いつでも元気

2020年8月4日

椎名誠の地球紀行 
豊かなアマゾン ブラジル

椎名誠

 ブラジルのアマゾン川ほど、その長さや川幅が一定していない川はない。大きすぎて、測定する時代や研究者の視点によって規模が激しく変わってしまうからだろう。
 上流部分の雨量によって流域が大きく変動する、という理由もある。一般的には河口の幅はだいたい400km。河口の真ん中にはマラジョー島があって、これが日本の九州と四国を併せたくらいのスケール。この中洲の真ん中に筑後川より大きい川が流れているのだから、なんだか分からなくなってくる。
 全体の長さは6000~7000kmといわれている。その年の気象条件によって長さが変わるから正確には分からない。6000kmというと日本の本州の4倍ほどあるから、もう概念の基礎が違っているのだ。
 河口からは大きな客船が出ていて、直線距離で約2000km上流のテフェという町までの航路がある。ジャングルにしてはけっこう大きな都市で、奥アマゾンといわれている。ここまでがまあアマゾンの主流で、そこから先にはもう定期船はない。
ジャングルの町で
 このテフェには進化論で有名なダーウィンがかなり長い期間滞在して、詳しい観察記録を書いている。それを読みながら町にいると、いろいろと面白い。
 たとえば『よじのぼり植物』という本がある。よじのぼり植物は蔓の寄生植物で、まっすぐな木に巻きつくと、最初は普通の寄生植物のようにコイル状になってワッセワッセと昇っていく。ところが、途中で地面から生えていた根を自分で引っこ抜いて、寄生している植物に根を張り付かせる。それを続けてどんどん上に昇っていく、というから元気のいい奴なのだ。
 ジャングルの中に入って探してみたが、奥アマゾンには毒蛇をはじめ、どんな奴が出てくるか分からない。および腰の探検隊は2時間ぐらいしか探検が続かなかった。
 テフェの河口は地元の少年たちの遊び場だ。これがまあ、何時間でも見ていられるくらい元気。楽しい風景が常に目まぐるしく動いていて、日本のような国から比べると実に豪快でカッコいい。子どもらは全員川の生き物と一体化していて、その日の全てのエネルギーを使い切っている感じだ。
 スコールがくると、その雨のツブツブはちょっとした水の銃弾で、川原にブスブス刺さってくる。この子どもらのように飛び跳ねて走り回っていないと、「痛い」という状態なのだ。
 慌てて川岸にある市場に避難すると魚屋だった。アマゾン川には、2000種とも5000種ともいわれるとてつもない種類の魚がいる。そのなかの一番大きなピラルクーは世界最大の淡水魚で、長さ4mほどもある。これを数日がかりで釣りあげると3カ月ぐらい寝て暮らせる、といわれている。


椎名誠(しいな・まこと)
1944年、東京都生まれ。作家。主な作品に『犬の系譜』(講談社)『岳物語』『アド・バード』(ともに集英社)『中国の鳥人』(新潮社)『黄金時代』(文藝春秋)など。最新刊は『この道をどこまでも行くんだ』『毎朝ちがう風景があった』(ともに新日本出版社)。モンゴルやパタゴニア、シベリアなどへの探検、冒険ものも著す。趣味は焚き火キャンプ、どこか遠くへ行くこと。
椎名誠 旅する文学館
http://www.shiina-tabi-bungakukan.com

いつでも元気 2020.8 No.345

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