声明・見解

2006年3月27日

【声明2006.03.27】福島県立大野病院医師の逮捕に抗議し、医療事故を取り扱う公正中立な第三者機関の早期設置を求めます

2006年3月27日
全日本民主医療機関連合会
会長  肥田 泰

 2004年12月17日、福島県立大野病院において帝王切開児娩出後、癒着胎盤剥離時の大量出血のため患者様がお亡くなりになりました。この医療事故で亡くなられました患者様ならびにご遺族の皆様に心から哀悼の意を表します。

 この件について、福島県警は2006年2月18日、証拠隠滅の恐れがあるとして強制捜査に切り替え、執刀した産婦人科医師を業務上過失致死、医師法第 21条違反の容疑で逮捕し、福島地検が3月10日に起訴しました。今回の一連の経過をめぐって、全国の医療関係者から驚きと疑問の声が上がっています。

 当該事故は、発生翌日には所轄の保健所に報告され、2005年1月から事故調査委員会が開催され、3月30日には調査結果がまとめられ、公表されていま す。調査に基づいて、民事上の責任を明確にし、県による関係者の懲戒処分も行なわれています。執刀医も調査を拒否しているなどという状況にはなく、証拠隠 滅や逃亡の恐れは想定できず、業務上過失致死疑いでの強制捜査と逮捕は異常ともいえるものです。
 今回の事例にみられるような警察権力による突出した介入は、医療事故の原因究明と再発防止になじまないばかりか、医療にたずさわる者を無用に萎縮させる もので、疑問があると言わざるを得ません。

 医療事故の原因を究明し再発を防止し、医療の安全性・質を高め、国民の医療に対する信頼を取り戻すために、医療機関自らの努力が必要であることはいうま でもありません。しかし、今回の事件の背景として、深刻な産婦人科医師の不足、医師の過重労働など問題点も多方面から指摘されています。医師個人の刑事責 任を追及するのは、安心してかかれる医療の実現にそぐわないものです。産婦人科医の養成や労働条件の整備など、国民が安心してかかれる医療を実現するため の短期・長期的政策が求められています。

 今回の事例では医師法第21条(異状死体の届出義務)違反も問われていますが、これは、殺人などの異常な状況が認められる事案での届出を規定していたも のと考えられ、本来は医療事故を想定したものではないとされてきました。2004年4月13日に都立広尾病院事件の異状死体届け出について最高裁判決がだ されていますが、異状死についての医学界・法曹界全体でのコンセンサスは得られておらず、医療現場では混乱が続いています。
 以上のことから、医療事故による死亡について、警察ではなく第三者機関としての相談窓口に届け出る仕組みを早急に整備することが必要であると考えます。

 医療事故が発生した際には、患者・家族への誠実な対応、必要な補償と、原因究明のための事故調査を行い教訓を明らかにし、再発防止に役立てることが必要 です。私たちは2004年2月に、厚生労働省に対して医療事故防止、被害者の迅速な救済のために、(1)医療機関・患者双方から相談を受け付ける相談窓 口、(2)被害者の救済制度の創設、(3)裁判外での紛争処理機関の設置、(4)医療事故を調査し公開し原因究明・再発防止に役立てる、という4つの機能 をそなえた「医療事故を取り扱う第三者機関」の設置を要望しました。厚生労働省は2005年度から、予期し得なかった死亡事例の原因究明と再発防止のため に「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を開始し、現在6カ所で実施していますが、事業のテンポ・内容ともに十分ではありません。

 私たちは、今後とも医療事故を取り扱う公正中立な第三者機関の設置のために奮闘していく決意です。

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