MIN-IRENトピックス

2020年11月17日

不安定な暮らし コロナ禍が直撃 ~「いのち守る!」現場からの告発~

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、全国から困窮事例が寄せられています。

■「困った」相談でつながった

 熊谷生協病院に高血圧で定期受診をしていたBさん(60代男性)は自営の運送業で生計を立てていましたが、今年に入り経営が悪化。そこにコロナの影響も相まって、4月以降の仕事がなくなり、5月末に廃業しました。運送会社に再就職しようと仕事を探すも見つかりませんでした。
 Bさんは、6月下旬に口渇を訴え受診。仕事をしていたときから、不定期、高カロリーの食生活だったため、急激に糖尿病が悪化し、医師から入院治療をすすめられました。しかし、Bさんは「飼いネコの面倒が見られなくなる」と入院を拒否していました。
 そんなとき、組織担当の職員から「組合員のやっている『くらしサポーター』(有償ボランティア)を利用したら?」と提案があり、ペットの世話を頼んで入院しました。「ペットホテルは1匹何千円もかかる。7匹も預けられない。ボランティアを紹介してもらえて安心して入院できた」とBさん。
 飼いネコの世話の問題からBさんと話すうちに、経済的状況も見えてきました。二十数万円の預貯金があるため、入院費は高額療養費制度を利用しましたが、インスリンが必要になり、外来の医療費が以前より高額に。「薬代でも2万円近くかかると聞いて、病院にかかれないと思った」とBさん。SWの松本浩一さんは生活保護をすすめましたが、拒否感やためらいも強く、現在は国保法第44条を申請して受診しています。
 「助かりました。熊谷生協病院を受診していて良かった」とBさん。一方で、「コロナがいつまで続くのか不安。仕事も先が見えない。国は大変なところにこそ手厚い援助をしてほしい」と話します。松本さんは「Bさんはネコの話からつながった。院内だけでなく、地域の『困った』の相談に事業所と組合員の連携で対応しようと、2020年にできた地域総合サポートセンターが役割を発揮した。相談員と組織担当、訪問診療看護師といっしょに密なコミュニケーションがとれているのも医療生協の強み」と話します。

* * *

 熊谷生協病院の事例では国保法第44条が利用できました。しかし、この44条は地域ごとに大きな差があり、利用するためのハードルが高いのが実状です。全日本民医連、社保運動・政策部の久保田直生さんは、「憲法ではすべての人に健康で文化的な生活が保障されているにもかかわらず、保険料が高くて払えなかったり、窓口負担が払えず受診できない人がいる。すべての人のいのちを守る制度になっていない」といいます。

調査から明らかになったのは

 「地域で大変なことが起きている」―。緊急事態宣言後、全日本民医連には、各地の医師や看護師、SWから「病状が悪化してから救急搬送される患者が増えた」「無料低額診療事業の相談が増えた」との報告が多数寄せられました。そこで「コロナ禍を起因とした困窮事例調査」を開始。対象は、(1)民医連加盟の各事業所がかかわった患者、利用者、家族などの事例、(2)地域での生活相談や電話相談に寄せられた事例、です。
 7月20日から9月30日までに寄せられた727事例のうち、コロナ禍を起因とする困窮の実態が明確に記載されている435事例にしぼり、中間まとめとして記者発表しました。

■すべての世代に広がる困窮

 調査では性別、年代を問わずコロナ禍での困窮が広がっていることがわかります。毎年行っている手遅れ死亡事例調査では、男性が7~8割で、比較的高齢者が多いのが特徴。しかし今回は女性が約4割、50代以下の事例も目立ちました(図1、2)。
 就労形態は派遣、契約社員、パート・アルバイトを含む非正規労働者が最多の35%、無職が29%。非正規労働者が真っ先に解雇や就労時間短縮にあい、預貯金わずかの生活から瞬く間に困窮に陥った事例が多数ありました。
 20代はパート・アルバイトが73%を占め、正社員はゼロ。30~60代では就労者の約6割が非正規労働者(図3)。70代はコロナ禍での失業者を含めると86%が就労しており、低年金ゆえにタクシー運転手や飲食店、家政婦、日雇い・季節労働で、コロナ禍まで就労して年金の足しにして、なんとか生活していた人が多数いました。外国人の事例も20ありました。
 43人が住宅問題を抱え、うち35%がすでに住居を喪失、46%が立ち退きを迫られるなど喪失の危機にありました。
 独居が45%を占め、男性では55%。手遅れ死亡事例と同様、ささえ合う人がいないことが困窮のリスクを高めていました。ひとり親世帯は女性で14%と、男性の4%より多いにもかかわらず、正社員の女性は3%。シングルマザーの困窮事例も多数ありました。

