MIN-IRENトピックス

2020年4月30日

まちのチカラ・発酵文化にそそられて 
石川県能登町

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

飛び石を渡りながら海岸を散策できる九十九湾

飛び石を渡りながら海岸を散策できる九十九湾

 日本海に突き出た能登半島には海の幸だけでなく独特の祭りや風習など豊かな文化があります。
 半島の北東に位置する能登町では全国有数の漁獲高を誇るイカの魚醤や江戸時代から続く「能登杜氏」が醸す日本酒など
昔ながらの発酵食品が、健康ブームの追い風もあり大人気。じっくり熟成された能登の魅力を味わいに行きました。

魚介類を塩とともに漬け込み発酵させた調味料

 のと里山空港から車で約40分。まずは能登半島の東海岸を縁取る代表的なリアス式海岸、九十九湾に向かいました。西海岸で見る荒波から一変し、湖面のように穏やかな海は息をのむほど美しく、日本百景の一つに数えられています。
 「のと海洋ふれあいセンター」の裏手に海岸を散策できる遊歩道があり、子どもでも簡単に渡れる飛び石が。足元に透き通る海面を眺めながら一歩ずつ渡っていると、いつの間にか少女に戻ったかのようなウキウキ気分になりました。
 遊歩道の先に観光遊覧船乗り場があり、約40分間の周遊も楽しめます。途中で天然の魚に餌付けできるとあって、家族連れからカップルまで人気のスポットです。

国産魚醤いしり

 波静かな東海岸から沖合の海に出ると、そこは暖流と寒流が交わる魚介類の宝庫。九十九湾から車で5分の小木港では、石川県産イカの約9割が水揚げされます。全国的に見ても、函館、八戸に並ぶ三大漁港のひとつに数えられるそう。
 その豊富なイカを使って「いしり」と呼ばれる魚醤を作る文化が発展し、こちらも日本三大魚醤のひとつに数えられています。他の2つの魚醤はハタハタを原料にした秋田県の「しょっつる」と、イカナゴから作る香川県の「いかなご醤油」。世界的にみればタイのナンプラーやベトナムのヌクマムが有名ですが、いずれも魚を原料にしているためイカの魚醤は極めて珍しいとか。
 小木港に面し、海産物を加工・販売する「カネイシ」の新谷伸一社長は、27歳の時に東京からUターン。いしりの魅力を尋ねると「魚を使った魚醤に比べ、えぐみがないので食べやすいと思います。料理人の間では昔から知られていたようで、隠し味として使っている店も少なくないですよ」。
 5年ほど前からは健康ブームで発酵食品が見直され、一般客からの問い合わせも急増しています。手軽にいしりを味わってもらおうと、カネイシでは昨年「魚醤いしりらーめん」も開発。スープの独特の香りがいつの間にか病みつきになり、全て飲みほしてしまうほど旨みのある逸品でした。日本海の恵みが凝縮された「いしり」をぜひ、皆さんもお試しください。

酒づくりの匠 能登杜氏

 発酵文化といえば、日本酒を抜きには語れません。能登町は、江戸時代から独自の酒づくりを伝承してきた「能登杜氏」のふるさと。杜氏とは酒蔵の最高製造責任者ですが、江戸時代には杜氏を中心とした酒づくりの技術者が冬から春にかけて酒蔵に住み込み、季節労働者として働くのが一般的でした。
 能登杜氏は、岩手県の南部杜氏、新潟県の越後杜氏、兵庫県の丹波杜氏と並ぶ日本四大杜氏の一つ。今もその技術を継承している杜氏たちが、北陸3県を中心に中部、関西、関東地方まで幅広く活躍しています。
 そのうちの一人、畑下政美さんが杜氏を務める「松波酒造」を訪ねました。蔵の扉を開けると、創業150年という老舗酒蔵ならではの芳醇な香りがふわり。
 畑下さんは酒の世界に入って20年以上、杜氏歴は11年。春から秋にかけては町で葉たばこの生産農家をしています。「最近は蔵元に通年雇用される社員杜氏や、蔵元が自ら杜氏になる蔵元杜氏も多いけどね」と畑下さん。松波酒造でも、畑下さんの後継は家業を継ぐために蔵人になった次女の美貴子さんに期待しているそう。
 「杜氏には誰しも、自分がイメージする酒質があるんですよ。そのイメージ通りの酒ができた時が一番うれしいですね」と話す畑下さん。その眼差しには脈々と受け継がれてきた能登杜氏の魂が宿っているようでした。

バイクで能登半島を満喫

 南北に細長い能登半島の面積は大阪府と同じくらい広く、ドライブコースとしても人気です。風を切って走るバイク乗りに人気なのが、九十九湾にほど近い「PEACE(ピース)ライダーズマリンベース」。
 能登の海とバイクをこよなく愛する大場小都美さんが、「能登半島をゆっくり走って満喫するためには、途中で泊まれる場所が必要」と3年半前に金沢市から移住し、オープンしました。
 玄関先にはバイクのメンテナンスガレージがあるほか、持ち込みのテントを張れるキャンプスペース、寝具持ち込みで雑魚寝ができる部屋、海を眺めながら料理が味わえるカフェテラスなども。まさに自由なスタイルで利用できる、ライダー達の“基地”です。
 「とにかく能登の自然を感じてほしい」と話す大場さんのオススメは、「県道35号線を端から端までバイクで走ること」。信号が少なく、斜面とカーブが程よくあり、景色が美しく道ゆく人々があたたかい…。そんな最高のロケーションが全国各地から訪れるライダーを魅了しているのでしょう。
 夏になれば「とも旗祭り」や「あばれ祭り」といった伝統行事が行われ、町全体が熱気に包まれます。何度訪れても味わい深い能登町に、ぜひ足をお運びください。

■次号は休刊です。


まちのデータ

人口
1万6723人(3月1日現在)
おすすめの特産品
イカ、寒ぶり、いしり、海洋深層水の塩
干物、ブルーベリー、能登牛など
アクセス
のと里山空港から町役場まで車で約30分金沢駅から特急バスで2時間
問い合わせ先
能登観光情報ステーション たびスタ
0768-62-8530

いつでも元気 2020.5 No.343

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