いつでも元気

2021年5月31日

まちのチカラ 潮風そよぐ福岡のオアシス

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

たちばな竹灯籠まつり(新宮町おもてなし協会提供)。

 福岡市の北に位置する新宮町。
 福岡都市圏の一部でありながら、海あり山あり歴史ありと福岡のオアシス。
 玄界灘に浮かぶハート形の相島もみどころです。
 豊かな自然と人々の暮らしが調和するまちの魅力を探りました。

感染対策をしたうえで取材しています

 福岡空港から車で30分、にぎやかな国道3号線を北へ走ります。東部に立花山、西部は海に面し、景色が次々と移り変わって新宮町に到着です。
 町の魅力を確かめるには、自分の足でゆっくり歩いてみるのがお勧め。山から海へ町を横断する九州オルレのコースがあると聞き、コースを開発した新宮町おもてなし協会の池田鉄平さんに案内してもらいました。
 「オルレ」は九州のおとなり韓国・済州島から始まったもので、もともとは済州の言葉で「通りから家に通じる狭い路地」という意味です。
 まずは九州自動車道高架下の佐屋バス停をスタート。「カンセ」という済州島の馬をモチーフにしたオブジェが目印で、頭が向いている方向に進みます。
 みかん畑や立花山麓ののどかな森林の道、戦場の名残ある城下町の街並み、発展している町中心部を抜け、美しい新宮海岸へ。変化に富んだ景色のおかげで12kmの道のりはあっという間。ゴールの西鉄新宮駅に到着しました。
 「山の高低差があるコースを歩いたあと、海へ出た時には感動します。ぜひオルレを歩きに来ちゃってん(来てください)」と池田さん。潮風が気持ちよく汗を拭ってくれ、五感が刺激されます。

イチゴ発祥の町

 福岡県といえばあまおうが有名ですが、新宮町は福岡県で初めてイチゴが栽培された町。明治の末頃、当時の日銀総裁であった高橋是清氏(後の総理大臣)が、フランスから持ち帰ったイチゴの苗を東京の自宅に植えました。
 その苗を博多の万屋の本家・堺豊三郎さんが分家を通じてもらい受け、植えたのが福岡県で最初のものと言われています。その後、“新宮いちご”はだんだんと有名になり、イチゴの生産者が増えていきました。
 「さまざまな栽培方法を研究したり、新しい技術をシェアしあったり、福岡の農家総動員で質の高いイチゴを作っているんですよ」と、ハウスの中でイチゴ栽培に精を出すのは中村農園の中村裕貴さん。形や重さを見分けながら、一粒一粒手作業で収穫します。
 イチゴで最も価値の高いエクセレントという等級は綺麗な逆三角形で、重さは37g以上あります。「あかい・まるい・おおきい・うまい」の頭文字を取って「あまおう」と名付けられただけあって、大きな実の中まで赤く、酸味と甘みのバランスが良いのが特徴。ぜひ新宮町が誇る真っ赤なあまおうの味をご賞味あれ。

ハートの相島

 新宮漁港から北西約7・5km、町営渡船で20分の海上に浮かぶ相島。空から見るとハート形に見えます。島の周囲は約8km。タクシーやレンタカーはなく、島の駅あいのしまで借りた電動レンタサイクルで回ります。
 街の喧騒とは対照的にのんびりとした島時間が流れ、そのギャップに少々混乱するほど。海女さんが素潜りしている姿を横目に、島の駅を出発してほどなく小学校が見えてきます。
 広々とした校庭の先には海が広がり、伸び伸びと遊ぶ子どもたちの姿が。学校にプールはなく、海上で遠泳の授業をします。この学習環境を求めて、内陸から島へ通学する漁村留学という制度もあるそうです。
 相島の名所といえば島の北東、長井浜にある古墳時代中期から後期にかけての古墳積石塚。その先の海上に見えるのは新宮町のシンボル鼻栗瀬。高さ20m、周囲100mで全体が玄武岩でできており、海食洞があるためめがね岩とも呼ばれます。
 ほかにも、遠見番所跡や龍王石などに立ち寄りながら島内を一周し、最後は島唯一の寿司屋「さかなのしっぽ」へ。玄界灘の天然鯛にこだわった鯛潮らーめんが島の新たな名物として話題を呼んでいます。
 スープをすすると鯛の出汁が口いっぱいに広がり、肉厚で焼き目のついた鯛の切り身とあおさ海苔の磯の香りが贅沢な一品。おだやかな海が広がる相島の景色とともに、ご堪能ください。

竹灯籠まつり

 町にはみそぎ払いの神事玉競りなど代々続く伝統の祭りと、地域の特産品がずらりと並ぶまつり新宮といった新しいイベントが数多くあります。
 7月上旬と11月下旬に行われるたちばな竹灯籠まつりは今年で5年目。まつりのある立花口地区は、昔は天皇家の「献上みかん」で栄えたみかんの産地でした。
 後継者不足などで栽培をやめる農家が相次ぎ、みかん畑が荒廃。竹薮となった荒地をなんとかしようと立ち上がったのが、消防団を中心とした20?70代の有志25人。竹を伐採し、その竹で灯籠を作り地域のまつりに仕立てることで、放置竹林問題への関心を集めました。
 「こんなに綺麗で幻想的なまつりになるとは想像していなかった。今では小学生たちが竹林整備のことを学習したり、竹灯籠をデザインしてくれます」と、たちばな竹灯籠まつりの立役者である堀田晴夫さんは微笑みます。
 人に優しく、生活空間と自然がゆるやかに交差する新宮町。新型コロナが収束したら、ぜひお越しください。

■次回は三重県紀北町です。


まちのデータ

人口
3万3643人(3月末現在)
おすすめの特産品
あまおう、立花みかん
相島特産かまぼこ、天然ひじき
アクセス
福岡空港から車で約30分
博多駅から普通列車で約20分
問い合わせ先 
新宮町おもてなし協会
(新宮町観光案内所)
092-981-3470 

いつでも元気 2021.6 No.355

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