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2021年1月19日

継続した支援のなかで被ばくの不安に寄り添う 原発事故避難者検診 愛知民医連

 2011年3月11日の東日本大震災、東京電力福島第一原発事故からまもなく10年。政府の公表だけでも4万2560人が避難生活を送っています(20年11月現在)。民医連は全国で避難者検診や相談会を続けています。愛知民医連の避難者検診を訪ねました。(代田夏未記者)

 普段なら休みの日曜日の待合が、親子の会話でにぎわいます。2020年11月15日、愛知・北病院で避難者検診を実施しました。愛知民医連は愛知県被災者支援センターと共催で年2回、避難者検診を行っています。昨年はコロナ禍のため人数を制限し、1回のみの開催でした。医師5人、看護師2人、放射線技師3人、事務3人、臨床検査技師5人と岐阜から2人が駆けつけ、保険医協会から歯科医師も参加。被災者支援センターの職員も受付に立ちます。
 検診には、事前に予約した14世帯37人が来院。身体測定、血圧測定、甲状腺エコー検査、診察を無料で受けます。希望者に有料で採血検査も行っています。
 検診後は交流相談会へ。医師や弁護士への相談や甲状腺、被ばくについての学習会をしています。

子どもも大人も全員診る

 福島第一原発事故後、全日本民医連は避難者検診の実施を呼びかけ、愛知では12年11月に県連被ばく対策委員会を立ち上げました。11年12月に一宮市で行われた避難者相談会にスタッフとして参加した名南病院医師の早川純午さんは、避難者から「被ばくが心配で受診すると病院にいやな顔をされる」「被ばくについて相談できる場所がない」との言葉を多数聞き、15年2月から避難者検診をスタートしました。
 避難者検診のモットーは、子どもも大人も、関東からの避難者も「家族全員診る」です。この活動を聞いた愛知県被災者センターや司法書士会から声がかかり、5回目(17年6月)から連携してとりくむようになりました。
 被災者支援センターのもとで月に2回、大学、司法書士会などと会議をします。会議に参加する島崎宏行さん(事務)は、「自分たちでは届かない支援も、いろんな団体と手を組むことで対応できている。震災から10年がたつと、国からの支援が終わるため、地域だけでなく、個別に支援できるようにとりくんでいる」と言います。
 愛知への避難者は、12年3月に542世帯1249人でしたが、20年10月には331世帯852人に減少。相談では、福島の知人に避難と伝えず引っ越した人、避難後に精神的苦痛を受けた人も。関東からの避難者の中には「なぜ福島から離れた関東から避難したのか」と言われた人もいました。

理解してくれる民医連

 検診を受けるのは4回目になる岡本早苗さんは、5人の子どもと来院。原発事故後、福島から出身地の愛知県へ避難しました。「1番大変なのは、被ばくの不安を理解してくれる医師を探すこと。私自身の健康はもちろん、被ばくにぜい弱な子どもの健康に対して不安を抱えている。ここでは子どもを思う親の気持ちに寄り添ってもらえる」と岡本さんは言います。
 しかし、避難することにも葛藤がありました。今生きている場所を手放してまで避難するのか? 発症するかわからない被ばくに対して避難が必要か? 「避難することも、残ることも自分たちで決めなければいけない。避難が正しいことなのかわからないけれど、被害が出たとき胸を引き裂かれる思いをするくらいなら…と考えて」と避難を決心しました。「どの場所でも、そこに住む人の健康不安を払拭するには早期発見が大切だと思う。だからこの検診をずっと続けてほしい」と岡本さん。
 検診や交流会で声をかけ合う関係性もできています。「同じ思いを持つ者同士なので気軽に話せる」と参加者は口をそろえます。岡本さんは、「被害は終わっていないのに、終わったかのように支援が打ち切られ、被害者は置き去りになっている。継続した支援を訴え続けます」と話します。

*  *  *

 1年目研修医の加藤早苗さんは「明るい人が多かった。診察では一転、不安に思うことがあるのに、普段は打ち明けられない様子が垣間見えた」と言います。早川さんは「県内の避難者に対し、検診につながった人はほんのわずか。日曜日に家族みんなで検診を受けられること、継続して開催することに意味がある」と力を込めます。「後継者づくりも意識しながら、休日の検診を継続していきたい」と話します。

(民医連新聞 第1729号 2021年1月18日)

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