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2020年8月18日

介護の未来に希望与えた あずみの里裁判 無罪が確定 検察が上告断念

 東京高等裁判所は7月28日、業務上過失致死に問われた特養あずみの里の看護職員に対し、長野地裁松本支部の一審有罪判決を破棄し、逆転無罪判決を出しました。東京高等検察庁は「適法な上告理由を見いだせなかった」として上告を断念。無罪が確定しました。全国の医療・介護現場で働く仲間、患者・利用者やその家族の未来を開いた「無罪確定」です。

 「亡くなられた入所者の方のご冥福をお祈りいたします。無罪となり、ホッとしました」。8月12日、無罪確定を受けた記者会見で、看護職員は語りました。6年半もの間、事実を曲げられ、裁判のたびに「被告人」と呼ばれ、苦しい思いの中でも仲間とともに介護現場で働き続けてきました。「その人らしく生きられるようにお世話するのが介護の仕事。安全重視で現場が萎縮し、おやつも行事もやめるのは、利用者の生きる楽しみを奪います。介護の仕事は利用者の笑顔を見られる素晴らしい仕事です。誇りを持って仲間とともに働いていきたい」と結びました。

■食事提供の意義を認める

 2013年12月、特養あずみの里で、午後3時のおやつにドーナツを食べた85歳の入所者の女性が、突然意識を喪失して心肺停止となり、約1カ月後に亡くなりました。一審は入所者がドーナツをのどに詰まらせて窒息したと認定。看護職員が入所者にドーナツを配ったことが、おやつの形態確認義務違反にあたるとしました。一転、控訴審判決は弁護側の主張を全面的に受け入れ、入所者に嚥下障害はなくドーナツによる窒息は予見できず、看護職員にはおやつの形態確認義務はないと過失を否定。無罪判決を出しました。
 判決は、おやつを含む食事提供が、利用者が人間らしく生きることをささえるために「有用かつ重要」とし、一審判決で萎縮する介護現場に希望を与えました。

■「起訴は誤り」明らかに

 判決報告集会で弁護団長の木嶋日出夫さんは、判決は事実を正しく認定し、過失の有無の法的判断も正しいと述べました。一方で控訴審では、意識喪失、死因について、弁護人から証拠提出された脳神経外科専門医など医師7人の意見書をすべて却下。判決は、起訴されて5年以上が経過し、一審には事実誤認があると指摘。医師の意見書の採用は証人尋問などのため看護職員を長く被告人の席に留めることになるとして、速やかに原判決を破棄すべきとしました。
 無罪判決で、特養ホームでの急変に警察が捜査に入り、安易に起訴したことが大きな誤りだ、と明らかになりました。
 控訴審で無罪を求める署名は介護関係者のみならず多くの人びとから寄せられ、73万筆を超えました。判決報告集会に参加した東京・すこやか福祉会の中野一仁さん(介護福祉士)は「介護の現場は萎縮していました。この判決は必要な介護を理解してくれる判決です」と喜びを語りました。
 特養あずみの里で働く松澤千歳さん(介護福祉士)は、入所者が意識を喪失した時、施設内で働いていました。一審では証言もしました。「無罪判決を聞き、やったー、という思いと同時に、なぜ仲間が罪に問われ、何年も苦しまなければならなかったのか、という思いが湧いてきた。無罪判決は当然です」と語りました。

介護の委縮は高齢者の不幸

医療・福祉関係者、法学者などが公告断念を申し入れ

 これに先立ち、特養あずみの里刑事裁判で検察に上告断念を求める医療、看護、介護、福祉関係者と、刑事法学者の有志は8月5日、オンライン上で記者会見を行いました。法学者有志は3日に、医療等関係者有志は4日に、それぞれ東京高等検察庁に上告断念を申し入れ。賛同者は各分野の大学教授など100人を超えました。
 呼びかけ人のひとり、看護学者の川嶋みどりさんは高裁判決が示した“食事の意味”を高く評価し、「介護の未来に希望を与えた」と述べました。一方、「立件自体がおかしく、有罪とした一審の罪は大きい。介護の萎縮は、高齢者の不幸」と指摘。60人超の賛同者とともにアピールを出したことを報告しました。認知症の人と家族の会代表理事の鈴木森夫さんは、「私たちが望む高齢者の潤いある生活、食の楽しみが奪われることを危惧していた。高裁判決には本当に安堵(あんど)した」と話しました。
 刑法が専門の村井敏邦さん(一橋大学名誉教授)は「上告を断念し高裁判決を維持させることこそが検察の役割だ」と訴えました。

(民医連新聞 第1720号 2020年8月17日)

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