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2020年12月29日

けんこう教室 
認知症を予防するには

国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター長 島田 裕之 国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)老年学・社会科学研究センター長。埼玉県小川町出身。2003年、北里大学大学院博士課程修了(リハビリテーション医学)。テレビなどで認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」を紹介。主な著書に『【DVD付き】1日5分から始める! コグニサイズ、コグニライフで認知症は自力で防げる!』(すばる舎)、『3STEPで認知症予防 コグニサイズ指導マニュアル』(医歯薬出版)など

国立長寿医療研究センター
老年学・社会科学研究センター長
島田 裕之
国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)老年学・社会科学研究センター長。埼玉県小川町出身。2003年、北里大学大学院博士課程修了(リハビリテーション医学)。テレビなどで認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」を紹介。主な著書に『【DVD付き】1日5分から始める! コグニサイズ、コグニライフで認知症は自力で防げる!』(すばる舎)、『3STEPで認知症予防 コグニサイズ指導マニュアル』(医歯薬出版)など

 認知症は脳の機能が低下し、日常生活に支障を来した状態です。認知症を完全に防ぐことはできませんが、認知症になる危険性を下げる方法は分かってきました。
 運動習慣を身につける、バランスの良い食事をとる、禁煙する、脳トレをする、生活習慣病の管理をするなどが重要であることが知られていますが、特に運動習慣を身につけることが大切です。運動と一言でいっても、いろいろな種類があります。

予防に有効な3つの運動

 認知症の危険性を下げるために有効であるとされる運動方法に「有酸素運動」「レジスタンス運動」「コグニサイズ」の3つがあります。有酸素運動はウオーキングなど比較的軽めの運動を続けます。レジスタンス運動は筋力を鍛えるために負荷をかけて行う運動を指します。コグニサイズは体を動かしながら頭を使う運動で、英語のコグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語です。

有酸素運動

 有酸素運動はウオーキングが代表的ですが、あまり体に負荷がかからない運動量だと効果が期待できません。負荷の目安としては、脈拍数が運動直後に110から120程度まで上昇するのが理想的です。歩きながら少し息が弾む程度の運動で、ややきついと感じるくらいの速さで歩きましょう。
 加齢に伴って歩行速度は低下しますが、その原因は歩幅の減少によります。いつもより5cmくらい、足を大きく踏み出すよう意識して歩いてみてください。ウオーキングをしながら、しりとりや計算をすればコグニサイズになります。ぜひ試してみてください。

レジスタンス運動

 レジスタンス運動は筋肉を鍛える運動です。ジムでダンベルなどを持ち上げてもいいのですが、もっと手軽にできる運動として「階段昇降」があります。
 踏み台に足をしっかりと乗せて、ゆっくりと階段の上り下りをしましょう。速く上り下りをすると効果が出ないので、できるだけゆっくりと行うのがコツです。いきなりやりすぎると筋肉痛を起こすので、最初は1階分の上り下りから始めてください。ゆっくりと動くとバランスをとることが難しくなります。手すりなど、すぐにつかまることのできる場所で行った方がいいでしょう。

コグニサイズ

 もうひとつの運動方法としてコグニサイズを紹介します。コグニサイズの基本姿勢は足踏みから。膝は直角になるべく太ももを高く上げ、腕は前後に大きく振ります。足踏みをしながら頭を使うのが特徴です。まずは計算問題をやってみましょう。
 足踏みしながら数を声に出して1から順に数えますが、3の倍数の時には声を出さず身体をさわります。まず3で頭、6で腰、9では肩をさわります。12の時に元に戻って頭をさわり、15で腰、18で肩と繰り返します。これを100まで続けてみましょう(図1)。
 コグニサイズはうまくできる必要は全くありません。むしろ間違えるくらいがちょうどいいのです。スムーズにできている時は頭はあまり使っていないので、慣れてきたら課題を変えてみましょう。
 例えば100から数を減らしながら行うと難しくなりますし、3の倍数を4の倍数や6の倍数にしてもいいでしょう。1回5分くらいでできると思うので、できるだけ毎日行ってください。

運動継続のコツ

 運動習慣を身につけている人は、そうでない人と比較して、認知症になる危険性が数十%低くなることが多くの研究で明らかにされています。どのように運動するかも大切ですが、一番重要なのは長く続けることです。
 長く続けるためには楽しくなければなりません。運動はどちらかといえば単調で退屈しがちですが、誰かと一緒にコミュニケーションしながら行うと楽しく継続できます。一人で黙々とウオーキングするより、おしゃべりしながら歩いた方が楽しいでしょう。また課題が複雑になって、これまでできなかったことができるようになると、がぜんやる気も出てきます。
 コグニサイズも大勢で行うと楽しいもの。図2では5人で行うケースを紹介します。足踏みをしながら順番に数を数えます。ただし4の倍数の順番の人(図ではDさん)は、数を数えずに拍手をしてください。100まで続くよう頑張りましょう。慣れてきたら、100から数を減らしていく課題にも挑戦してください。図は昇降台を使っていますが、なければその場で足踏みでも構いません。
 数人でしりとりをしてみてもいいでしょう。最初は足踏みしながら単純にしりとりを行いますが、慣れてきたら自分の順番のふたり前とひとり前の単語を言ってから、自分の単語を答えてみてください(図3)。記憶力が試されます。少し時間がかかっても大丈夫。ただし、考えている最中も足踏みは続けてください。誰かが間違えた時は、皆で笑うと楽しい雰囲気で運動できます。たくさん間違えながら楽しく運動を続けましょう。

「コグニライフ」に挑戦

 時間をとって運動することも大切ですが、日常生活の中で積極的に体を使う機会をつくることもお勧めします。例えば買い物に行くのに自動車ではなく、少しの距離なら歩いていけば良い有酸素運動になります。駅のエスカレーターを使うのではなく、階段を使えばレジスタンス運動になります。
 こうした日常生活で運動する機会に、併せて頭の課題も取り入れてみてください。このような活動を「コグニライフ」と呼んでいます。
 例えば買い物に行った時、カートを使わずにカゴを持てば体の負荷を高めます。頭の課題としては、まず作るメニューを決めましょう。カレーライスを作ると決め、肉、にんじん、たまねぎ、カレールーを買うとします。スーパーの中を引き返すことなく、必要な食材を買う道順を考えれば、買い物をしながら体と頭を鍛えることになります。
 また「今日は3000円ちょうどの支払いにしよう」などルールを決めれば、暗算しながら食材を買うため、これも頭を使います。
 複数の課題を同時に行うことも生活に取り入れてみましょう。例えば料理をする時には、鍋に火をかけながら他の作業を同時進行します。いつもは30分で作る料理を20分で作ろうとすれば、同時進行の作業を増やさなければならないし、円滑に料理を進める手順を考える必要も出てくるでしょう。
 認知症になる手前では、同時進行の作業や物事を順序立てて考える力が弱くなってきます。脳の機能を保つためにも、いつも自分に課題を出して脳を鍛えておくことが大切です。運動が苦手な人は、日常生活の中でコグニライフを工夫してみてください。

いつでも元気 2021.1 No.350

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