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2020年4月30日

ジャンボリー

文・奥平亜希子(編集部)写真・野田雅也

 2年に1度、民医連で働く青年職員が集まる「全国青年ジャンボリー」。
 38回目の今回は、昨年10月27~29日に岐阜県で行われ、約600人の職員が3日間学び、交流しました。

 働いている地域や職種を越えて集い、成長する場として1972年に始まった全国青年ジャンボリー(以下、ジャンボリー)。青年職員が実行委員会をつくり、開催県や学習内容を1年以上かけて話し合います。
 会場の岐阜市文化センターに次々と青年が集まり、実行委員会が決めた56の班に分かれます。民医連と交流のある韓国・グリーン病院の5人の参加者も到着し、山内竜馬さん(京都・看護師)と井上大志さん(高知・理学療法士)の司会で開会しました。
 オープニング企画は「憲法のない世界」。「もしも憲法9条、13条、25条がなかったらこんな世の中かもしれない」ということを映像で表現しました。今回のジャンボリーは、参加者の半数が入職1年未満の新入職員。年齢も30歳以下の平成生まれが8割を占めます。「憲法に触れたことがない人も多いのでは…」と、分かりやすく伝えるために脚本や撮影、編集も実行委員会で工夫して作製しました。
3日間を過ごすメンバーとは会場で初めて顔を合わせます。緊張を解くために用意された「大交流会」。まず「ジャンボリーネーム」という呼び名を班のみんなでつけ合います。趣味や特技、好きな食べ物、住んでいる地域などからつけるため、自然と会話が弾みます。
 呼び名が決まったら「人間知恵の輪」や、ボールを運ぶ速さを競う「目玉転がし」へと続きます。
 その後の班対抗「学習クイズ」では「世界幸福度ランキング、日本は何位」「『いつでも元気』は2019年10月号で何号」などの問題に挑戦しました。
 大交流会のあとは、班ごとに「SGD(スモール・グループ・ディスカッション)」を行い、「憲法のない世界」を見た感想や大交流会の内容などを話し合います。
 ある班では、世界幸福度ランキングに触れ「日本は156カ国中58位だったけど、今の日本は先進国なのかな?“転落途上国”じゃない?」という意見も。「社会保障の悪化がランキングを低くしているのでは」という話から「患者さんの貧困を感じるか」という話題に。
 「ゴミ屋敷に住んでいた人はもともと几帳面な人。足をケガしてゴミを出しに行けなくなった結果、家にゴミが溜まってしまった。病院にいるだけでは患者さんのことがなかなか見えてこない」「社会に寛容さがないと、みんな“見て見ぬふり”になり無関心になっていくのではないか」と次々と意見が出ました。
 ジャンボリーでの学習は、人から教えられるだけでなく、参加者一人ひとりが自分で考え気づくこと。そして、自分と社会のつながりに気づいてもらうことを目標にしています。
 数時間前に初めて出会ったメンバーの前で、自分の意見を言い人の意見を聞く。ふだんの仕事の中ではなかなかできない体験です。
 2日目は白神優理子弁護士の学習講演「日本国憲法は希望」からスタート。90分の講演のあと、40分間対話形式の質疑応答を行い理解を深めました。
 午後は8コースに分かれてフィールドワークへ。「長良川河口堰」マスターコースでは、約80人がバス2台で三重県桑名市にある河口堰に向かいました。
 現地では自然環境の研究者でもある粕谷志郎医師(華陽診療所長)から、河口堰が造られた経緯や問題点を聞きました。
最終日は3日間を振り返り、ジャンボリーで学んだことを話し合います。閉会式では、現地・岐阜民医連の青年職員が、この日を迎えるまでの道のりを映像で紹介しました。
 エンドロールに参加者全員の名前と写真が流れ、感動のフィナーレへ。「また会おうね」「がんばろうね」と再会を約束しながら、それぞれの地に帰りました。
 短くも、とても濃い3日間。多くの青年を迎える側として、準備から本番、そしてその後を見守ってきた、岐阜民医連職員育成委員長の戸崎日月さんは「彼らから“突きつけられたもの”は大きい」と語ります。
 「青年たちは仕事が終わったあとや休みの日にも集まり、自分たちで考え、準備を続けてきました。ジャンボリーで得られた経験は、口で『民医連はこうだから』と語るよりもはるかに大きな“学び”となりました。青年たちはやりとげた。私たち(先輩職員)は彼らにどんな背中を見せるのか―」。
 昨年6月に入職し、ジャンボリー初参加の伊藤幸範さん(神奈川・臨床検査技師)は「韓国・グリーン病院の人たちと同じ班でした。韓国は兵役があるので、参加者の男性2人も訓練を受けたと聞きました。韓国の青年にとっては、軍隊や戦争が日本より身近にあるのだと感じました」と隣国の仲間に心を寄せます。
 同じく初参加の平井芙実さん(香川・歯科衛生士)は「最初は緊張しましたが大交流会で仲良くなれて、班ではお互いの悩みなどの話をすることができました。署名がどう活かされているのか今までよく分かっていませんでしたが、白神弁護士の講演を聞いて“署名で政治が動く”と分かりました」と話しました。
 今年は中国・四国地協のジャンボリーを小豆島で開催予定。香川にハンセン病の療養所があることと、新型コロナウイルスの流行を受けて“病気と差別”を学ぼうと計画しています。
 ジャンボリー参加者の心に灯った小さな“炎”は、岐阜から全国へ。そしてまた2年後のジャンボリーへと引き継がれます。


