民医連新聞

2021年5月6日

貧困と格差の先進国アメリカの実践から考えるSDH 京都民医連医師らが翻訳 多職種、医学生と輪読会ひろがる

 京都民医連では、『社会的弱者への診療と支援―格差社会アメリカでの臨床実践指針』を輪読して、SDHを考え合う学習の輪が広がっています。同書の翻訳に携わった京都・洛北診療所の小林充さん(医師)の寄稿です。

 京都民医連の医師と医学生が協力して翻訳し、松田亮三さん(立命館大学教授)と小泉昭夫さん(京都大学名誉教授)が監訳した『社会的弱者への診療と支援―格差社会アメリカでの臨床実践指針』を用いた学習会の輪が、京都民医連で広がっています。
 同書は、アメリカの臨床で、複雑な問題を抱える患者にどう科学的根拠をもって対応するかを、課題別に集めた教科書です。格差の大きいアメリカで、現場ではどんな実践が提案されているのかを学ぶことができます。各学習会から参加者の声を紹介します。

●新自由主義からの脱却を京都協立病院

玉木 千里さん(医師)

 医局の有志で集まり、隔週で30分間の輪読会をすすめています。医療における格差や不衡平(ふこうへい)の拡大を示すアメリカの実態に驚がくする一方で、旺盛に社会学的研究がすすめられ、格差や脆弱(ぜいじゃく)性の評価に耐え得るだけの、これほど豊富なデータが蓄積されている同国の先進性にうならされます。各種団体や組織、政府が、社会的弱者を救うための非常に具体的かつ実効性の高いスキームを提示していることに感激すら覚えます。
 新自由主義化がすすむ日本でも医療が経済の食い物にされれば、この書の内容が現実になります。新自由主義化から脱却し、「お互いさま、おかげさま」の精神で結ばれたコミュニティー基盤型の「繋がり」を取り戻せるかを問いかける書、とも換言できるかもしれません。現代の医療従事者に、ぜひ一読を勧めたい書籍です。

●多職種でぜいたくな学習会京都民医連あすかい病院連携室

神嵜 郁さん(SW)

 昨年10月から毎週水曜日の午前8時、医局での学習会にSWも参加しています。医師陣とともに読み合わせし、翻訳者代表の小林充医師による解説付きで、なんともぜいたくな学習会です。
 文化や社会保険制度など背景の違いはあるものの、日々私たちが現場で出会う患者の顔が思い浮かぶような、リアリティーのあるテーマが毎回扱われます。例えば、アルコール依存症の人やホームレスの人への支援がテーマの回。「(同様のケースが)あるある!」と共感するとともに、「あの時、もう少し踏み込んだ対応ができていたら」「あのひと声を掛けていたら」と思い返すことも多々あります。その後に、約7年続けている水曜朝のSW15分勉強会でも、つながるところが多く、より深い学びとなります。
 「疾病の源流にある社会」や「患者が置かれている多様な状況」を見つめる視点を養って、次に出会った患者には、より良い支援を届けたい! と毎回励まされる学習会です。

●医師になるために社会を学ぶ滋賀医科大学3年生

米谷 僚子さん

 「社会的弱者」は、民医連での医学生向け学習会参加を重ねるうちに出会ったキーワードです。今まで、あまりふり返ることのなかった社会的問題でした。しかし、医師になるということは、そうした問題にかかわっていくことでもあるのだと自覚させられました。
 そうなるともっと知りたくなってきたところに、学習会への誘いを受け、途中から参加しています。はっきり言って、さらっと読むだけでは頭に入らず、ひとりでは途中で投げ出しそうな文章です。しかし、先生たちが実際に経験したことに置き換えて説明してくれたり、意見をのべ合ったりして、刺激になります。参加者の職種がバラエティーに富んでいるところが強みでもあります。今年は事前に少し読みすすめておくことで理解度を高めようと思います。

* * *

 翻訳なので日本語がなじみにくく、アメリカの教科書なので制度的背景が違う分、こうした輪読会やディスカッションなしではとっつきにくいようです。一方で、内容に示された先進的なとりくみを日本で、そして民医連でできないものだろうか、と考え合うにはちょうど良い材料のようです。


『社会的弱者への診療と支援―格差社会アメリカでの臨床実践指針』
価格:3600円+税
発行:金芳堂
電話:075(751)1111

(民医連新聞 第1736号 2021年5月3日)

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