いつでも元気

2020年4月30日

けんこう教室 
働く人のほんとうの健康法(上)

石川 城北病院 健康支援センター所長 服部 真

石川 城北病院
健康支援センター所長
服部 真

 健康情報は世にあふれていますが、2018年に私が書いた『働く人のほんとうの健康法』(学習の友社)を元に、本当の健康法を考えていきたいと思います。

健康は自己責任じゃない

 「健康管理は自己責任、俺の自由だ」と思っている方がいるかもしれませんが、全くの誤解です。病気の被害は本人に限りません。家族・親戚・友人も苦しみ悲しみますし、社会や仕事の関係者にも大きな苦労・苦痛を与えます。家庭や社会の経済的損失も甚大です。なにより本人の意志で病気を予防できる可能性は、実際には極めて小さいのです。
 米国の疾病予防管理センター(CDC)は健康か病気かを決めるのは「遺伝が約2割・環境が約2割・保健医療が約1割」で、残る半分がライフスタイルだとしています。
 ライフスタイルは個人で変えられそうに思いますが、実は育った家庭・社会・国など集団の影響が大きく、学童期までに大半が決まり、その後に個人で変えられるのはごく一部です。また、食・運動などの健康習慣や喫煙などさまざまな依存が、自分の意志では変えられない脳の仕組みによることも分かってきました。
 最近は個人で健康に気をつけるのではなく、「健康の社会的決定要因」を改善することが大切と考えられています。1998年に世界保健機関(WHO)欧州地域事務局が発行した健康の社会的決定要因に関する啓蒙書『確かな事実の探求』では、重要な決定要因として「社会格差・ストレス・幼少期・社会的排除・労働・失業・社会的支援・薬物依存・食品・交通」の10項目が指摘され、半数が職業に関連したものです。

寿命は社会的要因で決まる

 喫煙や高血圧などは、放置すると寿命が縮みます。日本人の大規模な追跡研究(NIPPON DATA  80/90)では、喫煙や高血圧を放置すると、それぞれ3年ほど寿命を縮める原因になることが分かりました。
 また、2015年に調べた日本の自治体の平均寿命の格差は約10年もあり、主な原因は世帯収入の格差です。男性の寿命が最も長い横浜市青葉区(平均寿命83・3歳、平均年収765万円)と川崎市麻生区(83・1歳、678万円)は、公務員や大企業勤務者とその退職者といった高収入世帯が多く、平均世帯収入でも日本の自治体ランキングのトップ3に入っています。
 一方、平均寿命が最も短い大阪市西成区(73・5歳、266万円)は収入でも最下位で、失業者や日雇い労働者が多く、生活保護世帯が24%も占めます。
 職業や収入という社会格差が病気以上に多くの方を殺している構図で、これは“社会的殺人”といえます。

働き方と健康リスク

 職業は収入格差の原因であるだけでなく、健康を脅かす過労・高ストレスや危険な環境の原因にもなります。そのため、日本人の中高年死亡率には大きな職業格差があります(図1)。例えばサービス業の死亡率は事務職の4・6倍にもなります。
 大人の死亡率以上に、大きな職業格差があるのは乳児死亡率です(図2)。世帯主が従業員数100人以上の企業に勤務する世帯と比べると、小規模企業勤務・自営業・農業などの世帯の乳児死亡率は明らかに高く、特に無職世帯は10倍以上の差があります。乳児死亡率の職業格差は年々拡大しています。
 こうした死亡率の格差は自己責任でしょうか。少なくとも乳児に責任はありません。全ての親が憲法25条で保障されている「健康で文化的な生活を営む」ことができれば、乳児死亡率の格差は縮小します。国及び地方自治体はその権利を実現する義務を負っているのです。
 職業によって健康格差が生じる原因は大きく3つあります。1つめは石綿や化学物質など有害物質による病気や、作業中の事故によるケガや労災です。
 2つめは過重労働や高ストレスによる身体や心の病気です。国が過労死として認めているのは脳や心臓の病気と精神疾患だけですが、1999年の厚労省の「作業関連疾患の予防に関する研究」は高血圧、肥満、糖尿病、脂肪肝、腰痛、頸肩腕痛、交通事故なども職業と関連がある「作業関連疾患」としています。過労によって免疫力が低下することを考えれば、感染症やがんなどあらゆる病気が職業と関連します。
 3つめは職種ごとに健康習慣に違いがあることです。健康習慣が悪くなりがちな職種ほど、「生活習慣病」の原因になる血圧や血糖などの値が高くなります(図3)。
 どの職業に就くかは自己責任と思うかもしれませんが、親の学歴と世帯収入はそれぞれ子どもの学力ときれいに相関しています(図4)。例えば東京大学学生の世帯平均年収は約1200万円で、日本の世帯年収の上位1%に相当します。親の学歴と収入が子どもの学歴に影響するのは間違いありません。
 学歴によって選べる職業や企業規模に差が生まれ、年収の格差となります。今の日本には「年収格差→学力格差→職業格差→年収格差」という“格差”を再生産する強固な仕組みがあり、その中で自己責任では片付けられない健康格差が社会的に生み出されているのです。 


働く人のほんとうの健康法

著者 服部真
定価 本体1200円+税
問い合わせ 学習の友社
☎03-5842-5641

いつでも元気 2020.5 No.343

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