学習講演

日本国憲法は希望

─9条改憲の中身・狙い  

八王子合同法律事務所 白神優理子 弁護士

 日本国憲法には主権は国民にあると書いてあります。なぜわざわざ書いているのでしょうか? それは、戦争中は国民の自由や人権を奪っていたから。その反省から、国民の人権が二度と権力者に奪われないように「この国の主人公は国民だ」と書いてあります。そして憲法は、何よりも一人一人の国民が大事だと宣言しています。憲法は私たちを守るためにあるんです。
 憲法25条に書かれている「生存権」。医療にかかれる、ごはんが食べられる、住むところがあるなど、健康で文化的な生活を営む権利が認められています。お金がないから受診できない、ということに対し「仕方ない」とする自己責任論は憲法違反です。
 戦争放棄と戦力不保持を明記した9条を書き換えようという改憲の動きがあります。「アメリカとの軍事同盟がないと攻め込まれるのでは?」という意見もあります。では、そもそも戦争は何のためにするのか。アメリカは他国を攻撃し、いうことを聞く政権をつくり、アメリカに有利なルールを押しつけたいんです。北朝鮮はアメリカに不平等なルールを押しつけられたくないから軍事力をアピールしている。だから、アメリカとつるんでいる方が危険は増します。必要なのは軍事同盟ではなく平和同盟。友人をつくることに勝る安全保障はありません。

[会場からの質問]
選挙やデモ、署名に取り組むことに意味はありますか?

 めちゃくちゃ効果があります! 自民党はずっと前から憲法を変えたいと言っていますが、いまだに変わらない。それは国民が憲法を変えるなと声をあげてきたから。だから、誰一人として直接戦争で殺されたり、殺したりしていない。憲法を守る声が、日本の若者の命を実際に守ってきました。
 命を守る民医連の皆さんのあげる声には大きな説得力があります。現場の悩みや、こうなったらいいなという希望も発信してください。皆さんの声は、皆さんが思っているより100倍くらい効果があります。命が大事にされる世の中にするために、一緒に取り組んでいきましょう。


フィールドワーク

河口堰がもたらしたもの 

華陽診療所長 粕谷志郎 医師

 総延長661mの可動式の堰は、利水(水を工業用に利用する)や治水(洪水や塩害などから地域を守るための河川整備)の名目で、約1500億円を使って造られ、1995年に運用開始。しかし、実際は利水も治水も役割を果たしていません。
 堰ができたことによって生態系が変わり、もともと生息していたヤマトシジミは激減し、ゴカイなども絶滅。ヨシ原も消滅したため、魚やカニ、鳥の居場所が奪われました。
 その影響は1300年の歴史を持つ鵜飼にも。鮎の遡上や降下がはばまれ減少。数が減り鵜が鮎を捕れないため、鵜飼を見に来る客も減りました。川とともに育まれた文化や生活も壊されたのです。


全国実行委員長
大塚健太郎さん(岐阜・医師)
 ジャンボリーで得られる“学び”はさまざま。答えもひとつではありません。社会や憲法は実は私たちとつながっていて、患者さんにもつながっている。患者さんの背景を見るためには社会のことを知る必要があります。そういったことを主体的に感じ、学べるジャンボリーでの経験は、きっと大きな財産になると信じています。

現地実行委員 
福島麻悠子さん(岐阜・看護師)
 ジャンボリーに関わって、ふだんは接点のない先輩職員とも話す機会が増えました。そのなかで「こういう民医連職員になってほしい」という思いを聞けたことも大きいです。自分の思いを伝えること、仲間の思いを大事にすること、それが私にとってのジャンボリーです。

全国実行委員会事務局長
秋月楓さん(福岡・理学療法士)
 学習を通じて貧困や戦争の現実を知りました。社会保障なども政府のさじ加減で決まります。幸福度は低く、貧困率は高い日本。「私に何ができるのか」と、つい漠然と考えてしまいます。でもジャンボリーで感じたのは「みんなと一緒になら、世の中を良い方に変えられるかもしれない」ということ。いのちが大切にされる世の中にしていきたいです。

チョ・ユンチャンさん
(韓国・診療放射線技師)
 9条改憲の動きはとても心配している。日本だけの問題ではなく、北東アジアの平和が破壊されかねない。戦争はいのちを威嚇するもの。絶対に許すことはできない。民医連の活動は人を疾病から守るだけでなく、コミュニティー(人間関係)を守ることにつながっている。そして民医連のみなさんこそ、平和を守っている人々だ。応援しています。


1日目
開会式(オープニング企画)
大交流会
SGD(スモール・グループ・ディスカッション)
自主交流会

2日目
学習講演「日本国憲法は希望」
フィールドワーク
(1)「長良川河口堰」マスターコース
(2)水の町 郡上へGO!コース
(3)水の都 大垣堪能コース
(4)「河川環境楽園」コース
(5)「航空自衛隊基地」見学コース
(6)国宝犬山城下町コース 
 分科会「おでかけサポート訓練」「こもれび」
(7)美濃和紙体験コース 分科会「外国人労働者問題」
(8)岐阜城下町散策コース 分科会「精神科医療」
SGD・班交流
自主交流会

3日目
3日間の振り返り
メッセージカードの作成
閉会式

いつでも元気 2020.5 No.343

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