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2020年11月3日

症状発出に20年超のケースも 日本神経学会の回答は問題 慢性メチル水銀中毒症シンポジウムを開催

 8月30日、熊本、東京、大阪の3会場をつなぎ、「わが国のメチル水銀中毒症の現在―臨床と疫学から見た今日的課題~慢性メチル水銀中毒症シンポジウム」をオンラインで開催しました。医師をはじめとした医療関係者、患者会の人、訴訟団の弁護士など107人が参加しました。

 水俣病は、企業(熊本ではチッソ)がメチル水銀化合物を含む工場排水を海や河川に流し、汚染された魚介類を日常的に食べた住民に発生した中毒性神経疾患です。
 当時のこの地域では、「3食とも魚を食べていた」という住民も少なくありませんでした。1956年の公式確認以後、メチル水銀暴露から数十年後に発症し得ることがわかってきています。
 国は当初、周辺地域で採れた魚介類を多量に食べ、感覚障害があれば、水俣病として認定。しかし77年、「複数の症状の組み合わせが必要」という要件が加えられ、水俣病の認定率は激減しました。
 水俣病患者と認めらなかった人たちが認定を求めて国を提訴した裁判は、今も続いています。

■診療の現場から学会に反論

 シンポジウムの冒頭、司会を務める磯野理さん(京都民医連あすかい病院・医師)が、シンポ開催にあたり、これまでの経緯と問題意識を説明しました。
 日本神経学会理事会が2018年5月、国が被告となっている裁判をめぐる環境省の意見照会に対し、学会員にはかることなく、「メチル水銀中毒症に係わる神経学的知見に関する回答」を提出しました。内容は、(1)神経系疾患(水俣病)の診断は神経内科専門医による神経学的診察が必要、(2)中枢神経疾患において症状の変動性はほとんどない、(3)老化により症状が顕在化するのは数カ月から数年、というもの。認定の困難さをますます加速しかねません。
 磯野さんは、「この回答についてマスコミは、『国に沿う見解』と報道した。回答の内容は医学的根拠に乏しく、事実に反していることを、実際に多くの患者を診ている現場の医師の報告から知ってほしい」と呼びかけました。
 シンポジストの3人がそれぞれ報告。阪南中央病院の三浦洋さんは、「神経内科専門医ではなく一般内科医」と前置きし、専門家に教えを請い研さんを積み、水俣病患者を診察し、裁判にもかかわってきたと紹介。その経験を踏まえ「感覚障害は中枢神経の疾患で、症状の変動は珍しくない」と学会の見解の誤りを指摘しました。
 東京・東葛病院付属診療所の戸倉直実さん(医師)は、2009年に熊本・鹿児島で行った水俣病大検診を機に、首都圏での水俣病検診にかかわっています。同検診は計19回、500人を診察しました。「神経内科医だが、診たこともない全身の感覚低下があり、驚かされた」と説明。受診者を分析した結果、工場排水から初期症状の発出まで20年以上のケースも少なくなかったと示し()、「症状が顕在化するのは数カ月から数年」という学会の見解は、「500人以上の診察で知り得た事実と違う」と指摘しました。

■理解広がらないことに危機感

 熊本・神経内科リハビリテーション協立クリニックで長年、水俣病患者の診察をしてきた高岡滋さん(医師)は、メチル水銀中毒症の歴史と今日的課題として慢性メチル水銀中毒症の診断上の問題点や病態、自覚症状と神経所見の関係について報告。「重症者のみを水俣病とする国の患者切りすて政策に、神経学の権威は加担してきた歴史がある。行政の認定基準が水俣病をめぐる医学をゆがめてきた」と批判しました。その上で、「水俣病が理解されないまま、多くの患者が亡くなり、危機感を抱いている。この分野に関心を持ってほしい」と語りました。
 シンポジウムでコーディネーターを務めた門祐輔さん(京都協立病院・医師)は、「このシンポで明らかになった事実に照らし、日本神経学会の回答には問題がある。いったん撤回するべきだ。ひきつづきメチル水銀中毒被害者の観察や記録、分析を行い、科学にもとづいた治療、対処法の確立が必要だ」とまとめました。
 (大阪民医連・大隅利隆さん、熊本県民医連・原田敏郎さんからの通信記事をもとに、編集部で再構成しました)

(民医連新聞 第1725号 2020年11月2日)

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