民医連新聞

2020年4月7日

「総がかり」で守ろう いのち くらし 神奈川県精神神経科診療所協会会長 斎藤庸男さん ギャンブル依存症の一次予防は「カジノをつくらせない」こと 

 いのちとくらしの危機に、手を携えて総がかりで立ち向かおうー。今回は、横浜市内で診療をしながら、神奈川県精神神経科診療所協会の会長として、横浜市のIR誘致に反対する運動をすすめる斎藤庸男さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 私たちは2月20日、カジノを含むIR施設の誘致中止を求める署名9090筆(医師400人、精神保健福祉士257人、看護師1788人、作業療法士257人ほか)を横浜市の林文子市長に提出しました。
 現在、ギャンブル依存症の人は70万人と推計されています。しかし、治療を受けているのは、わずか3000人。疾患と捉えられず、治療につなげるのが非常に難しいのが特徴です。
 治療は通院と自助グループでの活動ですが、中断も多い。当会会員に聞いたアンケートでも、85%がギャンブル依存症の治療は「難しい」と答えています。
 ギャンブル依存症の人の約半数に自殺企図があるというデータもあります。これは医療に結びついた人のデータです。医療に結びつかずに自殺したり、自暴自棄になって自然死、孤立死する人もいます。
 日本の自殺者数は年間で2万人程度ですが、うち10数%はギャンブル依存症だと見られています。家族や友人が借金を肩代わりするなどして追い詰められ、自殺することもあります。

■身近にカジノがあれば

 横浜市はIR施設をカジノだけでなく、子どもからお年寄りまで家族みんなで楽しめる一大リゾート施設にすると計画しています。大人はカジノを楽しみ、子どもは遊園地のように遊べる施設です。子どもの頃から身近にカジノがあったら、大人になった時に自然とカジノに足が向くでしょう。アメリカの調査では、自宅から3キロ以内にギャンブル施設があると、男性の場合、ギャンブル依存症を疑われる確率が高まります。
 生まれた時から身近にカジノがある環境をつくっておいて、依存症になったら「自己責任」とは、あまりに乱暴です。IR賛成派は、治療対策として国が予算を組むから大丈夫と言います。しかし、カジノをつくり、依存症となった場合に備えて予算を組むのは、話が逆転しています。
 治療は二次、三次予防です。「カジノをつくらせない」ことが一次予防です。

■ツケを市民に負わせる

 横浜市は私たちの質問に対し、アクセスしやすさが依存症を増やすこと、自殺対策に逆行するという指摘に何も回答していません。
 市はIR誘致で市の財政が潤うことを見込んでいます。しかし、すでに外国にあるカジノでは集客は減っています。果たして、日本に新しくつくるIR施設に外国人が来るでしょうか。
 予定していた収入が見込めなかった場合、日本人の入場料を下げたり、週3回の入場規制を緩和するかもしれません。多くの人が負けないと収益は見込めず、収益が上がらなければツケは市民に負わせる。そんなカジノは必要ありません。

■自己責任がまん延する

 署名には産婦人科、小児科の医師が協力してくれました。女性や子どもを診ている医師は、患者の苦しみからギャンブルの怖さをよく知っているのです。
 私が診た患者でも、母子家庭でがんばって大学まで進学したけれど、奨学金という借金を背負い、返済に追われ、うつ病を発症した人がいます。貧困の原因に父親のギャンブルと両親の離婚がありました。
 安倍政権のもとで、「自己責任」「弱肉強食」「優勝劣敗」などの言葉がまん延し、気持ちがすさみます。
 セーフティーネットとは、単に生活保護制度がある、というだけではないでしょう。誰もが安心して生活できる、子どもを産み育てられる社会をつくることこそ、セーフティーネットだと私は思います。

(民医連新聞 第1713号 2020年4月6日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