民医連新聞

2021年4月20日

人権のアンテナを高く掲げ① 地域の力と全職員で“困った”をキャッチ 京都保健会

 今月から、貧困と格差に立ち向かう活動に着目するシリーズ、「人権のアンテナ高く掲げ」を連載します。全日本民医連第44期運動方針で、SWなどの専門職だけでなく医師を含む全職員が、個々の問題解決と制度改善へ向け行動する力をつける、組織的課題を提起しました。民医連が培ってきたその力は、コロナ禍の地域で役割を発揮しています。第1回は京都保健会のとりくみを紹介します。(丸山いぶき記者)

孤立予防パンフを地域に

 上京診療所と上京健康友の会は昨年、「地域住民の孤立を防ごう」プロジェクトを立ち上げ、今年1月までに、啓発パンフレット2500部を配りました。
 きっかけは、当時、同診療所で総合診療専攻医として研修中だった山田美登里さんが呼びかけた、地域診断会でした。地域診断とは、医師が患者を診断するように地域の強み(資源)と弱み(問題点)を可視化し、解決の優先順位や方法を考え、住民主体で地域をより良くする過程のことです。
 昨年7月、居宅支援事業所と地域包括支援センターも加わり、問題点を整理すると、独居高齢者が多く、コロナ禍で孤立が深まり、危機感を持つ人が多いことがわかりました。6月には独居の80代女性が風呂場で倒れ、救急搬送先で亡くなる痛恨の事例も。友の会事務局長の神野理恵さんは、「毎週友の会喫茶に足を運んでくれる人だった。活動自粛で発見が遅れたのかも」と悔やみます。

■見守り力向上への一歩

 パンフレットは友の会会員や地元の商店に配り小学校にも設置。さらに大きな力になったのが、種村さん夫婦の協力でした。夫・昌之さんは友の会役員で、妻・節子さんは京都市から委託を受ける地域の老人福祉員。節子さんが呼びかけ、ほかの老人福祉員も住民に配ってくれました。パンフレットには「ゴミ収集日だけど見かけない」「ポストに郵便物がたまっている」「よく迷子になる」など、異変を察知する見守りポイントが書かれています。「私たち老人福祉員も注意する点」と節子さん。昌之さんは「町内会長や小学校PTA、行政ともコラボして広めたい」と意気込みます。
 山田さんは「地域診断の仕組みをつくれた意味は大きい。民医連には協力してくれる環境がある。全国の研修医のみなさんも、思うことを口にしてみて」と話します。

1本のキャンセル電話から

 昨年10月のある土曜日、京都民医連中央病院で佐藤勝美さん(事務)は1本の電話を受けました。「予約検査をキャンセルしたい」―。しかし、外来は休診日。「何か事情がありそう」と感じ話を聞くと、しばらくして「実は仕事が減っていて」と話し始めました。
 電話をしたのは、宮原健さん(71)。年金と個人タクシーの売り上げで生計を立てています。コロナ禍で京都の観光客や修学旅行生が激減し、売り上げは前年比50%以上減の大打撃。「ひどいときは1日で2000円にしかならなかった」と宮原さん。過労で体調不良を訴え、数日前に同院を受診。医療費の窓口負担は8000円にのぼり、「こんなに払ってたら生活できん」と電話しました。
 佐藤さんは宮原さんに同院の無料低額診療事業(以下、無低診)を紹介し、週明けにSWが相談に乗ると伝えました。「最後は『絶対、月曜に行きます』と、安心した様子でした」と佐藤さん。

■ソーシャルワーク機能の強化を

 宮原さんは無低診を利用して通院を続けています。担当した医療福祉課の植松理香さん(SW)は「当院には“困った”を抱える患者に気づくアンテナの感度が高い職員が多い」と話します。無低診の更新面談に医事課職員を巻き込むなど、患者層を肌で感じる機会を持ってきたからです。一方「生活保護基準の引き下げで無低診の対象からはずれた人がコロナ禍で状況が悪化し、再び利用する例も増えた」と植松さんは言います。「あの人(佐藤さん)とつながれてへんかったら、治療は諦めてた。今では中央病院のファン」と宮原さん。
 民医連がめざす「ソーシャルワーク機能の強化」を、まさに実践する佐藤さんは言います。「コロナ禍で増えたお叱りの電話に傷つくことも多い。でも、喜んでくれる患者さんもいる。めげずにがんばりましょう」

(民医連新聞 第1735号 2021年4月19日)

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