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2019年11月19日

フォーカス 私たちの実践 歯科での無料低額診療事業沖縄・中部協同病院 県民所得は全国最下位貧困がもたらす口腔崩壊歯科からの支援

 貧困と格差が拡大する中、沖縄では失業率は全国平均の倍、県民所得は全国最下位。経済的理由で歯科にかかれず口腔崩壊がすすんでいます。第22回歯科学術・運動交流集会で、沖縄・中部協同病院歯科の歯科衛生士・安慶名(あげな)つや子さんが報告しました。

■高い3歳児の虫歯有病率

 当院は沖縄本島中部に位置し、近くに東アジア最大と言われた米軍嘉手納基地があります。病床は114床(一般病床・地域包括化病床)で内科、外科、整形外科、皮膚科、リハビリ科、通所リハビリ、婦人科、歯科があります。
 沖縄県の特徴として、失業率は4・2%(全国平均2・2%)、1人あたり県民所得は216万6000円と全国最下位。経済的理由で医療にかかれない人も多く、歯科へ来院したときには虫歯や歯周病が進行し、口腔崩壊になっているケースが多いです。その一方で出生率は1位ですが、離婚率ワースト1位という状況です。その影響も相まって沖縄県は全国と比較しても厳しい貧困率、ワーキングプア率、低所得など深刻な社会問題となっています。
 県民の口腔状態では、8020達成率は全国平均の半分にも届かず、3歳児虫歯有病率は全国ワースト2位、12歳児の1人平均虫歯数は全国ワースト1位と、子どもから大人まで深刻な状態が長年続き、歯科分野にとって大きな課題となっています。

■無低診で治療につなぐ

【事例(1)】50代の女性Aさんは、夫、子ども3人と生活し、現病歴はぜん息、親の介護のため働いていません。虫歯や歯周病が進行し、多数の歯が失われ奥歯で咬合ができず、食事に支障をきたしていました。夫は自営業で、月によって収入に差があり、3人の子どもは高校生。学費の負担が大きいため、親は、進学せずに就職することを望んでいます。長男はアルバイト収入で家計の一部をささえています。
 Aさんは友人からの紹介で当院の無料低額診療事業(無低診)を知り、本人含め家族5人が歯科治療を受けることができました。現在は歯科治療を終了し、Aさんは歯科治療を開始した後から、ぜん息が落ち着いていると報告がありました。
【事例(2)】20代の女性Bさんは、夫、子ども2人と生活し、夫は就職しても長続きせず、現在は無職。年4回の児童手当を主な収入源とし、生計を立ててきましたが、Bさんが重度の貧血と産後うつになり、行政が介入することになりました。その後、家賃滞納でアパートを退去。実家のあるC町へ引っ越しましたが、C町では以前のような医療サポートが受けられなくなり、2018年1月から歯科治療を中断していました。
 顔面が腫れあがり発熱したため、当院を受診し、同年6月から無低診で歯科治療を開始。残根状態の歯を抜歯し、義歯を作成していく予定でしたが、遠方からの通院と体調不良が原因でキャンセルが頻回にあり中断しました。その後、当院のケースワーカーを通して状況を確認したところ、夫は自閉症スペクトラムとの診断を受け、生活保護に移行しました。

■親の貧困が子に連鎖

 無低診を開始し8年が経過しました。2010~17年度の無低診での受診者数は301人で、男性が39% 女性が46%、子どもが15%を占め、年平均で約30人です。中でも2013年度は61人、2014年度は74人となり、平年の約2倍に増加しました。その理由としては、地元紙に無低診の活動がとりあげられたことと、東日本大震災のニライカナイカード(被災者支援カード)の影響だと思われます。
 2010年10月~16年8月までの承認期間終了時状況では、無低診が継続になったのが121人、生活保護受給を申請したのが66人となっています()。
 口腔崩壊の背景には、貧困と格差が大きく影響しています。親が口腔崩壊している場合、その子どもにも連鎖の影響がみられます。
 いつでも、だれでも安心して歯科医療を受けられる制度の実現に向けて、民医連職員として、私たちが発信し続けることが重要です。また無低診を行うだけではなく、地域に無低診を周知させながら、貧困と格差をもたらす実情を知らせるようなとりくみを行っていきたいと思います。

(民医連新聞 第1704号 2019年11月18日)

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