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2020年12月8日

「やっぱりおかしい」 市民の声で政治は動き出している きたる総選挙へ 新しい「選択肢」で共闘の前進を 市民連合呼びかけ人 中野晃一さんに聞く

 来年秋までには、必ず総選挙があります。市民と野党の共闘の大きな推進力である「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(以下、市民連合)が、総選挙へ向け、立憲野党への新しい15項目の要望書(資料)を発表しました。呼びかけ人のひとり、中野晃一さん(上智大学教授)に聞きました。(丸山いぶき記者)


資料 立憲野党の政策に対する市民連合の要望書
-いのちと人間の尊厳を守る「選択肢」の提示を-

はじめに
I 憲法に基づく政治と主権者に奉仕する政権の確立
 1.立憲主義の再構築
 2.民主主義の再生
 3.透明性のある公正な政府の確立
II 生命、生活を尊重する社会経済システムの構築
 4.利益追求、効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換
 5.自己責任社会から責任ある政府のもとで支え合う社会への転換
 6.いのちを最優先する政策の実現
 7.週40時間働けば人間らしい生活ができる社会の実現
 8.子ども・教育予算の大胆な充実
III 地球的課題を解決する新たな社会経済システムの創造
 9.ジェンダー平等に基づく誰もが尊重される社会の実現
 10.分散ネットワーク型の産業構造と多様な地域社会の創造
 11.原発のない社会と自然エネルギーによるグリーンリカバリー
 12.持続可能な農林水産業の支援
IV 世界の中で生きる平和国家日本の道を再確認する
 13.平和国家として国際協調体制を積極的に推進し、実効性のある国際秩序の構築をめざす
 14.沖縄県民の尊厳の尊重
 15.東アジアの共生、平和、非核化
 (柱書きのみ抜粋。全文は市民連合ホームページをご覧ください)


―市民連合の政策要望をもとにした立憲野党の共通政策は2016年、17年、19年にもつくられました。市民と野党の共闘(左年表)はどう発展してきたのですか?
 15年の安保法制に反対するたたかいの中で、5団体の有志が市民連合を立ち上げました。安保法制を廃止して立憲主義を回復しよう、立憲野党の国会での共闘を、さらに選挙でも広げよう、と働きかけてきました。
 16年の参議院選挙で初めて共通政策を合意し、32の1人区すべてで統一候補を立て、11選挙区で勝利。改選議席の改憲勢力3分の2を阻止しました。
 17年の総選挙(衆議院選)では希望の党への合流騒ぎで共闘は空中分解しかけました。しかし、小池百合子代表の「排除」発言、立憲民主党の立ち上げ、そして日本共産党が「見返りは民主主義だ」と候補者を降ろし、身を切って共闘のともしびを消さない奮闘を見せ、市民もそれを応援しました。SNSの運動も広がり、立憲民主党が野党第1党になりました。ただ、漁夫の利を得た自公政権が改憲勢力3分の2を得ました。
 その後、国民民主党が再出発し野党共闘に合流。国会でも共闘はすすみ、安倍政権は改憲発議できませんでした。19年の参議院選挙は、改選前の1人区の現職野党議員が1人しかいないなか、全1人区で統一候補を立て、10選挙区で勝利。その結果、自公政権は参議院の改憲勢力3分の2を失い、自民党は単独過半数も失いました。
 野党共闘は確実に深まり、政党関係者も慣れてきています。次はいよいよ総選挙。衆議院選でも共闘を大きく前進させましょう。

