いつでも元気

2020年1月10日

まちのチカラ・新春特別版 徳之島 風に揺らぐサトウキビと子宝の島

文・写真 酒井猛(写真家)

サトウキビ畑が広がる徳之島。犬田布岬(伊仙町)から東シナ海を望む

サトウキビ畑が広がる徳之島。犬田布岬(伊仙町)から東シナ海を望む

 コバルト色の海に包まれた亜熱帯の徳之島にサトウキビの葉を揺らす穏やかな風が渡ります。
 鹿児島県徳之島町、伊仙町、天城町の3町からなる島の魅力を紹介します。

 徳之島北部の天城岳(天城町)。横から眺めると妊婦さんが仰向けに寝ているように見えることから、「寝姿山」とずいぶん粋な通称で呼ばれています。
 天城岳の先、島の北東部突端の金見崎(徳之島町)からは東シナ海と太平洋が交錯する大海原を一望できます。岬へ続く道の周辺はソテツの群生地。200mにわたってソテツが絡み合ったトンネルになっていて、薄暗くなれば何かが飛び出してきそうな不気味な雰囲気。ここが亜熱帯の島であることを実感できます。
 徳之島は隣の奄美大島と同じく、「ハブ」が多いことで知られています。同じ奄美群島の中でも、沖永良部島や与論島、喜界島にはハブがいません。徳之島のような火山島には生息していて、サンゴ礁でできた島にはいないと聞きました。
 私はヘビが苦手ですが、ハブとなるとさらに身構えてしまいます。島を歩いていてサトウキビ畑や石垣、それこそソテツの林などに立ち入る際には結構気を配ります。
 ハブの怖さは毒を持っていることですが、ハブより猛毒のヘビは世界中にいます。「ハブは神経質で臆病な性格。そのうえ夜行性だから、なかなか出会わない。過剰な心配はいらないよ」と、島民が警戒心を和らげてくれました。
 島内の各施設には血清があり、咬まれて死に至ることはほとんどなくなりました。それでも咬傷被害は毎年30件前後あります。被害を減らすため、1954年から3町が「ハブ捕獲奨励買上事業」を実施。年間約7000匹が島の保健所に運び込まれるというから驚きです。値段こそ下がったものの、一匹3000円で町が引き取ってくれる制度は今も続いており、専門に捕獲する人もいるほど。
 天城町役場に隣接するハブ収納保管所を見せてもらいました。木箱の中をのぞくと数十匹がうごめいています。一匹を至近距離から撮影させてもらいましたが、さすがに緊張するものです。
 島のお年寄りがハブの出没条件をボソッとつぶやきました。「台風や雨雲が過ぎ、土や草がしっとりとして南風が吹くと活動を始める」のだそうです。今までに徳之島で獲れた最大のハブは2・6m。それこそ大蛇ですね。

闘牛に熱くなる

 島ではさらに大きな動物が、島民とともに歩き回っています。夕刻、闘牛用の牛がそれぞれの牛舎からのっしのっしと出てきて、島内を散歩する光景を見ることができます。
 島民が印象深いことを語りました。「徳之島を象徴する風景は、風に揺らぐサトウキビ畑の傍らを牛主と共にゆっくりと歩む牛の姿だ」と。そうかもしれません。
 闘牛場は岩手県久慈市や愛媛県宇和島市、沖縄県内の各地にありますが、最も“熱い”と言われるのが徳之島。
 その歴史は古く、薩摩藩が奄美を侵略した頃というから、今から4~500年も前のこと。農閑期に牛耕用の牛を娯楽として闘わせたのが始まりで、今は闘牛用の牛が角を突き合わせて押し合います。
 島の闘牛は南欧のように観衆の前で牛を殺しません。島についての古文書に「闘いに弱きは即殺して食う」とありますが、どうやら牛に対しての叱咤激励の類のよう。年に20回ほど島内各地で開催され、太鼓やラッパのどんちゃん騒ぎがつきもの。熱情あふれる島民気質が表出し、最高潮に達する瞬間です。

結い子とケンムンの伝説

 多少気立てが荒いと言われる一方、島には「結い子」という協力の精神が根付いています。全国各地にある「結」と同じく、村落共同体における労働の共同作業、相互扶助のこと。島ではサトウキビの収穫などでその仕組みが発揮されています。
 結い子を思わせる民話が残っていました。昔からこの島には「ケンムン」という妖怪(精霊)の伝説があります。頭に皿があり河童のような風体。ガジュマルの木をすみかにして、人が通ると荷運びや薪拾いなどの手助けをしてくれる貴重な存在でした。
 こんな風な話なのですが、きっとケンムンは結い子だったに違いありません。ガジュマルの木は乱開発で減りましたが、今でも必ずそこに棲んでいるのです。島南部の阿権集落(伊仙町)に樹齢300年を超えるガジュマルの木がありますが、きっとそこにもケンムンが隠れているのでしょう。
 島内にはもう一つ昔話が。その舞台が天城町にある犬の門蓋と名付けられた、奇岩や洞窟の続く海岸です。サンゴ礁が隆起し、長年にわたって海水と風雨に浸食された結果、こんな変わった風景を形づくりました。
 犬の門蓋の伝説はその昔、この島が大飢饉に襲われた際、島内の犬が人を襲いました。島民は一致団結して暴犬を捕らえ、奇岩の岬から海に投げ入れたのです。それ以来この海岸を犬の門蓋と呼ぶようになりました。今ではくり貫かれた洞窟の向こうに、コバルト色の平和な海が静かに広がっています。
 現在の徳之島にも、誇れるものがいくつもあります。島の出生率は高く、3町のうち伊仙町が全国1位、徳之島町、天城町もランキング上位に位置します。島には「子やたぼらゆんしこ」(子どもは恵まれるだけ多く産むのがよい)という諺があり、「子は宝」の精神が根付いています。
 生まれてくる子を家族だけでなく、村落やコミュニティー全体で分け隔てなく大事に育てる文化があるからこそ、出生率も高いのでしょう。
 島の空港の愛称は「徳之島子宝空港」。子どもの命と健康をなによりも大切にする島。人と人との温かい絆で結ばれた、人情味あふれる徳之島を訪れてみませんか。

■次回は兵庫県福崎町です。


まちのデータ

人口
徳之島町 1万340人
伊仙町 6635人
天城町 5935人
おすすめの特産品
マンゴー、黒糖焼酎、馬鈴薯
アクセス
鹿児島空港から徳之島空港まで約1時間
問い合わせ
徳之島観光連盟 0997-81-2010

いつでも元気 2020.1 No.339

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