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2021年1月5日

いのち 地域の困りごとが見えてくる 東京・北区なんでも相談会 東京ほくと医療生協

 月に1度、東京・北区の王子駅前、通称「三角公園」にテントが現れます。夕闇が濃くなるとポッと明かりがともり、ひとり、またひとりと立ち寄ります。ここは「なんでも相談会」。寄せられる相談は、失業や介護問題、借金…など、深刻な内容も少なくありません。(丸山聡子記者)

 2020年はコロナ禍の影響で「相談会」も一時休止となりました。8月に再開すると、待っていたように相談が。11月24日は20年最後の相談日。前週に5000世帯超にチラシを配布し、4件の問い合わせがありました。
 毎回の相談は平均10~15人程度ですが、この日は少なく、6人が訪れました。家族の介護や相続の相談に加え、「マンション清掃の仕事をしていたが解雇された」81歳の男性や、「65歳定年の約束で契約社員として働いているが、60歳で辞めろと言われた」という59歳の女性の相談もありました。
 「税金のことで相談したい」と訪れた80代の女性の話を聞いていたのは、北区生活と健康を守る会の山本泉さん。「まずは聞くこと。すぐに解決しない問題も多いけれど、安心して話せる場にするよう心がけている」と言います。

■病院で待つのではなく

 相談会が始まったのは2014年。民医連や労働組合、東京土建、民商、生活と健康を守る会などに弁護士事務所も加わり、実行委員会をつくっています。当時、東京ほくと医療生協の王子生協病院は、無料低額診療事業の準備をしていました。実行委員会事務局長で生協職員の森松伸治さんは、「地域での相談活動が大事」と議論し、他団体と始めました。
 約6年半で相談者は420人、相談件数は500件にのぼります。相談内容は「医療・社会保障関連」がもっとも多く43%を占め、相続10%、住まい11%、労働14%など。「昨年3月以降の相談は58件で、うち20件がコロナ関連。解雇などの労働相談も増え、全体の2割を超えた」と森松さん。
 王子生協病院のSW・瀬尾真奈美さんは当初から参加しています。労働や法律などの専門家が相談に応じるため、「相談し合える、みんなで解決策を探れる安心感がある」と言います。
 60代の男性は所持金が底をついて体調も崩し、友人宅に身を寄せていました。保険証がなく自暴自棄になっているところを、友人に連れられて相談に来ました。無低診を利用して王子生協病院に入院。縁を切っていた親族と連絡がとれ、退院後は地元に帰りました。「病院で待っていたら、つながれなかったかもしれない。医療関係者が外に出て行く重要性を痛感する」と瀬尾さんは言います。
 必ずSWが参加し、事例は職場で共有。瀬尾さんは「地域の人たちの困りごとや制度の不備を知る場にもなっている」と言います。

■無料でなんでも聞いてくれる

 相談会を機に人生の舵を切った人もいます。Kさん(20歳)は伯父のAさん(53歳)を連れて相談に来ました。「伯父は長らく仕事をせず、幻聴や独り言をくり返していた。相談先もわからず、ポストに入っていたチラシの『なんでも相談』の文字が目に止まった」と言います。相談に応じた人は聞き上手で、緊張がほぐれました。「仕事を紹介してほしい一心だったが、アドバイスは違った」とKさん。すすめられたのは「障害者手帳」の取得でした。
 Kさんの支援でAさんは手帳を取得。障害者枠で仕事を探し、1日3時間程度の清掃のアルバイトを始めました。生活のリズムが整ってきたAさんは「正社員として働きたい」と夢を語るように。面接で落ちたこともありましたが、Kさんの後押しもあり、正社員の仕事が決まりました。「仕事をすると気持ちがスキッとする。食事が楽しみ」とAさんは言います。
 Kさんは「子どもの頃、伯父はいつも僕の味方だった。伯父のことを諦めたくなかった」と言います。つらくなると、相談会の人に話を聞いてもらいました。「介護殺人のニュースがひとごとじゃない時もあった。相談会の人に『がんばれ!』と言われるかと思ったら、『よくがんばってるよね』と言ってくれた」とKさん。
 Kさんは苦しい時、心の中で尊敬するラッパーのZeebraさんの曲を歌っていました。「きれいごとだとか言うな マジでうるせぇ オレのこの人生で証明するぜ」(「Street Dreams」)。Kさんは言います。「無料でどんな相談も聞いてくれる場所がありがたかった。僕たちは不可能を可能にした日本人。こういう場所が増えてほしい」。

(民医連新聞 第1728号 2021年1月4日)

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