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2020年9月8日

コロナ禍の介護事業所 財政支援の名で利用者負担増は不当 福岡・健和会 撤回求め地域へ

 厚生労働省は、コロナ禍で介護報酬が減少する介護保険の通所系事業所の報酬算定を引き上げる特例の事務連絡(6月1日付)を都道府県に出しました。この特例を適用すると利用者の利用料が増えることになり、現場では戸惑いと怒りが広がっています。福岡・健和会(北九州市)では、実際に利用料負担増を試算するとともに、この特例の撤回を求める運動を地域で広げています。同法人地域包括・地域連携推進部副部長の山口明子さんの報告です。

 厚労省は「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて(第12報)」を出しました。通所系サービスと短期入所系サービスの事業所で、利用者からの事前の同意が得られた場合に「報酬区分の2区分上位の報酬区分を算定する取り扱い」を可能とし、介護事業への財政支援を行うもの。一部を利用者に負担させるという極めて安易で不当な内容です。

■サービス変わらず負担増

 利用者の自己負担を法人内事業所の利用者に当てはめ試算しました。4月の実績で多かった「通所リハビリテーション6時間以上7時間未満、要介護2」の場合、利用回数が月10日以上で自己負担額504円の増額(1割負担)。通常規模通所リハビリでは、96~652円、地域密着型通所介護では、76~756円の負担増です。
 これを踏まえ、(1)地域になくてはならない事業所の経営を守り抜く立場から、すべての利用者にていねいに説明し、原則として全利用者から同意を得た上で算定を行う(支払い困難などは個別に対応)と同時に、利用者負担の撤回を求める個人署名への協力をお願いする、(2)新型コロナウイルス感染拡大による介護事業の減収分を安易に利用者に負担させ、事業所に責任を丸投げするものであり、撤回を国に要望し必ず勝ち取るたたかいを展開する、という2つの方針を確認。2区分上位の算定をすることで区分支給上限額を超えることが見込まれる利用者が法人全体の226人中35人程度(15・5%)おり、改善を勝ち取るまで適用しないと決めました。
 同時に、県連に団体・個人の抗議署名を提起しました。

■撤回求める署名3000筆

 北九州市内すべての通所サービス・居宅介護支援事業所(867事業所)に文書を送付しました。利用者からの同意と利用者負担増を前提とするやり方は、事業者に責任を丸投げし、国の責任を放棄し、利用者・事業所・自治体に負担を押し付ける、区分支給限度額は現行通りのため、自己負担の新たな発生・増大で利用制限につながる、と指摘。利用者負担増の撤回と、介護サービス事業所への国からの財政支援強化を行うよう、「国に対する福岡県からの意見書提出を求める請願」への協力を呼びかける内容です。
 「ひとことメッセージ」を記載できる団体署名と個人署名も同封。8月21日現在、105事業所から返信があり、団体署名は65事業所、個人署名は3025筆。「(怒りが)ふつふつとしていたところに、健和会からの署名の要請を見て、救われた気持ちになった」など予想以上の反響です。
 ひとことメッセージには、「新型コロナ感染拡大で利用者の生活も厳しい状況となっており、事業所(者)からの同意の求めに対して、利用者は同意せざるを得ず、事業者と利用者の信頼関係を崩壊させてしまう」(院内通所リハ)、「利用者に負担させ、かつ介護保険の報酬に上乗せするのは、いかがなものか。撤回を」(介護福祉サービスセンター)、「財政支援の名のもとで受けてもいないサービスの負担金を利用者に支払わせる不正な請求である」(ケアプランセンター)、「少ない介護報酬でありながら何かと言えば削減したがる国に対し、介護事業所の一員としては我慢の限界です。応援しています! がんばってください」(通所介護事業所)など、賛同と激励が寄せられています。
 介護現場では、ただでさえ少ない介護報酬のもと、利用控えに加え、感染対策に要する費用の増加に伴う経営圧迫に耐えながら、全力で事業継続にとりくんでいます。一方、利用者と家族は、利用控えによるADLや意欲の低下、認知症の進行、家族の介護負担の増加や世帯収入減少でサービスの利用控えなども懸念されます。財政支援の一部を利用者に負担させるやり方に断固抗議し、何としても介護の現場を守り抜きます。

* * *

 団体署名に応じた市内65事業所連名で北九州市議会に、(1)厚労省「介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて(第12報)」の不当な利用者負担を撤回するよう国に対し意見書を提出すること、(2)同時に、国の改善がみられない場合、北九州市が利用者負担分を補てんすること―を陳情する準備をすすめています。併せて県連全体での署名をもって県議会への要請も行う予定です。
 国のさまざまな施策に対し、今こそ「たたかいつつ対応する」「おかしいことはおかしいときちんと声を上げる」ことが求められます。こうしたとりくみが地域の医療・介護事業所の連帯を深め、地域の医療介護を守ることにつながっていくのだと思います。

(民医連新聞 第1721号 2020年9月7日)

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