■なおもハードル高い生活保護

 直ちに生活保護申請が必要と判断されて申請したのは75事例、必要だが本人・家族が差別や偏見をおそれるなどして、固辞した事例は33(図4)。コロナ禍での生活保護利用は柔軟な対応をすることになっているにもかかわらず、水際作戦など対応に問題がある事例も22ありました(下に事例)。持ち家や車の所有を理由に、自らの判断で申請を断念したり、行政が申請させなかった事例も複数ありました。
 集約をした久保田さんは「ギリギリの生活にコロナ禍が追い打ちをかけ、ようやく生活保護を利用する“覚悟”ができた、という事例が複数あり、つらかった。医療従事者はいのちを救おうと懸命に活動している。ただ、医療従事者は病によるいのちの危機は救えても、経済的困窮は行政にしか救えない。行政の対応で救えないいのちがあるなんて、こんなに報われないことはない」と憤ります。

事例

水際作戦で追い返す
70代後半、女性。夫と2人暮らし、所持金・預金は2万円。毎年夏に行うプールでのパートの仕事が、コロナでなくなった。年金は2人で月額11万円。年金担保の借金、カードローンで40万円の借金。生活保護を申請すると「仕事を探して」と断られ、「特別定額給付金で滞納税の納付を」と指導が。

中断で悪化
50代男性、パート・アルバイト。失職し緊急支援相談会で支援物資を利用。3度目の相談会で「実は体調が悪い」と。妻は高血圧で薬が欠かせず、本人は受診を我慢。無低診で未治療の糖尿病のインスリン注射を開始。進行すい臓がん、肝臓への多発転移判明。生活保護利用決定、転院後がん治療開始。


コロナ禍で生活困窮が増加

生活保護の充実と活用を

生活保護問題対策全国会議事務局長・小久保哲郎弁護士に聞く

 菅首相は、アベノミクスの成果として、「生活保護世帯が減った」と胸を張りました。2013年4月と今年6月では、10万人弱減っています。しかし、世帯数では6万3600世帯の増加です。
 安倍政権は生活保護基準を引き下げてきました。13年8月から3回に分けて生活扶助基準を平均6・5%、最大10%引き下げ、住宅扶助と冬季加算も引き下げ、18年4月から再び3回に分けて平均1・8%、最大5%の引き下げです。生活保護利用のハードルを上げたのですから利用人数の減少は当然です。それでもなお世帯数で増えているので、単身世帯の困窮は深刻化していると言えます。
 4月以降、4回の「コロナなんでも電話相談」にとりくんできました。緊急事態宣言が出た4月は自営業やフリーランスの人の相談が多く、6月にはパートやアルバイトなど非正規雇用で働く人から「仕事が減った」「解雇された」などの相談が増えました。8月以降は高齢の男性で無職の相談がぐっと増加。少ない年金を補うために高齢でも働いて生活していた人たちが仕事を失っています。
 年末には、家賃支援給付金など中小業者を経済的に支援する制度が打ち切りの予定です。コロナ禍で申請が激増している住居確保給付金の支給期間は最大9カ月で、4月から利用した人は12月で終了します。先が見通せず、「死にたい」との訴えや精神的に追い詰められた相談も出てきています。
 こうした時こそ生活保護の出番です。しかし政府は、10月から予定通り、3度目の基準引き下げを強行しました。生活保護は就学援助や介護保険料・利用料の減免など多くの制度に連動しており、保護基準の引き下げは社会保障全体の引き下げにつながります。生活保護が必要な人はもちろん、生活保護にはならないけれど困窮している人たちを支援するためにも、保護基準の引き上げが必要です。
 政府は、必要な人すべてが生活保護を利用できるよう、偏見をなくす努力とともに広報に力を尽くすべきです。要件の緩和や手続きの簡素化も必要です。住居確保給付金の支給期間延長も急務です。
 13年からの生活保護基準引き下げは憲法違反だと訴える「いのちのとりで裁判アクション」では、「生活保護制度の充実と活用を求める緊急署名」(オンライン署名)にとりくんでいます。コロナ禍を乗り越えるために、この声を広げましょう。(丸山聡子記者)

(民医連新聞 第1726号 2020年11月16日)

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