民医連新聞

2003年8月18日

安心・安全の医療をもとめて(11) 香川・高松協同病院

“転倒・転落防ごう”/回復期リハ病棟でのとりくみ

 香川・高松協同病院(回復期リハビリ四五床)での転倒・転落事故防止のとりくみをご紹介します。同院で は、昨年九月の開設の際に、床材にクッションフロアを導入し「転倒しても骨折しにくい」療養環境をつくっています。また、ユニークな転倒・転落基準にもと づき、院内の医療安全委員会がインシデント・アクシデント報告を分析・防止につとめています。

 「骨折ゼロ」の床

 開設からこれまで、骨折事故は一度も発生させず、治療の必要な打撲傷も少ない、という効果をあげているクッションフロアを実際に歩いてみました。見た目はごく普通の床なのですが、足音が響きません。厚さ一〇センチの床材は衝撃の吸収が抜群でした。

 導入を決めたのは病院建設に先立って、各地の回復期リハ病棟を見学した際、松江生協リハビリテーション病院で効 果をあげていると聞いてきたからです。床材の厚みの関係で導入は工事中に決断しなければなりませんでした。しかし全館の床に張り巡らせるための八〇〇万円 の捻出が難しく、床材の使用は転倒・転落事故の約七割が起きる病室とトイレに限定、コストを五〇〇万円におさえました。

転倒・転落の「基準」

 毎週行っている医療安全委員会について、吉村裕医長に聞きました。「『転倒・転落』の定義は、ほかとは少し違っ ているかもしれないですね」と、吉村先生。同院では「歩いていてバタンと倒れる」「ベッドからドスンと落ちる」というケースだけでなく、ベッドから移動の 際のずり落ちも「転落」、立位からのしゃがみ込みも「転倒」として報告することにしています。「起こったが患者さんへの被害はなかった」ものも含め、未然 に防げなかったものはみな、アクシデントとみなしています。スタッフに介護職が多いことなどを考慮し「誰でも判断できる基準。グレーゾーンは無し」で整理 すると、こうなりました。

 患者全員が朝晩更衣し、食事は食堂に移動してとるといった回復期リハ病棟はただでさえ転倒・転落が起きやすいのです。さらにこの基準でみるとアクシデントは月約二五件、ほぼ毎日の頻度で起こっていることになります。

 インシデント・アクシデント報告を分析し、対策する医療安全委員会は、看護師長、病棟看護師、外来看護師、介護職、薬剤師、医師で、構成しています。

 インシデント・アクシデントは、時間帯や場面など「普遍的に分析・対策できるもの」と、特定の患者さんに多発 し、「個別対応が必要なもの」とに二分されます。特に後者の対策のために、委員会は毎週開催しています。一人につき何本も報告があがる患者さんが多く、早 く手だてをとることが求められるからです。また、結論も「いったんチームに戻って相談」というまとめ方はせず、委員会が主導性をもって提案・指摘を行いま す。個別対策した患者は、対策後はあきらかに改善され、アクシデントの報告が減少。この委員会を通して、病棟だけでなく、デイケアや受付まわりのホットな 悩みも共有できるようになりました。(木下直子記者)


 

shinbun_1314_01

●高松協同病院での転倒・転落の発生傾向●

 件数は、開設直後の3カ月間と回復期リハビリ取得以後の3カ月を比べると50件→83件と1.6倍化。入院患者の増加に加え、脳血管疾患の患者比率が高まったことが原因。年齢以上に疾患を重視しなければいけないことがわかってきました。

 また入院直後に転倒・転落が起こりやすいことは全日本の調査でも明らかですが、さらに同院では入院後2カ 月近くたったところにも山があり、3カ月以降も一定の頻度で転倒・転落が発生。時間が経てば減少する、という傾向ではありませんでした。ADL向上に伴う 新たな危険発生に留意する必要があります。

 また1日のうちで起こりやすい時間帯は、一般病床とは若干違いがありました(グラフ)。同院では朝6時に 出勤する「超早」という勤務を新設、多発時間帯にスタッフを厚く配置して対応。また、土曜はリハビリスタッフの早出も行い、人員を厚くしました。また現 在、効率的にできるよう転倒・転落危険度別の患者対応を検討中。

(民医連新聞 第1314号 2003年8月18日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