■いのち暮らし守る社会へ

―15項目の要望書では「はじめに」で、新型コロナウイルス危機のなか注目されたエッセンシャルワーカーに言及し、いのちと暮らしの選別を許さない、新しい社会経済システムへの転換を求めていますね。ここに込めた思いは?
 新型コロナウイルス感染症のまん延により、政権のゆがみが現れています。世界でも、排他的で、いのちに差別を持ち込むリーダーがいる国ほど、被害が大きくなっています。日本の死者数は比較的少ないものの、それが政府の政策のおかげだと思う人は誰もいません。コロナさえも“自己責任”で乗り切ろうと、経済再生担当大臣を担当に据える異常な国です。
 そんななか医療・介護従事者をはじめ「この人たちがいないと社会が回らない」エッセンシャルワーカーが、体を張ってくれています。市民連合が戦争に反対するのは、何より人びとのいのちと暮らしを守りたいからです。いま求められているのは、いのちと人間の尊厳を守る新しい社会への「選択肢」です。今回はより広範な政策要望をつくろうと、専門家や市民活動家と意見交換を重ねました。
―自己責任論は、コロナ禍でも弊害を生んでいますね。
 「夜の街」を名指しして見せしめにし、こんな目に遭いたくなければ自粛しろ、自己責任で感染対策しろ、でも補償はしない、というのが日本のコロナ対策です。
 いのちや生活者の尊厳を守るのではなく、国の経済を守るという、優先順位がおかしいのです。不都合な事実は隠し、感染者を辱め、医療関係者と市民の対立をつくる、極めて下劣な政治です。私たちは何のために税金を払っているのでしょう。自分で何とかできない人にも「自助」を迫ることは、権利の侵害であると同時に、感染を広げ、貧困を再生産し、ますます日本の社会をゆがめます。

■チャンスは見えている

―一方、春先に検察庁法案の改悪を阻止したように、市民運動にも新しい動きが出てきていますね。
 まさにそこです。市民社会もやられっぱなしではありません。コロナ禍で政治に関心を持たざるを得ない人が増えました。「誰がやっても同じ」と思っていた人が、「やっぱりおかしい」とSNSで発信しています。集会やデモにオンライン参加する若者や女性、地方に住む人が増え、柔軟に適応しながら、政治への働きかけを強める流れができつつあります。
―菅首相をどう見ていますか?
 「安倍さんより怖い」「何かいやな人」との声も聞きます。原因は、菅首相には当事者意識がないように見えるからです。「森友」「加計」「桜」問題を必死にごまかし、みっともなさも見せた安倍前首相に対し、菅首相にはそれとは別の、長年安倍前首相に使われてきた人が持つ独特の無責任さ、いやらしさ、危険性があります。

* * *

―最後に総選挙を見据え、民医連の仲間にメッセージをください。
 菅政権に代わり、さらに医療に負担がかかる冬を迎える今、日本社会が底を打って上を向くのか、現状を常態化させ受け入れるのか、の分岐点に私たちはいます。市民と野党の共闘の8年近い運動で出会ったみなさんは、「子や孫のために」と言います。未来のために、私たちは決して「日本の政治はこういうもの」と受け入れてしまってはいけません。チャンスは見えています。根本的に優先順位を変えましょう。民医連運動は、その中核をなす運動です。


中野さんにコレも聞きたい

日本学術会議の会員任命拒否問題のポイントは?

 安保法制が通った後、安倍政権は軍事研究のてこ入れをはかり、防衛省の軍事研究助成金制度に110億円の予算をつけました。文科省予算を削り、兵糧攻めで大学などの研究機関に食い込み、軍事研究をすすめようとしています。それに反対する、権威ある日本学術会議が邪魔なのでしょう。
 「学ぶ」の語源は「まねぶ(真似る)」にあり、人は他者から教わり、教え合うことで学びます。学問共同体なしには学べません。しかし、軍事研究にかかわると公開性がなくなり、学問共同体は破壊され、政治権力に乗っ取られます。
 自己責任論の新自由主義が日本に導入されて40年以上。私的な個人の自由、消費する自由だけが自由のように言われます。しかし、共同体の存在を前提とした学問の自由は、勝手に勉強して良い自由とは違います。それが憲法で表現の自由(21条)と別に、学問の自由(23条)を保障する意味です。本来の自由の理解が痩せ細っていることに注意が必要です。


(民医連新聞 第1727号 2020年12月7日・21日合併号)

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