いつでも元気

2006年8月1日

元気スペシャル 学生が学生を誘って奨学生に 福井県民医連

〇四年度から医師は大学卒業後の二年間、臨床研修指定病院で研修することが必修となりました。福井県民医連は臨床研修指定病院がない小さな県民医連ですが、「民医連で働く医師を育てよう」と、昨年秋以降、四人もの医学生を民医連の奨学生に迎え、注目されています。

 福井県民医連の事務所をたずねました。「事務所」とはいっても福井大学医学部の近くにポツンと立つ、ごく普通の一軒家。

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福井県民医連の事務所に集まった医学生・看学生のみなさん

 「こんにちは」。一二時前になると、次々と福井大学の医学生たちがやってきました。いつの間にか七人、八人と増えていきます。気がつくと福井県民医連事務局長の奥出春行さんも談笑の輪に。

 何人かは昼食の準備を手つだって、さあ、「いただきます」。「これ、ほくほくやん」と笑顔もこぼれます。「ここで、みんなでワールドカップ見ようか?」と医学生がいうと「プロジェクター借りて、大画面で見ようか?」と奥出さんが受け合います。

 食後は、授業のために大学へ戻る人、ソファに寝転がったり窓辺で談笑したりして休憩する人、教科書を広げて勉強している人もいます。

“民医連の医師を育てたい”

“不思議な兄弟みたい”

 毎日、事務所には福井大学の医学生たちが訪れ、思い思いに過ごします。奨学生でない人もふくめ、医学生が医学生を誘ってくるそうです。

 医学生は口々に「ここは家みたいなところ」と。「大学では上下関係があって先輩には声をかけづらいけれ ど、ここでは学年に関係なく話せる」と医学科一年生の小平睦月さん。同じ医学科四年生の呉林英悟さんも「ここではいいたいことがいえる。先輩にも勉強を教 えてもらえる」といいます。

 なかには看護学生もいます。看護学科四年生の石本ゆうきさんは、「おかしな話もまじめな話もできる。いわなくても悩みがあれば、みんなが気づいてくれるような、居心地のよい、不思議な兄弟みたいな感じです」と仲間を表現します。

自分の意見をいえる場

 福井県民医連は、医療のことや社会のことなど、さまざまなことをとりあげ、学生が本音で語りあえるようにしようと気を配っています。

 医学生担当の酒谷佳孝さんは「頭ごなしにこう考えろといってもダメ。本音を聞き、本音で話さないと医学生には伝わらない、本音の答えも返ってこない」ときっぱり。「医学生は頭がいいのでこちらが求める『答え』を推測して返すことはできる。でもそれではダメなんです」

 ハンセン病について学び考えたという小平さんも、「この場は決まりきった意見をいうんじゃなく、自分の意見をいえる場」と話します。

 「医療改悪でも『法案が衆議院を通っちゃったじゃないか。どうするんだ』と学生にいわれたことがありますよ」と笑う酒谷さん。「法案を通さないためにどうするか、どうしたら制度をよくできるか、自分でも考えろっていいましたけどね」

全国に誇れる活動を訴え

 医学生に働きかけてきた大切なテーマが平和です。なぜ「平和」なのか。奥出さんは「福井県民医連が全国に誇れる活動の一つだから」といいきります。

 「福井県民医連の光陽生協病院はベッド数五七床と小さく、臨床研修指定病院はとれない。だから『大学卒業 後、うちに来てほしい』といいにくい。技術を売りにするには限界がある。じゃあどうしようかと考えて、福井県民医連が全国に誇れる活動を訴え、意気に感じ てくれる学生に来てもらおうと思ったわけです」

 福井県民医連は社会保障・平和活動に全職員が参加できるよう努力し、なかでも原水爆禁止世界大会に向けた平和大行進を特別に位置づけ、毎年全職員の八割~九割が参加しているといいます。

 〇五年度、医学生ととりくんだ平和のとりくみは実に多彩。立命館大学国際平和ミュージアムの見学。原水爆 禁止世界大会には、広島と長崎に一人ずつ学生が参加。侵略戦争を正当化する「新しい歴史教科書」の問題では、福井県医療生協の組合員でもある現役の校長先 生に模擬授業もしてもらいました。

仲間といっしょに成長できるから

聞く耳持った医療者になりたい

NPT集会へ代表派遣

 昨年九月に奨学生になった医学科三年生の笠松優子さんはNPT(核不拡散条約)再検討会議に向けたニュー ヨークでの集会(〇五年五月一日)にも参加しました。「めったにないことだと思って参加したのですが、思い思いに楽しそうに平和を訴えているところがすご かった」といいます。

 北陸三県の医系学生ゼミナール「メディスク」や、「医学生のつどい(民医連の医療と研修を考える医学生の つどい)」にも福井の仲間と参加し、「仲間といっしょに成長できる。自分からすすんで学ぶことができる」と感じていました。「医学生のつどいの全国事務局 になってほしい。そのためにぜひ奨学生に」と仲間たちから訴えられ、奨学生を決意しました。

 「奨学生になってほしいといわれて、ずっと悩んでいた。でも民医連とかかわることは、自分にとってはプラ スだと考えた」という笠松さん。「知識や技術は、もちろん身につける必要があります。同時に、患者の気持ちや背景を見てあげられる、聞く耳を持った医療者 になりたい」と話してくれました。

学生同士のなかでもまれてこそ

 今年三月、同じ学年の奨学生からの働きかけで奨学生になった五年生(現六年生)もいます。北陸三県の民医 連で臨床研修指定病院として位置づけている城北病院(石川)で実習し、「患者に対するやさしさを感じる」「他職種が医療に積極的に関わるところも大学とは 違う」と話していました。

 「私たち民医連が学生を組織するのには限界がある。やっぱり学生自身が、学生同士のなかで、もまれていくことが大事なのでは」と酒谷さんはいいます。

 福井県民医連は昨年四月、医学生への働きかけを最重要課題と位置づけて福井県民医連事務局を移転。別々だった医学生対策の事務所とひとつにしました。それ以来、学生の間に日常的に入り、ときには悩みの相談も受けるという奥出さんは、こう決意を語りました。

 「地域には、必要な医療が受けられていない人がたくさんいる。しかしそういう人たち全員を診るには、福井 県民医連には医師が足りません。『光陽生協病院を頼りにしているあの患者さんや、必要な医療を受けられていない人たちを、あなたが診なければいけないので はないか』とこれからも訴え、大事にしてきた平和と人権を訴えていきたいと思います。『福井県民医連に必ず来る』と確約できるまでにはなっていませんが、 『全国はひとつ』という方針を思い起こし、福井県民医連の展望を切り開きたいと思います」

文・多田重正記者/写真・若橋一三

いつでも元気 2006.8 No.178

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