いつでも元気

2020年2月14日

医師会が健康格差に挑戦 
栃木

文・新井健治(編集部)写真・酒井猛

 栃木の宇都宮市医師会が昨年6月、健康格差の解消を目指す新組織「社会支援部」を立ち上げた。
 貧困や孤立など社会的な環境が健康に大きな影響を与えることが分かってきたが、地域の医師会がこうした社会問題に取り組むのは全国的にも珍しい。
 新組織には栃木保健医療生協もかかわっており、地域連携の一環としても注目される。

 昨年11月26日、栃木県で最大の発行部数を誇る「下野新聞」1面に、「社会が健康脅かす」との見出しが躍った。記事は失業や低所得、パワハラなどで健康を損なう県民の姿を追った連載の1回目。健康情報を掲載する新聞社は増えているが、疾病の背景に本格的に迫った連載は画期的だ。
 健康は個人の資質と考える人もいるが、雇用形態や所得をはじめ、教育・食事など子どもの頃の家庭環境、家族・友人など人とのつながりといった社会的な環境が、大きな格差を生んでいることが各種データから明らかになってきた。
 「社会支援部」の活動の一環として、連載に協力したのが宇都宮市医師会。会長の片山辰郎さん(片山医院院長)は「私たちは川の“下流”で患者を待っているだけでいいのか。人を病気という川に落としている“上流”の社会的要因を取り除かない限り、患者は増えるばかり」と、取り組みの動機を語る。
 社会支援部の主な活動方針は3点。1点目は、医師が診察室で貧困や孤立など疾病以外にも患者が抱える問題に着目。問題に応じて患者を支援する地域のサークルやボランティア団体などを紹介する。
 医師会独自に「社会的処方のための気づきシート」を作成。宇都宮市の協力も得て、体操教室や子育て支援団体、子ども食堂、自助グループ、就労支援機関などの情報をデータベース化、さまざまな職種と連携してこうした社会資源を提供する。
 活動方針の2点目は、子どもの頃から減塩や肥満の予防といった健康教育を行うこと。3点目は、社会的な環境が健康に大きく影響することを広く情報発信する予定だ。
 「健康格差を解消すれば、病気が減って市民は幸福になるし、結果的に医療費の抑制にもつながる。貧困状態に置かれた子どもはアレルギーや虫歯が数倍も多いことが分かっている」と片山会長。
 一般的に保守的とも言われる医師会が、社会問題に取り組むのは珍しい。「医師会の仕事は会員と市民の双方のためにある。医師は社会貢献の意識が高い人が多く、会員の理解も得られるのではないか。時間はかかるが、いずれは『健康都市・宇都宮』と言われるようになりたい」と話す。

臨床家としての出発点

 宇都宮市医師会理事として、社会支援部立ち上げに力を発揮したのが、村井クリニックの村井邦彦院長。「治療をしたら同じ生活環境に戻していいのかと、疑問に思う患者さんもいる。臨床家としての出発点に立ったとき、患者の社会的背景を考えるのは当たり前のこと」と話す。
 宇都宮市はもともと「在宅ケアネットワーク栃木」や「在宅緩和ケアとちぎ」など多職種の勉強会が盛んで、従来の医療モデルにはとらわれず患者の社会面、心理面に着目する医師が多い。
 ただ、社会資源を提供しても興味を示さない患者もいる。「ケアマネジャーや地域包括支援センター職員ら、患者と社会資源の“つなぎ役”を養成するための研修も必要ではないか」と指摘する。
 村井院長は地域で健康祭りを開き、SDH(健康の社会的決定要因)についての講演もたびたび行っている。「これからの診療所は地域密着がキーワード。住民と緩やかにつながりながら、患者であろうとなかろうと、困ったときには相談できる診療所を目指したい」と言う。

無差別・平等の地域包括ケアへ

 片山会長や村井院長とともに、社会支援部の準備を進めてきたのが、栃木保健医療生協理事長の関口真紀医師。「全日本民医連の第43期方針は、無差別・平等の地域包括ケア実現のために、民医連以外の団体との積極的な連携を呼びかけている」と語る。
 栃木民医連に病院はなく、会長の関口医師が勤務する宇都宮協立診療所を含め診療所が2つあるだけ。小さな県連のため、必然的に他団体との連携を模索してきた。
 栃木保健医療生協は無料低額診療事業や子どもの貧困問題で、市内の病院やNPO団体と協力。村井クリニックや地域の社会福祉法人と共催し、子ども食堂や無料塾も行っている。
 また、片山会長と村井院長、関口医師は、日本プライマリ・ケア連合学会でも活動する千嶋巌医師(国立病院機構栃木医療センター)らとともにSDHや社会的処方の勉強会を開いてきた。こうした取り組みが社会支援部の発足につながった。
 関口医師は「従来のつながりを超えた運動の形が出てきている。それだけ貧困など社会問題が深刻化し、心ある人が声をあげるようになってきたのではないか」と指摘する。

カンファレンスに臨む関口医師(右から2人目)。宇都宮協立診療所で

カンファレンスに臨む関口医師(右から2人目)。宇都宮協立診療所で

社会的処方 薬など医学的な処方に対して、貧困や孤立といった患者の社会状況を改善することで健康を取り戻すこと

いつでも元気 2020.2 No.340

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