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2021年1月19日

介護の未来をひらく 特養あずみの里裁判をたたかって 連載(3) 生き生きとした目の輝きともに声を上げて守りたい 大阪・介護老人保健施設よどの里 濱戸教子(はまとのりこ)さん(看護師)

 全国の仲間の奮闘で「無罪」を勝ち取った特養あずみの里裁判。そのたたかいや教訓をふり返る、連載第3回は、大阪の仲間・濱戸教子さんです。

 約6年間の裁判をたたかいぬいた山口けさえさんとみなさんに敬意を表するとともに、心から喜びたいと思います。第一審判決は介護現場の実態を全く考慮せず、窒息は生じ得ないという鑑定を無視するもので、腹立たしく、絶対に負けられない、と思いました。判決の時は法人の看護責任者のライングループで「良かったー」「やったー」「こうでなくっちゃ」とメッセージが飛び交いました。
 介護施設で働く看護師は、生活の視点で体調観察、予防看護を役割とし、介護職やほかの多職種と連携、協働し、利用者が望む生活の構築と維持にとりくみます。日々の生活の営みで回復力を高め、「生きる力」につながる「食べる」の援助は、もっとも大切にしたいことの一つです。
 Aさんは骨折の治療で入院中に認知機能の低下と周辺症状(介護拒否、拒食)が現れ、食事量が減り看取りの可能性を含めて当施設に入所しました。生活や嗜好(しこう)を聞き取り、スナック菓子やアイスクリームを食べ、なじみのファストフード店へ外出するなど、職員のかかわり方、環境づくり、諦めない援助で周辺症状はおさまり、食事量が増え体調が安定しました。
 毎冬恒例の回転寿司では、看護師は吸引器をさりげなく準備し、安全に食べられるよう利用者の様子を見ながら立ち回ります。利用者の生き生きした表情、目の輝き、いつもは動きにくい手が、流れるお皿に伸びる様子を見て、私たちは元気をもらっています。
 特養あずみの里裁判は介護現場に緊張と圧力をかけ、利用者、家族と職員のこうした心躍るとりくみを萎縮させると強く思いました。不安と混乱でつい大声が出る利用者のそばで「大丈夫ですよ」と声をかけ続けたい、1対1の食事介助でいろんな話をしながら、楽しい時間をつくりたい。でも介護現場は人員不足で、業務改善をしても、やりたい介護、求められる介護ができないつらさは、職員が一番よく知っています。
 国は直ちに現場の声に向き合い、誇りと夢をもって働ける介護報酬へ、大幅引き上げを行うべきです。介護ウエーブの運動を地域の介護事業所に広げ、改善に向けていっしょに声を上げましょう。

特養あずみの里裁判とは
 2013年、おやつのドーナツを食べた入所者が急変し、のち死亡。その場にいた看護職員個人が業務上過失致死罪で起訴された、えん罪裁判。無罪を求める署名のべ73万筆余りが集まり、20年7月に東京高裁で逆転無罪。

(民医連新聞 第1729号 2021年1月18日)

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