MIN-IRENトピックス

2020年4月7日

フォーカス 私たちの実践 「Best Supportive Care」とは何か? 東京・北多摩クリニック 「その人らしく」をささえる アウトリーチの実践

 がん終末期の患者が「Best Supportive Care (以下、BSC)の方針」となり病院から在宅へ帰る際、BestでもSupportiveでもないかかわりにより、つらい思いをしています。東京・北多摩クリニックは、本来のBSCとは何か悩みながら、地域の医療機関を巻き込んで、さまざまなとりくみをしています。第14回全日本民医連学術・運動交流集会で、臨床倫理認定士の資格も持つ看護師の下川久美子さんが報告しました。

 BSCとは「がんに対する積極的治療を行わずに症状緩和の治療のみを行うこと」と定義されています。痛みの緩和だけでなく、QOLの維持向上も含む概念です。
 「病院から地域へ」の流れの中、当院では、近隣基幹病院(民医連外)から、がん終末期の往診依頼が月平均3件ほどあります。情報提供書には「BSCの方針」と書かれていても、実際には、本来の定義とはかけ離れた状況が何度もありました。つらい思いをしている患者・利用者を、どうしたら減らせるのか? 臨床倫理4原則()にもとづいてふり返り、考察しました。

■患者の願い叶えられず

 「家に帰りたい」と願ったAさん。明確に、自宅での最期を希望していました。
 しかし、在宅では調達困難な高価な医療機器や薬剤の使用、真夜中の処置などを提示されたこともあり、善行・無危害を追求するため、介護保険サービスの手配や調整をする間に亡くなってしまいました(自律尊重に反する)。患者・利用者の願いより、医療従事者側の都合が優先されることは多々あります。しかし、患者の願いを叶えられずにBSCと言えるのか。もっと早くから退院を見据えて介入し、地域と連携する病院側の意識と、受け入れ側の対応が求められます。

■善行? 無危害? 正義?

 90代のBさんは病院から突然「これ以上の治療はできません。3日後に退院を」と言われました。医療連携室があるにもかかわらず、病院のサポートはありませんでした(善行・無危害に反する)。
 80代で慢性疾患のある妻は、途方に暮れ、Bさんも「帰っても妻の迷惑になる」と困り果ててしまいました。妻が以前勤めていた、市内の開業医経由で「相談に乗ってあげてほしい」と当院に依頼がありました。退院後の生活を想像すれば、どんなサポートが必要かわかるはずです。しかし、病院には在宅支援の経験がない医療従事者も多く、何が必要なのか、十分に想像ができない(正義に反する)のではないか、と考えられます。

■違和感を病院へフィードバック

 「BSC」とはもともと、腫瘍学の臨床試験分野で使われていた言葉で、緩和医療や支持療法をさす言葉ではありません。しかし、実際は曖昧なニュアンスで「病院医療の一方的な撤退宣言」のように使われている印象があります。
 積極的医療が終了し「BSCの方針」となっても、医療従事者介入のゴールではありません。その人らしく暮らしていくためのささえは必要なはずでず。
 当院では、地域の基幹病院に積極的に問題提起をしています。在宅支援の現場で職員が「おかしい」と気づいたことをフィードバック。その結果、連携室の看護師が休みを使って往診の見学に来たり、病院の管理部も賛同し、緩和ケア科医師が在宅看取りにも参加しています。これらの研修受け入れを通じて、「いつでも、どこでも、だれでも」の創造にとりくんでいます。
 職種や法人などの枠を問わず参加できる学習会も毎月開催。病院と地域の問題を共有し、「どうすれば解決できるか」を歩み寄って考えることができています。

* * *

 民医連だけ、地域だけでがんばっても限界があります。地域の診療所や在宅支援側からも、積極的にフィードバックし、双方向のアウトリーチの創造で、できることが広がります。民医連の中にも無意識に感じられる、病院・診療所間の上下関係や遠慮は不要です。
 いつでも、どこでも、だれでも、必要な時に十分な医療とケアを。終末期の患者にも、たとえ短時間でも、文字通りのBestでSupportiveで、その人らしく生き続けられるケアを追求したいと考えます。


臨床倫理 4原則

・自律尊重:自律的意思決定の尊重
・善  行:患者の利益になることをする
・無 危 害:患者に危害を及ぼさない
・正  義:基本的人権による利益を尊重すること

~きたくりりんりかふぇ~

(民医連新聞 第1713号 2020年4月6日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