮市でも一〇〇〇人をこえる人が亡くなり、大きな被害が出ました。
 「地震の直後から、組合員で手分けして被災者の安否を訪ね歩きました。市内を貫く国道43号を、民医連などの支援車が物資を載せて通る。でも西宮には母 体がないので、涙を飲んで見送るしかなかった。やはり拠点が必要だと、支部づくり活動に力を入れていったんです」
 当初から活動の中心になってきた藤田洋子さんは以前、宝塚医療生協良元診療所で働いていた看護師さん。
 「診療所もない西宮なので、健康チェックを基本に活動を広げてきました。年間一〇〇〇人の人たちと大切な出会いがあります。九八年には医療生協の西宮支 部が発足。二〇〇二年六月からは高齢者を中心にしたお食事会が始まりました」
 孤独なお年寄りが寂しい思いをしないようにと、地域で活動してきた人たちと一緒に老人会をまわり、神社を借りて始めた昼食会は、常時六〇人以上の参加者 を集める盛況ぶり。こうした活動を通じて、一昨年、「西宮に小規模・多機能施設をつくる会」が発足しました。
 「つくる会」、宝塚医療生協、西宮支部、みんなの力が集まって、「あったかハウス今津」の設立に結びついたのです。

被災者を訪ね歩いて痛感 “医療・介護の拠点ほしい”

地域の誰もが安心できる場所に

 阪神今津駅から歩いて五分ほどの古くからの住宅街に施設を開設するとき、町内に住む医療生協の組合員さん に案内してもらって町会長さんに挨拶をし、「家」として町会にも参加させてもらうようにしました。開所式には町会長さんも参加し、医療生協の運動に感激し て自ら組合員になった経緯を話してくれました。
 「おかげで、町内の方はすぐに理解してくれました。民生委員さんが独居のお年寄りを紹介してくれて利用者となり、“近くに相談できるところができてよ かった”といって喜んでいただいています。近所の高齢者の方も遊びにきてくださいます。地域の人たちの要望から生まれた施設だからこそ、すんなり地域にと けこめたのだと思います」と川内さん。
 この日の午後は「たこ焼きパーティー」で、利用者さんもお手伝い。昼食後だったのに、誰もが一〇個近くを平らげました。焼き方を指導をしたボランティア の山本義雄さんは、七〇歳でヘルパー二級の資格をとりました。
 「せめてお風呂に入る手伝いぐらいしたいと思ったんだけど、資格がないからできない。話し相手をするだけじゃあだめだと、一年前に研修を受けて資格をとったんですよ」
 そばで聞いていた、ボランティア仲間の井内一成さんはこう語ります。
 「私たちがここでボランティアをやってるのは、いずれ自分がここでお世話になりたいから。みんなであったかないい施設にしていけば、自分が利用者になったとき安心でしょ」

地域の介護要求を第一に

 スタートしてまだ四カ月しかたっていませんが、この「あったかハウス今津」のようなデイサービスでも、介護保険改悪の影響は懸念されています。要支援や要介護1の軽度要介護者が「新予防給付」に回されれば、デイサービスは利用しづらくなってしまいます。
 「デイサービスにとっては、現在の登録利用者の半数でも新予防給付になれば経営は成り立たなくなってしまいます」と、宝塚医療生協の居宅介護支援事業に携わる岡本芳章さん。
「国は地域包括支援センターという機関をつくり、そこで予防プランを作成するとしています。ところが、宝塚市でみるとセンターは三カ所しかない。とても全 利用者に対応できないにもかかわらず、市はこの四月から実施を決めてしまいました。経営的にも不利なため、予防サービスを提供する事業所も少ない。私たち は地域の介護ニーズをかなえていくことを第一に、住民といっしょになって予防サービスにもとりくみ、制度改善にまでつなげたいと思っています」
 これほど影響の大きな見直しにもかかわらず、行政から説明があったのは三月中旬になってから。利用者に負担を強いる国の無責任さの表われだと、岡本さんは憤慨します。
 西宮市内のお食事会は、四月から三カ所目がスタート。「小規模・多機能施設をつくる会」も、ますます元気です。自分たちの住む町を、自分たちの力で暮ら しやすくしたい。そう願う住民たちの熱意やパワーは、「介護」のありかたさえも国に問いかけているように思えます。

文・矢吹紀人/写真・若橋一三

介護保険改悪の影響は?

 介護保険見直しでは、「予防重視」の名目で「新予防給付」という新たな体系がつくられた。要支援や要介護1の軽度要介護者のサービスの支給限度額が2~4割引き下げられ、介護サービスの利用が制限されたり打ち切られたりすることになる。
 予防のサービスとしては、▽運動機能向上、▽栄養改善指導、▽口の清潔や飲み込みの訓練、などがあり、デイサービスやデイケアで提供される。ただし、介護予防サービスの報酬単価は低く抑えられ、送迎・入浴をしても報酬は増えないことになった。
 いま最大の問題は、各市町村で介護予防のプランをつくる 体制が十分整わないまま新制度が始まったため、予防プランをつくってもらえない利用者が増えていること。10月以降は、ケアマネジャーが担当できる予防プ ランは8件までという上限が設けられ、事態がさらに深刻になることが懸念される。
 全日本民医連は3月27日、介護予防のマネジメントとサービスの基盤整備が整うまで、全体の実施を延期するよう厚労省に申し入れた。各市町村での新予防給付の開始は最大2年間の猶予期間がある。厚労省も交渉では「拙速に実施せず十分な準備を」と回答した。

いつでも元気 2006.6 No.176

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