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2020年8月18日

「救えるはずのいのち」 全国から51例報告 2019年度手遅れ死亡事例調査

 全日本民医連は7月29日、厚生労働省内で記者会見を行い、2019年度の経済的事由による手遅れ死亡事例調査の結果を公表しました。今回報告された51の事例は、早期に治療すれば生き続けることができた「救えるはずのいのち」でした。あわせて、新型コロナウイルス感染症拡大のもとで介護事業所にどのような影響が出ているか調査した結果も報告しました。(丸山聡子記者)

 全国711の民医連事業所の患者・利用者が対象。19年度は27都道府県から51事例が寄せられました。(1)国保税(料)、その他の保険料滞納などで、無保険もしくは資格証明書、短期保険証となり、病状が悪化し死亡に至ったと考えられる事例、(2)正規保険証を保持しながら経済的事由で受診が遅れ死亡に至ったと考えられる事例です。05年度から続く調査です。
 冒頭で岸本啓介事務局長は、今回の調査結果はコロナ禍以前のものであることを説明。「経済的な事由で治療が手遅れとなることはあってはならない。コロナ禍以前から広がっており、そこにコロナ災害、生活困窮、解雇・失業が襲いかかっている。中でも非正規雇用労働者の解雇・失業は生存の危機に直結する」と強調しました。

■複合的な困難に制度届かず

 久保田直生理事が調査の概要を報告。51事例のうち、正規の保険証を所持、または生活保護利用は20例、短期保険証、資格証明書など健康保険証の制約があった事例(不明含む)が31例でした。
 無保険が24例、国保資格証明書が2例で、事実上の無保険状態が全体の51%を占めました。60代の女性は、夫が定年退職した際に「保険料が高い」との理由で国民健康保険に加入せず、無保険の状態でした。障害や社会的不適応を抱える子ども3人と夫の5人の暮らし。半年前から体調不良を自覚しながらも、家計のやりくりなどの不安から受診せず、歩行も呼吸も困難になり救急搬送されましたが、入院7日目に死亡しました。
 正規の保険証や短期保険証を持っていた20例の中でも、窓口での一部自己負担金が払えないなどの理由で治療中断や未受診が6例ありました。60代の男性は、妻と離婚後、生活保護を利用していましたが、清掃アルバイトを始めたのを機に生保は廃止。バイトを辞めた後の収入は約9万円の年金のみ。体調が悪くても医療費が心配で受診をためらい、受診した時にはがんが転移。無料低額診療を利用しながらの緩和ケアとなり、転院6カ月後に死亡しました。
 独居は27例と過半数を占め、うち借家・アパート住まいは13例。社会的孤立になりやすい傾向です。65歳未満の雇用形態では、非正規雇用が44%(10例)、無職が26%(6例)、自営業17%(4例)。保険料の滞納は17例で、住民税、家賃、水光熱費など全て滞納していた例も2例ありました。
 久保田さんは、「独居や家族の困難などで孤立し、不安定な就労や滞納など複数の問題を抱えている。必要な人が生活保護を利用できなかったり、生保廃止後に別の社会保障制度につながっていないなどの問題もある」と指摘。給付減と負担増を盛り込んだ「全世代型社会保障改革」では事例のような困難はさらに広がるとして、「国・自治体の責任で、憲法25条にもとづく医療、社会保障の実現を」と求めました。

■コロナ禍の困窮に支援を

 山本淑子事務局次長が、現在のコロナ禍で生活困窮が広がっている実態を報告し、特に改善を求めたい3点について指摘しました。
 1点目は生活保護です。コロナ禍での雇い止め件数は3万人を超えました。4月の生保申請件数は2万1000人以上で前年同月比25%の増加です。山本さんは「ためらうことなく利用できる生活保護制度を」と求めました。
 2点目は医療へのアクセスや国保について。厚労省は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、資格証明書の短期保険証への切り替えや、国保料(税)を減免した市町村への財政支援を打ち出しました。「失業や減収による保険料滞納や無保険の増大が心配。さらなる施策の充実を」と強調。
 3点目は、支援策の拡充です。コロナ禍での困難を「自己責任」とせず、生活支援の強化や休業補償の充実などを求めました。

(民医連新聞 第1720号 2020年8月17日)

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